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Folktale-side DARKER-  作者: シブ
第二部
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第五十二章

 暗闇に鎮座する、一組の扉。そこから立ち上るのは、黒い光。傍にはルークとカーミラが立ち、完遂を見守っていた。足止めの為に様々な罠や人員を配置し、万全を期した。そのつもり、だった。

「『契約に従い、我に従え、光の化身。汝、空を制する者。遍く照らし、遍く救え。《ホーリー・バースト》』」

 頭上から落とされる、一筋の白い光。扉とカーミラの間に落ちたそれは、彼らに直撃を齎す物ではなかった。レイルの狙いはただ、二人を扉から引き離す事。

「貴様ら、行動の是非はこの際問わん。即刻儀式を破棄し、投降しろ。我々を相手にしては、万に一つでも勝ち目は無いと思え」

 リーエの恫喝が、空間を委縮させる。発せられる魔力は清流のように穏やかだが、抗えないまでの厳しさを兼ね備えていた。

「今更引き返す、なんて出来る訳がないでしょう?私はずっと以前より、この時を待っていたのですから。隊長に無実の罪を着せて追放し、しかもそれさえに気付かないあなたを、私は主と認める訳にはいきませんでした。娘やそこの少年には、ひたすら隠し通した想いですが」

「隠せてないけどな。気付いてたよ、あんたが魔王なりなんなりを、もう一度甦らせたいと思ってた事は。人が無い頭振り絞って、ようやく出した答えを。よりによって、ユウの父親が綺麗さっぱり、洗い流してくれるとはな」

 自分を犠牲にし、平和を求めるという手段。決して褒められたものではないが、それ以上の流血を強いる可能性が最も低かった。それを理解していたからこそ、レイルはそれを選んだ。全て、守りたいと思った人の為だけに。

「魔王だけではありません。私が最も信頼し、その背中を追い求めた人もです。それが誰なのか、十分理解しているでしょう?」


 正直に言えば、その考えには意思が揺らいだ。父さんが甦るなら、きっと母さんも一緒に出てくる。また二人に会えるのなら、と。でもそんな事が、許されるわけがない。一度死んだ存在は、二度と戻る事はないのだから。


「儀式は完了した。見よ、今こそ我らが真の主が目覚める時!」

 黒い光は扉の前へ落ち、一つの立体を形作る。かつて大陸に君臨し、あらゆる魔を統率した存在。魂のみとなっても、その威厳は健在である。そして、その場にいる誰もが平伏したくなるだけの、強大な威圧。

 ソレは、ただ両腕を振り回しただけ。生み出された風は衝撃波となり、周囲に襲い掛かる。すぐ傍らにいたルークとカーミラは、それにより壁へと吹き飛ばされた。出鱈目なまでの暴力に、ジェノスやミネルバさえ驚きを隠せずにいた。

「父上、私がお分かりですか?あなたの娘、ミレ・クルーガーです。申し訳ありません、今度こそ、完全に消滅していただきます」

 変わらずにいたのは、ミレのみであった。一人娘としてその背中を見つめ続け、いつか並び立ちたいと思っていた存在。それが今は単なる暴力の化身として、目の前にあった。

「俺にとっては、曾祖父って事になるのか。伝承で聞くだけの存在だけど、目の前にいるとこうも変わるなんてな。予定変更、俺も前に出る。術式は、直接撃ち込んでやるさ」

 絶望を前にしても、レイルは揺らぐことは無い。自分の後ろには、守りたいと思った相手がいるから。それに続くように、リーエも立ち上がった。通常であれば、一度折れた覚悟は、簡単に立ち直る事が出来ない。彼女が背負う物は、その程度で折れる物ではなかった、という証である。

「クロハ、援護任せる。とにかく魔力のありったけ、手当たり次第に放り込め。牽制さえしてくれるなら、後は俺達がやる。安心しろ、絶対傷一つ付けさせやしない」

「うん、信じてる。ずっと、信じてきたから。レイル君がいてくれる限り、私も諦めないよ」

 距離は離れても、心は傍に。クロハはそう言って、魔法の準備を始めた。今までの詠唱ではなく、大規模な魔法陣を地面に書き込んで。それはレイルと共に作り上げた、彼女にとって最大規模の攻撃魔法。陣と詠唱を重ねる事で、比較出来ない規模の破壊を生み出す、魔法の極致―――。

「『地を創りし英霊よ、呼び声に応じ姿を示せ。炎は風を生み、海原を駆ける。雷鳴は地に轟き、光は闇を照らせ。汝、時空を彷徨う者。万象を排し、力を振るえ。来たれ、常世の光槍。其はただ貫く者!《ホーリー・グレイヴ》!』

 詠唱文は本来、体内での魔力変換を効率よく行う為に使用される。魔法陣の使用は、より大規模な魔法行使で、というのが、昨今の常識であった。詠唱と魔法陣の併用は通常では考えられず、陣を敷く際にも魔力は消費される。詠唱、魔力変換の結果による陣作成は、その例外ではあるのだが。

 クロハの手から、一本の巨大な槍が生まれる。光が実体を形作るまでに凝縮された、神殺しの槍。神代、天使族により造られたとも言われるその槍は、あらゆる物理的防御を無効化する。

 投擲された槍は、一直線にファントムの元へ飛来した。途中の障害物を払っても尚衰える事のない、高濃度の魔力。それに乗じて、レイルとミレも懐へ飛び込んでいった。

「『契約に従い、我に従え。我は天空の覇者。卑賤なる僕よ、大地を駆け、常世を飲み干せ。荒野を巡り、海原を渡れ。流離の輩、流浪の朋輩。風を纏い、雷鳴となり大地を切り裂け。《ライトニング・エッジ》!』」

「それを使いこなすとは、流石と言うべきか。だが、まだ変換の際に無駄が多い。私から授ける、最後の教えだ。見逃すでないぞ」

 言って、ミレは上空へと飛び上がった。同時に辿り着く、光の槍。あろうことか彼女はそれに乗り、ファントムへと突き進んでいく。

「『契約に従い我に従え、氷雪の王。闇を閉ざし、光に舞え。生ある者に、等しき死を。《アイシクル・ソーン》』」

 飛び交う氷の棘が、ファントムに突き刺さる。闇属性を兼ね備える光で作られた肉体は、通常より光属性に耐性を持つ。それを多少なりとも軽減させる為、ミレは捨身の攻撃に出たのだった。

 突き刺さる槍は、ファントムの体を貫いた。減衰もせず、威力はそのままに。魂のみとなった存在には、痛みという概念が無かった。それ故、その巨体は怯みもせず、レイル達に襲い掛かる。

「畜生、術式を撃ち込む隙が無い!義姉さん、そっちは?!」

「私の魔法では、傷一つ付かないようです。母様、このままでは―――」

「分かっている。理解しているつもりだったが、認識が甘かったか。よもや、これだけのダメージを与えても、止まらぬとは……」

 誰もが悲嘆に暮れる中、クロハは止まらない。効果が無いと知っていても、魔法を撃ち込み続けていた。前衛の三人を、多少なりとも援護する為に。

「ウオオオオオオオオ―――!」

 咆哮が、大地を揺るがす。蓄積されてきた疲労がレイルの足を止めさせ、その場に崩れ落ちた。全滅、リーエの頭に、その言葉が過ぎっていく。

「まだ、だ……。まだ、やられるわけに……」

 彼の意志に反して、体は言うことを聞かなくなっていた。常に戦場にいた彼は、見えない所で負傷し続けてきた。その反動。肉体の数倍もある腕が、その頭上に降り注ぐ。

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