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第二十話  レッスンその二(前)

 フィリスによるレッスン2は、ファウンデーションボールの戦術についてだった。


 彼女は、ポケットから、超小型のデータパッドをとりだす。見たこともない機種だ。表面のホイールを操作すると、空中に立体映像がうかびあがる。

「おおっ!?」


 僕は、思わず感嘆の声をもらす。

 宙港ロビー全体に、図式化されたファウンデーションボールのフォーメーションが、すばらしい解像度で立体投影されている。


「こんな鮮明なホログラフィー、はじめてみたな……」

「そうなのか? 研究所では、みんな使っているが?」


 フィリスの言葉が本当なら、このデータパッドは、軍用品かもしれない。それをあっさりと持ってくるなんて、オムニメンバーの一員とはいえ、問題はないのだろうか?

 まあ、それをいえば、自分があたりまえのように立ち入り禁止のここにいることが、そもそも問題なのだけれど……。


「さあ、まずは、わたしがシミュレートしてみたあたらしい戦術案をみてくれるか?」


 フィリスが、データパッドのホイールに指をかけると、空中の図形が、変化していく。


「これが、ゲーム開始時のあたらしいメンバー配置だ」

「えっ!? だ、だけど、このポジションは――」

「フォッグの濃度は、ゲーム中では標準。ただし、観戦用にはゼロに設定。プレイヤーの能力、現状のままで補正なし。敵チームは、最下位争いをしているラクーンに設定。プレイ速度は、八倍で。では、はじめるそ、カズマ」

「あ、ああ、でも、これ……」


 投影された図形が、リアルな選手の姿へとかわる。そして、通常の八倍の速度で、ゲームがはじまった。

 僕は、ひとまず言葉をのみこむと、空中でくりひろげられる小さな人間たちの試合を、観戦する。ここまでリアルな立体像で、架空ではあっても自分たちの試合をながめるというのは、なんとも奇妙な感じだった。

