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第十二話  小さな波紋

 ファウンデーションボールのクラブハウスから宙港ロビーへは、一度、主軸部メインスポークのエレベータエリアにもどらなくてはいけない。とはいえ、その距離はわずかだ。

 だが、僕には、それがとても遠く感じた。


 きのう見た光景が、目に焼きついている。


 あんなに小さな女の子がケーブル付きでないと生きていけず、生まれてから研究所以外、出歩いたことがないなんて……。

 しかもフィリスは、そんな自分の境遇をすこしも卑下することなく、凛とした笑顔を見せている。

 彼女の地球に対する想いがどういうものなのか、正直、僕にはわからない。


 あの青き星が、彼女が彼女である理由であり、守るべきものである、というのは、どういうことなのだろう?


 やはりそれもわからない。けれど、うつくしい地球を見つめるフィリスは、とてもおだやかな笑みをうかべ、その青い光の中にとけこんでいきそうなほどにリラックスしている。


 その神聖な時間を、僕が邪魔していいものだろうか……。


 フィリスは、僕に会えてうれしいといってくれている。

 けれど、それは、年齢以上に大人びたところのある彼女の社交辞令なんじゃないだろうか?


 そう思う一方で、ほんの数日ではあったけれど、フィリスとともに無言で地球を見つめる時間は僕にとって得がたいものになっていると……、認めないわけにはいかない。

 このニュートン04で、率直に、あの母星への想いを口にだせる場所などない。受けいれてくれる人もいない。


 僕は、ひとりで青き星を見つめるあの静寂の時間を愛していた。けれど、それは、その想いを分かち合うことのできる喜びを知らなかったからかもしれない……。


 なんだか不思議だった。

 いつも宙港ロビーにおもむくとき、僕の心は完全にフラットだった。それは、ニュートン04のどんな事件も生活も、僕の深部に食い込むことのないように慎重にコントロールしていた結果だ。

 僕の鎧はすべてのものをはじき返す。その鎧を脱ぎすてることのできる唯一の場所が、あの青き星の待つ部屋だった。

 そこを他人と共有するなどと、考えたこともない。

 けれど、いまは、そこにフィリスがいるということが、なぜだかとてもうれしい。


 それは、フラットであるはずの心に発生する大波だ。


 フィリスのことだけじゃない。

 自分のチームへと僕を誘うギュンター。

 それを知ったチーム・ドルフィンのメンバーたちの理不尽な怒り。

 はじめて最後まで時間を使い切った、チームの個別練習。

 それらのことが、あれほど強固であったはずの僕の鎧をつらぬき、心に波紋となってひろがる波を発生させている


 いま、宙港ロビーにいこうかどうしようか迷う僕の心は、もはやとうていフラットとはいいがたい。

 けれど、それは、以前ならそう思っていた嫌悪すべき心の乱れとはちがうもののように感じられる。

 そのことを(実際には決してしないが)、フィリスに話してみたいような気すらする。


「まったくどうかしているよ……」


 僕は、口の中でつぶやいてみる。

 本当にどうかしている。はっと気がつくと、僕は、父のIDパスを手にして、作業用エレベータのゲートをくぐろうとしている。

 僕の身体は、心よりもはやく結論をだしたようだ。


 まあ、いい。

 修正ならいくらでもきく。いまは、とりあえず流れにのってみるとしよう――。


すみません、区切りがわるくて短くなってしまいました。主人公のカズマが思ったよりも動いてくれなくて、ちょっとヤキモキしています。

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