第9話 ミハエルの説得開始
翌朝、ダンガスお父様はパーティーでの娘の蛮行の謝罪と改めて話の場を設けたい旨をお願いする封書をミハエル宛で出した。
まぁ返事が来るとしても明日か明後日だろう、もしかしたら週を跨ぐかもしれない。第三王子で派閥も弱いとは言え王族である事には変わりないのだから、きっと忙しいはずだ。
と、悠長に構えていたら……その日の昼過ぎに最近ハマっているアフタヌーンティーを味わっていると訪問者が来た。
そう、ミハエルである。
宿の女将が急いでお父様を呼びに来て、すぐさま俺と一緒にミハエルを迎えるため宿の入口から外に出る。
勿論つれてきた侍従数名も一緒についてきた。
王族専用の豪華な馬車が宿の前に止まっていた。
宿から出てきた俺達を確認したのか、馬車の扉を侍従が開けてミハエルが出てきた。
「御機嫌よう、ダンガス・エイモン男爵とアンナリーゼ嬢、そしてエイモン家の従者の方々。昨日は手紙を受け取って驚いたよ。まさかこんなに早くアンナリーゼ嬢と話せる機会があるとは思わなくてね、我慢できず公務を少し調整して訪ねてきてしまったよ」
父上は若干冷や汗を流しながら受け答える。
「は、話をさせていただけるのは大変光栄にございます……しかしミハエル殿下に足を運ばせてしまい誠に申し訳ございません。こちらから伺う旨をお伝えするのを失念しておりました」
「構わないよ、僕が勝手に決めたことだからね。それじゃあこの馬車に乗って、王城の遮音魔法の施された来客用の一室まで向かおうか」
「しょ、承知いたしました……態々わたくしどもの為にありがとう存じます。さあ、アンナリーゼも」
話を振られた。まあ無難に答えとくか。
「ミハエル殿下の御心遣いに感謝致します。誰かに聞かれたら少々困ることについて相談がありますので、王城のような強固な部屋を用意していただけて大変助かります」
「お礼なんていいさ、僕にこんなに時間をおかず接触してきたということは、何か事情があるのだろう? 王城に着くまでは他愛もない雑談に花を咲かせようじゃないか。では僕の手につかまって」
「はい、ありがとう存じます」
ミハエルにエスコートされて馬車に乗り、王城へ向かう。
その間は王都の最近のファッションの流行についてや、王家御用達の貴族向けレストランが最近オープンした、など本当に他愛もない会話が続いた。
数十分ほど時間がたった頃に馬車が停止した。
とうやら王城に着いたようだ。
ミハエルの護衛らしき人達が出迎える。
「お帰りなさいませ、ミハエル殿下。そしてようこそおいでくださいましたエイモン男爵家の方々。わたくしは、殿下の護衛騎士団団長のクニユロ・ショッファンと申します。用意したお部屋までご案内致します」
どこかで見かけた顔だと思ったら、ミハエルの護衛騎士団長だった。確かにゲームでも少し登場してたっけ。
この人もミハエルが病む原因になるんだよな、数少ないミハエルが信頼してる人なのに……ミハエルを庇って死んでしまうから。
陛下の呪いを主人公ちゃんと一緒に協力して解呪したミハエルは、帝国が呪いの原因だと突き止めて糾弾する。そしてそれを目障りに思った帝国が、移動中のミハエルを裏で繋がっていた邪教の信徒達に襲わせる。
この信徒達はただの信徒ではなく、邪教が作り出した暗部の強者達であった。
たまたま護衛が少ないところを狙われたミハエルは護衛騎士達を犠牲にしてなんとか逃げ延びるが、一番信頼していた護衛騎士団長を亡くしてしまう。
それがミハエルを待ち受ける未来だ。
そんな事を考えているとクニユロ団長の足が止まる。
「こちらが用意した『完全防音個室』となります。物理的にも魔法的にも外へ音が漏れる心配はありません。わたくし共は外にお待ちしますので、ごゆるりとお話しください」
通された個室はシンプルだが高級感を抱く飾り付けをしていた。
俺とお父様はミハエルに続き部屋に入る。
扉を閉めると外の音が完全に聞こえなくなった。
ソファに対面する形で座ると、早速ミハエルが尋ねてくる。
「それで、僕に用とは何かな? あぁ、もちろん授けの儀で僕を擁護してくれた事は感謝しているよ。手紙では蛮行だなんて書いてあったけれど、僕には勇猛果敢な騎士の様に見えたくらいさ」
「ミ、ミハエル殿下……あれは若気の至りと言うか、思わずとってしまった行いですので……」
「そんなに卑下しないでくれ、僕が君の言葉で救われたのは事実なのだから」
「そこまで仰られるのであれば……」
ミハエルは俺が想定してた以上に恩義を感じてくれていたようだ。
これなら『お願い』をしてみても受け入れてくれる可能性は高そうだ。
お父様にちらりと視線をやると、頷いてくれた……つまり交渉開始の許可が降りたという訳だ。
「ミハエル殿下、わたくしが神の御告げを受けたと申し上げたら……信じてくださいますか?」




