第五十三章
「よく言った。同じ魂同士だ、暫く俺が相手をしてやる」
「また会えるなんて、思わなかった。神様がいるのなら、感謝するべき所かしら?」
レイルとリーエ、ミレの三人からすれば、見覚えのある姿。肉親として、あるいは戦友として。かつて杯を交わした、一人の戦士。
「父さん、母さん……。どうして、ここに―――」
「まさかとは思ったが、ここにいたか。毎度の事だが、遅いにも程がある。お前の息子がどれだけ苦労したか、分かっているのか?」
「勘弁してくださいよ、姉さん。中途半端な儀式のせいで、体を取り戻せたのがついさっきなんですから。それに一度なりとも、現世に戻された身です。またこうして戻れただけで、奇跡としか言えません」
ノイエ・トルマン、そしてレクトリア・トルマン。エルフ最高峰の魔導師と、魔族の王者がこの地に集う。それは奇跡以外の何物でもない、無敵の布陣。
「体を癒すだけの時間は稼ぐから、あなたは休んでいなさい。十分もあればいいかしら?」
「五分、それだけでいいよ。俺も戦うから。英雄の背中を見られるのに、休んでるなんて勿体ないしさ?」
レクトリアはため息を吐き、笑みを浮かべていた。似た者同士ね、と呟きながら。
「なら、一番美味しい所は譲ってやる。行くぞ、レクトリア。子供にばかり良い所を持っていかれて、少し寂しい気もするがな」
ノイエとレクトリア、レイルの三人が戦場へ戻っていく。クロハから渡された、最後のポーションを携えて。
「五分、だったか?その倍でも行けるが、いいだろう。母さん、休んでるならアヴェンジャーを俺に。やっぱり剣が無いと、少し物足りないんでね?」
「生意気な。良かろう、持って行け。壊すなよ?」
投げ渡されるのは、最高の魔剣。レイルと違い、ノイエは所有権も解放も許されていた。親子三代に渡る魔力を携えた剣が、その真価を発揮する。それが齎す物は、『破壊』という名の嵐。
駆けだしたノイエは、一足でファントムの頭上へ舞い上がった。振るわれる腕が発する風に乗り、自由に宙を舞う。振り下ろし、薙ぎ払う。手の延長であるかのように、自在に剣を振り回していった。
「目覚めろ、復讐者。仇成す者に制裁を下せ」
剣から発せられるのは、大量の魔力。所有者から吸収した魔力を、一度に大量放出するというのが、かの剣が持つ特性である。その一撃は山を割り、海を『砕いた』と言われる。その破壊の権化が、製作者に降り注ぐ―――。
「『契約に従い、我に従え、高殿の王。来たれ、疾風の現身。迸れ、灼熱の烈風。全て薙ぎ、悉く塵となせ』」
それに続くのは、桁違いの魔法の乱舞。詠唱を止める事なく、レクトリアは次々と魔法を口ずさんでいく。歌うように、軽やかに。決して傷つくことのないと思われた魔王が、徐々に後退していった。
「って、見とれてる場合じゃない。クロハ、少しだけでいい。俺の傍にいてくれ」
彼女の手を握り、レイルは詠唱を始める。原典の存在しない、彼独自の魔法を。
「『古の契約に従い、我に従え、冥府の覇王。冥府の炎よ、咎人を焼き、我を焼け。高殿の茨、払うは大地の雄叫び。風は滅びを、水には祈りを。君臨せよ、救済者。其はただ滅ぼす者』」
一節ごとに、レイルの呼吸は荒れていく。彼の体内では今、爆発を繰り返すように魔力の変換が行われていた。一瞬でも気を抜けば、それは表面へと現れ、彼の体を破壊していくであろう。鋼に勝るとも劣らない精神力が無ければ、到底扱えない術式。時折振るわれる衝撃波は、幾重にも重ねられた障壁により消し飛ばされる。それらは全て、クロハ一人による物。
「『外れた者に、魂の鉄槌を。開け、異界の扉。全てを携え、全て捕らえろ』」
「全く、無茶な魔法を……。レクトリア、あれを見たか?」
「ええ、はっきりと。本当に、私達って残念よね。あの子の成長を、近くで見守る事が出来ないなんて」
ファントムの足元から、白い光が湧き上がる。それは扉へと変化し、体を徐々に消し去っていった。《ヘブンズ・ゲート》に使用する術式を一から見直し、封印する為だけの魔法へと変化させた物。光に蝕まれた魔王の肉体は、完全にその姿を消し去られた。




