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Folktale-side DARKER-  作者: シブ
第二部
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第三十八章

「ま、こんなもんか?主な魔法陣は潰せたし、残りの魔剣もあれなら半日も保てないだろ。次は、あの前庭か……」

 城壁に立つレイルが見下ろすのは、城の門へと続く庭。そこにもまた数十もの兵が立っており、全員が改造された人形兵であった。外での騒ぎは、既に内部へ伝わっているはずの時間。将軍らしき人物が姿を見せない以上、ここもそれらのみによる防衛だと、彼は考えていた。しかしそれが過ちだったと悟るのは、その数分後である。

「残念、ここは行き止まりだよ?まあ、逃げ道も無いんだけどさ。おじさん達が、お兄さんは邪魔だって言うんだ。だから、今回は間違いなく、確実に殺すね」

 かつて出会った、歪んだ心を持つ少年。能力だけで言えば自身を上回るであろう相手を前に、レイルは笑っていた。

「無理だよ、お前には。守りたい物とか、助けたい人とか。そういうのがあるから、人は強くなれる。殺すとか奪うとか、そういう事しか知らないチカラなら、俺が負ける道理は無いな」

 守りたい人、守るべき物。それらを背負い、時には間違えながらも、彼は今日まで歩んできた。その重みが、重圧が自身を押し潰そうとしても。それらを単なる邪魔者としか捉えない彼に、レイルが退く理由は存在しない。

「そんな雑魚、僕が守る必要なんてない。弱い奴は、勝手に死ねばいいんだ。そんなに言うんなら見せてよ、お兄さんの本気をさ」

 立ち上る、多量の魔力による渦。本人さえも気付いていない、感情による暴走がその原因である。それに対しレイルは、後ろの少女を匿う行動を見せた。

「下がって、全力で障壁を張っておけ。周りの奴らも全部纏めて吹き飛ばす。安心しろ、誰にも指一本、触れさせないから」

 クロハさえも久々に見た、彼の笑顔。学園にいる間、その少年が笑った事は数える程度しかない。年相応の表情に、クロハが抱いていた不安は掻き消えていた。

「うん、任せる。負けちゃ、いやだよ?」

 振り向かず、少年は一歩を踏み出す。武器は手に持たず、魔法だけで決着を付ける。かつて逃走を選んだ時、彼は目の前にいる少年に敗北を喫した。

「『甦れ、奈落の覇王。闇より出で、光に還れ。久遠の闇よ、汝はただ飲み干す者。来たれ、《ダークネス・エデン》』」

「『光よ、遍く照らし、無へと帰せ。闇を照らし、魔を滅ぼせ』」

 レイルの使う魔法は、通常のそれとは規模が異なる。一の魔力量で扱われる物でも、常に数倍もの量を使用する為である。無駄遣いとも言われるが、大容量の魔力を誇る彼であれば、それは苦ともしない。対する少年は、術と呼ばれる魔法技術をほぼ全て習得している。その大半は対魔法に開発された、カウンターのような物が揃う。事実、レイルの周辺に展開された闇は、少年の放つ光により、悉くが霧散していく。

「噂には聞いてたけど、そいつは厄介だな。でもな、中和出来ない魔法なら、それも無意味だろ?『光よ、悠久となり敵を討て。永久の眠りから覚め、無へと誘え。其は闇の虜囚、我は汝の鎖を握る者。闇の支配者よ、光を喰らい、闇を貪れ。扉をここへ。全て飲み干し、闇よ栄えろ。《ホーリー・イノセンス》』」

「―――?!『闇よ、光を照らし飲み干せ。魔は栄え、光は滅びる』」

 光よりも明るい闇。その中に、一枚の扉だけが場違いに存在していた。術式だけを見て光属性と決めつけた、少年の過ち。闇属性に対して同属性を重ねた結果は、推測するだけ愚かな行為と言える。

 豪奢な大広間は崩れ、崩落した壁や天井が少年の体を覆い尽くす。辛うじて張られた障壁は役に立たず、少量の瓦礫を弾く事が精々であった。

「―――、今のは、一体―――?」

「相殺も出来ず、カウンターも存在しない、最悪の魔法だ。作った本人が言うのもなんだけどな、ある意味では失敗作なんだよ」

 手足の骨が全て折れ、自力では立ち上がる事が出来ない少年。そのすぐ傍へ、レイルは近づいていく。障壁に全魔力を注いだ結果、彼は死を迎えるのみの存在と化していた。それを、レイルは許さない。

「俺の魔力だ、ここから抜け出せる程度には分けてやる。術だか式だか忘れたけど、それだけの物を習得出来たんだ、立派な才能を持ってるじゃないか?何年かかけて、大陸を回ってみろ。きっと、守りたい人の一人は見つかる。他人からは疎まれるだけの俺でさえ、少なくとも二人に出会えたんだ。体を治すまでに、この戦乱だけは終わらせてやるさ」

 極わずか、それこそ骨折を治療出来る程度の魔力を受け渡し、レイルはその場を去った。その場に倒れた少年は、その後ろ姿に別の人間を見た。それはかつて、自身を救った男の姿。忘れていたはずのその姿を、レイルの背中に幻視したのだった。

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