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第十一話  チーム・ドルフィン(後)

 ファウンデーションボールの練習で、もっとも時間をさくのは、通常、フォーメーションの調整だ。


 直径三〇〇メートルの無重力競技場。その有効視界距離は、フォグの散布によって約五〇メートル。たがいに無線による意思疎通の手段をもたない十二人のプレイヤーと敵チーム十二名が、ランダムに運動する一個のボールをうばいあい、剣(電磁ロッド)で攻撃しあう。

 この状況下で、バラバラに行動していては、どうにもこうにもならない。なにがおこなわれているのかわからないうちに、プレイ時間は終了してしまう。

 そこで、各チームは、緻密な戦術プランのもと、各選手に様々な役割をさだめ、フォーメーションを組ませる。

 これは、より細分化してはいるけれど、むかしのサッカーやアメフトがとっていた戦術とよく似ている。平面でおこなわれていた競技が、三次元に立体化されたと思えばいい。

 フォーメーションの基本は、攻撃、守備の各プレイヤーが、どのように連携して動くかにある。

 これは、もう本当に各チーム、バラバラの状態だ。これが、正確、というものはない。そのチームに所属するプレイヤーのキャラクターによっても大きく異なるし、(うちにはいないが)監督によっても採用する戦術、フォーメーションは異なる。


 ちなみに、チーム・ドルフィンでは、こんな感じだ。

 まず、三カ所のゴールを守るキーパーに、ヤーコフ、リー、サイード。専任のディフェンスが、シェン、ラジュ、ヴラジスラーヴァ。守備的デフェンスが、ブロニスワフ、シィイン。攻撃的ディフェンスが、サラフィナ。攻撃専任のフォワードが、僕とアレッサンドロ、ワンダ。

 攻撃的ディフェンスのサラフィナとフォワードの三人以外は、定位置が定められている。

 配置としては、自分の位置から、最低三人は目視できるようになっていて、たがいに送りあうサインによって、全体の位置関係や状況を知ることができる。

 その状況は、プロテクトスーツに組み込まれたコンピュータの助けをかりて、ヘルメットのバイザーに座標位置として表示される。

 各人は、おのれの役割を熟知した上で、臨機応変に状況に対応して決められた定位置から移動し、たがいをサポートする。

 はっきりいって古典的かつ初歩的な戦術、フォーメーションだ。

 けれど、すべてがきちんと機能すれば、それなりに効果的だし、充分ほかのチームとも戦うことができるはずなのだ。


 そう、きちんと機能しさえすれば……。


 だが、それには、膨大な約束事をきちんと覚えて実行することが必要だ。十二人全員が、ひとつの生物のように連動して動かないと、とたんに破綻することになる。


 ドルフィン全員が?


 もちろん、そんなことは、不可能だった。


 いま、定位置についている僕の三〇メートルほどむこうを、手足をバタバタさせたシィインのプロテクトスーツが飛んでいく。

 その後を、コマのように回転しながら追いかけているのは、シェンだ。

 なぜ、ディフェンスゾーンにいなけらばならないふたりが、フォワードをぬいていくのだろう?

 だが、そんなことをいえば、フォワードのアレッサンドロの姿は見えないし(どうせ、単身で敵フィールドにつっこんでいったにちがいない)。ワンダがいるべき位置には、キーパーのリーがただよっている。

 練習を開始して、わずか一〇分。しかも、敵もいない、ボールも動かしていない、フォーメーションの調整練習で、どうしてここまでバラバラになれるのだろう?


 これは、一種の才能だね。


 僕は、うんざりしながらサインをだす。とにかく、全員を定位置にもどさなければならない。

 結局、もとの位置にもどるだけで、さらに二五分が経過していった。

 その後の練習については、もう、なにも語る気力がない。


 やれやれ……。


 こうして、一二〇分の練習時間を終えた僕たちは、ロッカールームへともどる。

 正直な話、僕は、どう考えていいかわからないほど、混乱している。

 僕の目の前では、十一人のチームメンバーが、だらだらしたり、喧嘩したり、文句をいいながらプロテクトスーツを脱着している。たかが、これだけのことがスムーズに進まないのが、うちのチームらしいところだ。


 でも、きょうは、まがりなりにも十一人そろっている。


 いつもの練習なら、こうはいかない。やれ、疲れた、突き指した、めんどくさい、こわい、やってらんないと、ほとんどのチームメンバーが、時間前にロッカールームにひきあげ、終了の合図とともにミーティングそっちのけで、帰宅しているところなのだ。

 それが、いくらお話しにならないぐらいの練習であったとしても、いま、十一人全員がそろっているだなんて。

 ニュートン04に、雪がふるなんてことがあるのだろうか? 気象コントロールにバグが発生するかもしれない。すこし心配になってきた。


「ちょっと、クロフォード」


 すでにタンクトップ一枚になっているワンダが、ヘルメットを脱いだだけの僕の頭をこずく。


「な、なんだよ」

「なんだじゃないでしょ! なんで、ニヤニヤ笑ってうちらを見てるわけ?」

「ニヤニヤ?」


 ワンダにいわれてはじめて気がついた。

 たしかに、僕の口許には、笑みがうかんでいる。でも、なんでと問われても、僕だってわからない。


「バーカ! 気持ち悪いんだよッ!」


 アレッサンドロが、吐きすてるようにそういいながら僕の脇をすりぬけ、去っていく。

 だが、べつに腹はたたない。

 僕は、なんだかくすぐったいような、鼻の奥がツンと熱くなるような、不思議な感覚にとまどっていたのだ。

 その時の僕にはわからなかったが、なにかが動きだそうとする予感にとらわれたとき、人は、そういう感触をあじわったりするものらしい。

 とりあえず僕は、プロテクトスーツの解放レバーに手をかけると、その重くぶ厚い鎧を脱いでいった――。


 本当にやれやれ、だ……。


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