第五十四章
「遅かったみたいね。って、何処かで見た顔がいるのは、気のせいかしら?」
「ええ、遅すぎよ?学生の頃から、肝心な時は遅刻ばかり。変わらないわね、その癖は」
遅すぎた邂逅は、二人の年月を埋める事はない。共に学び、共に歩んだ友人を。二人共に、忘れるはずがなかった。
「全く、息子にまで迷惑をかけて。本当なら反省してもらう所だけど、許してあげる。親馬鹿と言われるかもだけれど、今度ばかりは、ね。レイルの事は、あなたに任せるわ。無茶ばかりさせたら、足掻いてでもお説教に来るわよ?」
「ジェノスも来ていたのか。どう育てれば、あれだけの成長を見せるのか、問い質したい所だな。最も、それをする時間は残されていないが」
「別に、俺が育てたつもりはないな。安心しろ、後は大人の仕事だ。せいぜい、あの世から子供の世話でも焼いてるんだな」
共に認め合い、戦い合った二人だからこそ伝わる、最低限の会話。その答えに満足したのか、ノイエは足元から消滅していく。最後に、一人残す事となったレイルの顔を、目に焼き付けながら。
「父さん、母さん……。ありがとう、力を貸してくれて。二人にまた会えたし、俺も生きていける気がする。だから、心配しないで。一番大切な人を、見つける事が出来たから……」
レイルの瞳から、大粒の雫が零れ落ちた。本人さえそれに気付かず、周囲もそれを冷やかす真似はしない。今この瞬間が、どれ程の奇跡に満ちているのか、それを理解している為に。
「ああ、期待している。俺やレクトリアが歩けなかった未来を、レイルが歩いてくれる事を。さあ、時間が無い。最後の封印は、俺と母さんがやっておく。行きなさい、自分の未来へ」
振り向かず、振り返らず。レイルは前へ進んでいく。選んだのは、何よりも困難な、茨の道。だからこそ、彼はそれを選び、迷わず突き進んできた。時に間違え、過ちを犯したとしても。
「ミネルバ、ユーリも。あの子の事、頼むわね。誰に似たのか、一人で全部抱え込む子のようだから。ちゃんと、導いてあげて」
その言葉を背に、最後まで残っていたミネルバらも、その地を後にする。何かが崩れる音が響き、巨大な扉はその姿を失くしていった。二度と開かないよう、厳重なまでの封印を施して。
外へ出ると、辺りは宵闇に包まれていた。朝方に突入したにも拘らず、既に半日近い時間が経過していたのだった。立ち並ぶ、数多の軍艦。それらは全て、皇国軍が所有する物だった。
「全員、無事に戻られたようで。申し訳ありません、出迎えは静かに行う予定だったのですが、一部の将が騒ぎ、動ける者全員で来てしまいました」
船から飛び降りたのは、アッシュ一人。背後にいるのは、百数名の兵と将軍達であった。全員、先日の会戦で比較的に軽傷で済んだ者達。動ける兵全員、という表現は文字通りのものだった。
「そうか、まだ私を王と認めてくれるか……。皆、長く苦しい戦いは終わり、この地に平和が訪れる!各々、存分に休み、英気を養え!流した血を忘れるな、共に戦った朋友を、失った友を胸に刻め!この大陸における戦は、これが最後となろう!」
湧き上がる歓声に、大地が震えた。夜空には星が瞬き、あらゆる闘争の終結を告げる。