 ちょこまかと空中をとびまわるプレイヤーの間を、豆粒のようなボールがいったりきたりする。

 はじめはつよい違和感を持っていた僕だが、試合を観ていくうちに、どんどんと集中しはじめる。

 椅子の手すりをにぎっている僕の掌が、いつのまにか、じっとりと汗ばんでいた。


「これは……、ちょっと信じられないな……」


 前半戦が終了して、得点は、32-6。勝っているのは、僕たち、チーム・ドルフィンであった。


「では、比較のために、メンバー配置をいまのドルフィンのものに変更する。戦術も、いままで通り。さて、スタート」


 後半戦がはじまった。

 しばらく見つめていた僕は、だんだんとうつむいていく自分を感じる。どうにも直視できない現実が、そこにあったからだ。尻がむずむずして座り心地がきわめて悪い。

 ゲームは、やっとという感じで終わった。


「後半戦の得点は、10-28。トータルでは、42-34。8点差で、チーム・ドルフィンの勝利だ!」


 となりに座っているフィリスは、僕の方をむくと、にっこりと笑う。


「初勝利、おめでとう、カズマ!」

「……それは、皮肉かい?」


 僕の声は、かなりかたくなっている……という自覚がある。


「そ、そんなつもりでは……。すまない……」


 たちまちフィリスは、花がしおれるようにうつむいてしまう。


「いや、あやまるのは、こっちだ。自分たちのふがいなさに、ちょっといらだってしまって……、ごめん」

「あ、いや。わたしこそ、調子にのってしまって――」


 フィリスが皮肉なんていえるような子じゃないとわかっていながら、もやもやをぶつけてしまうなんて……。

 まったく、修行がたりない。


 僕は、気持ちをきりかえる。


「このシミュレートだけど、後半戦の展開と得点差は、じっさいのゲームとかなり近い。だから、信頼のおけるものだと思うんだけど、でも、前半戦のあれは……?」

「ああ、意外なんだろ?しかし、ファウンデーションボールというゲームを分析していくと、こういう解答も導きだされてくるのだ」

「ううん……。もう一度、最初のフォーメーションを見せて」

「了解した」


 縮小された僕たちのチームが、空間に投影される。


「うーん……」


 そこに表示されたものは、かなり……、というか、いままで見たこともない極端にかたよったフォーメーションだった。


 まず、自陣の三カ所のゴールを守るキーパーがいない。普通、どんな極端なフォーメーションでも、最低一名を守備側の最後の砦として配置するのだが、それが見あたらない。

 では、十二名をどう配置するするのかといえば、よくつかわれるディフェンスやフォワードという概念は、そこにはなかった。


 プレイヤーは、四人一組で、ひとつの構成ユニットとなる。ひとりひとりを頂点とする三角錐の形に宙にうかんでいると考えるのがはやい。このユニットが三つ、つまり三個の三角錐で十二名だ。


 この三角錐は、それぞれ三〇メートルほどの距離をおいて、自陣と敵陣の境界あたりに展開されている。


 フォーメーションだけを見ると極端に攻撃的な布陣のようだが、驚いたことに、プレイヤーは、剣とよばれる電磁ロッドを装備していない。剣は、ボールを持つ相手を攻撃できる唯一の装備だし、攻撃された場合に反撃するにも必要なものだ。


 そのことをフィリスに問うと、


「なぜなら、剣は、重いし邪魔だからだ。それに、得点に関係がないので……」

「関係なくはないだろう?」

「ファウンデーションボールを純粋にスポーツとしてみた場合、不必要な要素だ。べつに斬り合いしなくても、ディフェンスする方法はある。攻撃側としては、機動力と連携で、相手のディフェンスをぬければいい。それとも、剣をつかわないといけないというルールがあるのか、カズマ?」

「い、いや……」


 たしかにそんなものはない。おそらくあれだけ強力な武器をプレイヤー全員がまったく使わないという戦術は、想定外だったのだろう。


 これは、もともと、ファウンデーションボールの知識がまったくないフィリスだからこそ思いつくことのできた盲点だった。


「だから重要なのは、さっきもいった機動力と連携だ。そのために、チームを三つのユニットにわけた。サブリーダーと三人のプレイヤーで、一ユニット。これが、攻撃と防御をおこなう基本単位だ。一ユニットは、ほかの二ユニットと相互に連携して、役割をかえていく。無線がなくても、サブリーダーがつねに三人の動きを把握していれば、サブリーダー同士の簡単なサインで、リーダーは全体を把握することができる。この構成なら、訓練をつめば最高の機動力を発揮できる」


 フィリスは、うすい胸をはる。


「勝利のキーワードは、スピードだ!」

「ううん……」


 あまりにファウンデーションボールの常識からかけ離れた戦術だったが、理屈としては理解できる。

 僕は、フィリスにたのんで、いろいろなパターンの試合を、シミュレートしてもらう。サブリーダーの人員を変更したり、ユニットとして組み合わせるメンバーを入れ替えたり、みんなの個人データを調整し、試合の流れチェックしていく。


 じっさいの試合をしらないフィリスのプランには、いくつか穴もあったが、それは、僕の方で変更案を提示した。

 あっという間であったが、移行時間の終わりには、僕は、たしかな手応えを感じていた。


「ありがとう、フィリス。これは、いけそうだ」

「うん! あ、しかし、これを実行にうつすには、かなりの練習が必要になる。大変だががんばってくれ、カズマ」

「あ、ああ……」


 僕は、脳裏にチームメンバーたちの顔を思いうかべる。たしかに、一筋縄ではいきそうにない。

 あの個性的なメンバー相手では、ね……。


 それでも、僕は、かつてない高揚感を感じていた。

 こうなったら、やるしかない。


「よし! まずは一勝だ。宇宙の塵が太陽になるためのはてしない第一歩のために!」

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