第四十章
「何故だ、何故このような事態になる!貴様、調整は成功したのではなかったか?!」
ライラの咆哮が、部屋を揺るがす。ジューカスにある全ての城が陥落したという報告は、その半日後に齎された。投入していた兵は伝令を除き誰一人戻らず、傭兵を含む将軍らも戻る気配は無い。完璧と踏み用意した作戦は全て、微塵に砕け散っていった。
「私の調整に、不満があると?確かに儀式魔法は崩壊し、手持ちの兵力はある程度削られましたが。それに、どんな問題があるというんです?総兵力だけで言えば、まだこちらに分はあります。あなたの頭なら、それでも十分足りるはずですが」
「奴らに交渉の余地が残る勝利など、到底意味が無いのだ!何故だ、何処で間違えたというのだ……」
ライラの焦りに、リエンは不可解だ、という表情を向けていた。確かに圧倒的な勝利であれば、敗者にはどのような要求でも叩き付ける事は出来る。現にかつての帝国が大陸を制覇した際、残存していた勢力に対して、ほぼ無条件の降伏勧告を突き付けていたのだから。彼の動機は、突き詰めてしまえば私怨と言っても過言ではない。現在の皇国首都、ルーカスは元々ライラの一族が管轄していた土地。それ故、都市名に彼の性が刻まれているのだった。旧魔煉軍が旗揚げされた場所であり、魔族の迫害が最も過酷であった地域であった。
「私は、故郷をこの手に取り戻す。その為には、奴らに余裕を残す和平など、あってはならんのだ。最早、次で最後にする他無いのか……」
焦りが思考回路を乱し、浮かぶ作戦はどれも採用には程遠い駄作ばかり。そしてそれは、皇国軍とすれば望むばかりの物であった。この戦争により、民間人を含む多数の人口が犠牲となり、大陸からその姿を減らしてきた。それは平和主義を掲げる国の方針から、大きく外れた結果である為に。
兵力はほぼ互角の、最後の会戦が着々と準備されていく。結果はそれこそ、神のみが知るであろう出来事。どちらも持てる力全てを注ぎ込み、勝者のみが大陸の全てを手に入れる事となる。
「準備の方はどうなっている?」
「ほぼ完了しています。回収された魔剣は全て、必要なだけの魔力を注入済みでした。まさか、あの程度の輩が担い手となっているなど、考えられませんでしたが。ともかくこれで、かの計画はすぐにでも実行出来る筈です」
とある城、地下に造られた部屋で、二人が話していた。明らかに、会戦とは無関係の準備事項。それは戦乱の陰に隠された、もう一つの後ろ暗い目的。皇国軍にとって圧倒的に有利であった戦乱はこの二人に操られ、不利な状況を作る手助けさえされていた。
「次でこの争いは、終結を迎えるだろう。だが、それでは足りない。我らには必要なのだ、絶対的な支配者が。それには、あの王では少々心許ない」




