第10話 御告げの信憑性
「ミハエル殿下、わたくしが神の御告げを受けたと申し上げたら……信じてくれますか?」
俺がミハエルとの交渉を開始する前に、お父様にどこまで話すべきか相談していた。
いきなり全部のお告げを伝えても信じてもらいにくい。
そこで、ミハエルにピンポイントで効果のある「国王の病気を治せる」という御告げをメインに説得をすることにしたのだ。
「御告げ? あの時はそんな素振りを見せていなかったと思うけど……」
「はい、御告げを受けたのは授けの儀の夜でしたから……夢の中で受けたので信じてもらえるか自信がありませんが」
「ふむ……まずはその御告げを聞かせてもらっても?」
あぶなっ!……そこまで見ていたのかミハエルは。
咄嗟に御告げのタイミングを変えてしまったが、お父様も反応せずに聞いてくれてるからこのまま続けよう。
「はい、御告げの内容は陛下のご病気についてです」
「父上の……?」
やはり食いついた。
このまま畳みかけて勢いで納得させよう。
「はい……陛下のご病気を治せる平民が、今度おこなわれる平民向けの授けの儀で『聖女』のギフトを授かるのです」
「それは、本当なのかい?」
「……はい、わたくしが信奉する『風の神アイオロス様』に誓って」
「……なるほど、君が僕に話を持ってきた理由がわかったよ」
「え?」
嘘だろ?
まだ御告げの半分も伝えてないのに、何かまずったか……?
ミハエルは話を続ける。
「まず君は、カマロン兄上に御告げの内容を伝えても信じてもらえないと思った……どうかな?」
当たってる……いや、当然予想できる範囲だ。
「次に、君は嘘をついているね……御告げを受けた事、それが夢の中で受けたという事、この二つが嘘だね」
おいおい、そんな分かりやすい反応は俺もお父様もしてないぞ?
どうやって嘘だと確信したんだよ……
お父様がチラチラとこちらを見てくる。
御告げが嘘だったとバレてしまった……冷汗が背中を流れる。
「どうやら当たっているようだね。そして、これが僕には疑問なんだが……父上の病気を治せる平民が聖女として現れる。これは本当の事……いや嘘をついていない、と言うべきだね。どうやってそんな事を確信したのかは分からないけれど」
なんなんだ……このミハエルという男は。
平凡なんて言われてるが全然そんな人間だなんて思えないぞ。
「どうして僕がこんなに嘘と真実を言い当ててるか疑問を抱いているね。正直に言うと僕は幼いころから人の顔色を窺って生きてきた……優秀な兄たちと厳しく比べられ、軽くて扱いやすい神輿……傀儡としてしか見ていない人たちを相手にね。だから、相手が自分の何を見ているのか、自分をどういう評価で見ているのかについては、敏感に感じ取れるようになったんだよ」
なるほど、幼いころからそんな環境にいれば嫌でも相手の細かい言動から機敏に察することも出来るようになるか。
「君は僕のことを優秀だと思ってくれているようだが、それと同時に恐怖と侮りの両方を抱いているような節があるね。これも不可思議な手段でなにかを確信したからかな?」
「それは……」
「僕に嘘をついたことは不問に付すよ、内心どう思っているかもね。それより気になるのが、君が父上の病気を治す聖女の平民が現れる事を確信していることだ……君は、何を知っている?」
くっ……どうする?
ここで全部話すのは不味い……だからと言って嘘をついても確実にバレる。
お父様も疑惑の目で俺を見ているし、俺の選択によって今後の主人公救済の活動に悪影響が出るだろう……
どうする、俺。
とにかく……ここで大事なのは、嘘をつかない事、そして誠実である事だ。
まず攻略対象者がヤンデレになるというのは伏せた方がいいだろう、そんなこと聞いていい気分はしないだろうしな。
あとは異世界や乙女ゲームという概念も伝わりにくいから例え話で済まそう。
「……全てを話すとわたくしの都合が悪いので、話せる範囲でもよろしいでしょうか」
「構わないよ。エイモン男爵もそれで納得してくれるかい?」
「……殿下が仰るのであれば」
「ありがとう、それではアンナリーゼ嬢……話してくれ」
「はい……わたくしには生まれる前の、前世と呼ぶべきころの記憶があります」
「前世か……そういう話は稀に聞くね、ほとんど嘘や勘違いだと言われてるけど。君の場合はその前世が重大なカギになりそうだね」
「ええ、殿下の仰るとおり……その前世で、リーサント王国の物語を知る機会があったのです」
「この国の物語? という事は、その物語が父上や僕に関わっているんだね」
「はい、物語は聖女になる平民が主人公として活躍して愛する殿方と結ばれるという話で……庶民向けの恋愛小説と言った方が理解していただけるでしょうか」
「ああ、庶民の女性の間では貴族の嫡子に見初められて正妻として迎えられる……そんな夢物語が好かれているのは知っているよ。巷で広まっているのは小説ではなく広めの酒場で催される小芝居みたいだけどね。それなら僕はその平民の少女と結ばれるのかな?」
「そういう結末もあります。物語は複数の結末が描かれており、主人公の選択によって別の殿方と結ばれることもあれば……リーサント王国が更なる繁栄をしたり、帝国に滅ぼされる結末を迎えることもあります」
「それは随分と恵まれた物語だね。劇団によって劇の内容を多少アレンジすることはあるけれど、いくつもの結末を用意して観客の需要を満たすのは、並大抵の資金源じゃできない事だ。だがリーサント王国が滅ぼされる物語なんて小説にしろ劇にしろ、治安部隊に目をつけられて潰されるのが普通だ……君の前世とやらは、どうやらこの国の民ではなさそうだ、それに他国でわざわざリーサント王国の少女と貴族が結ばれる話の需要があるとは思えない……君にはまだ秘密がありそうだね」
マジでこの人鋭すぎない?
ボロが出る前に話をまとめるか……




