第5話 授けの儀
授けの儀が始まった。
まずは第三王子のミハエルからだ。
教会の内部はとんでもなく広いので、この授けの儀を行う儀式の間も千人は余裕で入れるくらい広い。
なのでうちのような木っ端貴族は遠くの方から壇上に上がったミハエルを眺めることになるのだが、いかんせん小さくて細かい部分は何してるかよく見えない。
大きな女神像の前でひざまずいてるのは何となくわかったのだが……ぼーっと眺めてると女神像が持つ大きな水晶玉が光った。
結構大きな光で遠くにいた俺にもわかるくらいだった。
すると立ち上がったミハエルがそばに立っていた教皇と大司教と何やら板のような何かを見ながら話しているみたいだ。
「ミハエル殿下のギフトは『魔導士』である!」
教皇の宣言に、周囲がざわつく。
「おお……!」
「魔術師ではなく魔導士ですか、やはり王家の方々は優秀なギフトを授かるものなのですなぁ」
好意的な反応がいくつか聞こえてくる。
しかし、それよりも多くの反応が否定的な意見だった。
「魔導士ですか……第一王子の『賢者』と第二王子の『剣聖』に比べると、一段見劣りしてしまいますな」
「然り。ミハエル殿下にはこの国を背負うには荷が重いのかもしれませんなぁ」
恐らく第一王子か第二王子の派閥の貴族だろう人たちが、よく通る声で皆に聞かせるように喋る。
……王族とはいえ成人してない小さな子供に浴びせる悪意とは、こんなにも理不尽に感じるのか。
確かに俺はヤンデレ攻略対象者に対して無礼な考えをもっている。
しかし、だからといって子供相手に一線を越えたおとなげない行為をしようとは思わない。
だから、この異様な雰囲気を止めてやりたい。
やりたいが、たかが男爵令嬢にそんな力もなく……ただ見ていることしかできなかった。
ミハエルは悔しそうな顔で耐えていた。
まだ十歳の子供が、大人たちから心無い言葉を浴びせられている。
多分、物心ついた頃からこんな扱いされてたのかもな……そりゃ性格が歪んだりもするか。
俺は主人公ちゃんだけ助かればいいと思っていたが、そんな事言ってられないな。
原作知識を使えば簡単にレアアイテムやレア装備を手に入れて効率的なレベリングもできる……はずだ。
この世界でもレベルは神の褒美という名で存在しているから、ミハエルもレベルアップをしまくれば多少の自信もつくだろ。
ついでに俺もレベルアップしたいし。
難点はレベルアップに必須な神の褒美をもらいやすくする事、つまり経験値増加の魔装具である古代のアーティファクトが複数手に入るかどうかだが……これは運に任せるしかない。
ある迷宮を特定の条件で最下層ボスを討伐するとドロップする魔装具だからだ。
まあそれはそれとして……ここまでミハエルを気にかけるのは、一番マシなルートの攻略対象者だからなるべく病まないようにしておきたいと言う打算もあるのは否定しない。
そんな事を考えていると、ミハエルの儀式が終わった。
「次、ムイアリークス公爵家トロスベリ公爵令嬢!」
次は公爵家の御令嬢か、学園生活をしていた原作では第二王子と婚約してたはずだが……既に婚約してるんだろうか?
トロスベリの授けの儀が始まる。
ミハエルと同じく女神像の水晶玉が大きく光る。
ミハエルと少し上くらいだな。
「トロスベリ公爵令嬢のギフトは、固有魔法『インフェルノ』である!」
「おお! まさか固有魔法を授かるとは……!」
「これは第二王子殿下の婚約も確定したようなものですな」
なるほど、この授けの儀で婚約が確定したんだな。
固有魔法は人類では再現できない強力な魔法で、消費魔力量が少ないのに威力や規模が凄まじく戦争では大活躍する特別なギフトだ。
第二王子の派閥は他国への侵略を推進しているから願ったり叶ったりだろう。
トロスベリはミハエルをちらりと見ながら勝ち誇った顔をしていた。
将来美人になりそうな整った顔だが、その顔は醜悪と言っていいほど悪意に満ちていた。
この歳であの性格か……なるべく関わりたくないな。
そんなこんなで授けの儀は進行して終盤に差し掛かり、底辺貴族である俺の番になった。




