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Folktale-side DARKER-  作者: シブ
第二部
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第三十九章

「まさか、あれを一撃で叩き伏せるとはな。貴様らは手を出すな、あれは私が相手をする」

 レイルを取り囲んでいた、十数人の一人。大陸東方の異なる文化圏、ヤパネスエリア。その将はその地に伝わる防具を着込んでいた。軍人とは違い自身の誇りのみを賭けて戦う、武人と呼称される存在。

「我が名はグレン・ムラカゼ。レイル・トルマンと言ったか、後ろの者に手出しはさせん、一つ手合せ願おう」

「クロハに手出ししないってなら、いくらでも受けて立つ。ノイエ・トルマンが嫡子、レイル・トルマンが受けて立つ。いざ、尋常に」

 広間に立つのは、二人の陰。クロハは遠巻きにそれを眺め、周囲にいた兵や将軍と見える人物らは全て、二階へと飛び上がった。ショウの父親であり、ヤパネスが誇る最強無敵の傭兵集団の長。最も本人はそれを認めておらず、未だ修行中の身と周囲には公言しているが。


(ムラカゼって、ショウの親父だよな?あいつと比べたら雲泥の差だぞ、この人……。教官ともいい勝負、って所か)

 吹き荒ぶ風にかき消され、俺の呟きは多分、誰にも聞こえない。壁も天井も壊したせいで、ここは既に野外と同じだから。でも流石に、詠唱する時間はくれない、よな?

「仕掛けて来ないか。ならば、こちらから参る!」

 俺の剣と比べれば細長い、かといってレイピアとも違う武器を持ち、目の前の男が飛び込んできた。横薙ぎに払われる一閃、それを紙一重で回避しておく。完全に避けたはずなのに、腹部は薄皮一枚を切り裂かれていた。

「へえ、それがヤパーナ秘伝のカタナ、って奴か。敵に対して尽くす礼は持ち合わせてないんで、こっちも本気で行かせてもらう」

 剣を構えず、ただ無造作に近寄っていく。狙う場所はただ一点、体の中心。脱力から一息に込めた力は、何よりも高い瞬発力を誇る、らしい。武人相手なら、魔法を使うなんてのは無粋に他ならない。何より、先の一撃で俺自身が望んだから。この男との、正々堂々とした一騎打ちを。


 一合、二合と剣撃が響き渡る。どちらも退く事なく、それは続いていった。時には力で、時には技で。響き渡る金属の衝突音。その場にいる誰もが、二人の戦闘に魅入られていた。

「全く、しぶとい、な!」

「貴様こそ、その矮躯にしてはなかなかにやる。どうだ、我が下で研鑽を積む気は無いか?」

 合間に響く、二人の会話。ほぼ全開での戦闘行動の割に、まだどちらも余裕を見せていた。

「ふむ、この私に付いてくる存在がいたとはな。やはり、まだ最強を名乗るには程遠かった。愉快、実に愉快だ。少年、貴様はどう思う?」

「ああ、教官以外で、こんなに楽しいのは初めてだよ。でもな、そろそろ終わらせてもらう。あいつが、不安そうな顔をしてるんでね?」

「確かに、少女が怯える様は見ていて不快だ。安心しろ、貴様を葬った後、すぐに跡を追わせよう」

 互いに、手の届かない距離まで間を空ける。結果はどうあれ、次で終わらせると言わんばかりに。男は武器を一度腰へ戻し、レイルは初めて剣を構える。グレンが取った姿勢、それこそが最大の一撃を生み出す方法と知らず、直感でそれを理解していた。

 足元が爆ぜ、二人の体が交差する。足はほぼ同時に止まり、それぞれが別々の箇所に傷を負っていた。レイルは左足から血を流し、その場に倒れていく。そして、一方は―――。

「まさか、我が人生最大の一撃を、超える者がいるとは、な。少年よ、その力で何を目指す」

「争いの無い、誰も傷つかない世界を」

「何処に志す」

「当然。俺の心と、傍にいてくれる、大切な相手に」

 グレンの左腕は吹き飛び、腹部には穴が開いていた。一瞬の交錯、その時に負った致命傷。レイルの答えに満足したか、彼は笑いながら地に伏せた。その体は、二度と動く事の無いままに。

「さて、後はあんたらか。クロハ、結界を解いてこっちに。残りの連中全部叩き潰して、この場所を落とす」

「うん、行こう!『四天を司る炎よ、仇成す者を浄化せよ。《フレイムウォール》』」

 死闘が、その幕を開ける。敵は数十といえ、全員が意思のあるヒト。対して、彼らは既に消耗しきった体。二人共に魔力は残り僅かとなり、疲労も頂点に達しつつある。それでも、彼らは歩みを止めない。ただ、目指すべき物の為に……。


「戦火を見て走ってきたが……。よもや、ただ二人でここを陥落させるか。無防備に眠りおって、仕様のない奴らだ」

 決戦の時は近く、今は一時の安らぎ。確かにあった筈の城は無残に崩れ落ち、一部の設備が残るだけであった。二人が体を休めるのは、数少なくなった天井と壁のある場所。かつてそこは、城の中心であり、玉座となっていた場所である。

「これが最後の休息となろう。仕方ない、今だけは私が守ってやろう。これが終われば、二度と我らが出会う事は無いであろうからな」

 今ではたった二人となった、自身の血縁。無邪気な寝顔を魅せる二人を背に、魔族最強の名は立ちはだかる。親として、最後に見せられる背中。消耗した魔力を補う為、今では姿は少女のそれと化していた。それでも背後にいる二人は、大陸の次代を担うであろう存在。その未来を守る為、彼女はその場に立ち続ける。


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