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第34話 強くなる理由



無事に最下層ボスを倒した俺たちは、階段を下りて最奥の間にたどり着く。



ここだけは今までの平原と違い、はじまりの洞窟と同じ見た目の部屋だった。

こういう所はゲームと一緒なんだよな。


そんで、はじまりの洞窟にあった隠し部屋……実はあれって固定型ダンジョンに必ず存在するので、当然このダンジョンにもある。

ただし、隠し部屋が現れる条件はダンジョンごとに異なるので注意が必要だ。


意図したわけではないが……せっかく条件が揃ったので、ここの隠し魔装具をいただくことにしよう。

俺は内緒で隠し部屋を出現させるため、冒険者の少年少女たちに先に転移してもらうことにした。



「それでは皆さん、先に転移陣へ。わたくしは保持魔素量が少なくて転移酔いしそうなので最後にさせてください」


「あー、そっか。そういや転移酔いって動けなくなるほど酷い人もいるって聞いたな」


「じゃあ先にアタシ達が行って兵士の人に事情を話しておくわね! 担架を用意してもらって転移先からすぐに移動できるようにしておくから安心して」


「あはは……ありがとうございます」



ちょっと大袈裟だが、今はそれくらいの状態だと思ってくれた方が都合がいい。

戦士のフラッパ少年を皮切りに、次々と転移陣で乗って姿を消していく。


お父様とクジュエンフはその場に残った。

お父様が俺に話しかけてくる。



「それで、お前が最後に転移したがった理由は……はじまりの洞窟と同じように、隠し魔装具があるのか?」



うっ、流石はお父様。

俺の狙いがバレている。



「はい。わたくし自身には使い道が少ないのですが……条件が整っているので取得してしまおうかと」


「はぁ……それでは今すぐ取りに行きなさい。時間をかけると何か怪しまれるからな。魔装具の詳細は馬車の中で聞く」


「ありがとうございます」



俺はお父様とクジュエンフが順番に転移する間に、最奥の間の突き当たりに向かう。


この壁に触れた状態で『鼓舞の腕輪』を発動する。それが、隠し部屋を開く条件だ。

俺は壁に手を触れて、先ほどゲットした『鼓舞の腕輪』を発動させた。


すると、前と同じように、奥の部屋へ続く通路が現れた。

俺は急いで通路を進む。


奥の部屋の台座に置いてあるのは、魔宝石であるオパールを用いた魔力変換補助の魔装具、『夕焼けのオパール』だった。


その名の通り火属性の補助魔法に適した魔装具で、その消費魔力を10%軽減する効果がある。

例えば『フレイムエンチャント』などに使う魔力を節約できる優れものだ。


マナリアには既に光属性の魔装具を渡してあるが、火属性も使える彼女が装備したら戦略の幅も広がるだろう。

マナリアなら使いこなしてくれるはずだ。


俺は夕焼けのオパールを手に取り、この魔装具を創った神々に感謝して部屋を後にした。




最奥の間に戻ると、既にお父様たちは転移していたので、俺も急いで転移陣で地上へ戻る。


転移した先では、兵士や冒険者たちが待ち構えていた。



「アンナリーゼ男爵令嬢、ご気分はいかがですか?」



入り口を見張っていた兵士が尋ねてくる。



「あ、はい……少しふらつきますが、歩ける程度で済みました」


「そうですか……無理せず私たちの宿舎で休んでいただいても構わないのですが……どういたしますか?」


「馬車があるので、それで帰って休もうと思います」


「わかりました。一応、こちらに魔素回復ポーションがあります。緊急用に何本か備えてありますので、気にせずお飲みください」


「ありがとうございます……ではいただきますね。後ほど、使った分を補充していただけるよう、申請しておきます」


「ありがたく存じます」




俺は渡された魔素回復ポーションを飲む。

このポーションは、ゲームのように一気に回復するものではなく、魔素がじわじわと回復していくタイプらしい。

馬車で王都に帰る間に保持魔素量は半分くらいまで戻るだろう。



「それでは、わたくし達は馬車で帰ることにいたしますが……レックスさん達は大丈夫ですか?」


「ああ、こっちはもう少し休んだら歩いて帰るよ。日暮れ前には着くだろうから安心してくれ……今日は本当に助かった、ありがとう」



レックス少年がお礼を言うと、仲間たちも次々とお礼を口にした。



「何かお礼をしたいんだが、俺たちみたいな駆け出し冒険者じゃお金もないし、どうしたら……」


「では、お願いを一つだけ。わたくしの魔法や戦い方について、詳しいことは他の方に話さないでいただけますか?」


「それくらいならいいけど……それじゃお礼にならないって。他に何かないか?」


「そうですか……でしたら『誰かを助けられるくらい』強くなってください。それが、わたくしにとって一番うれしい事ですから……それではまた会う日まで、ごきげんよう」



俺は馬車に乗り、ダンジョン前から出発した。



「お父様、彼らの話し方は気になりませんでしたか?」


「あの子供たちに、貴族相手の作法まで求めるつもりはない……それより、ダンジョンでのお前の言動について、じっくりと聞かせてもらおうか?」


「は、はいぃ……」


「彼らを助けたことを咎めているのではない。その後、時間や戦利品を惜しんで安全を削った判断を聞いているのだ。実際、あの後に魔物が現れたら対応できたのか?」


「……それは、その……そこまで余裕を残せていたとは、言えません」


「だろうな……今回はうまくいったからよかったものの、お前が一人でダンジョンに挑むのは時期尚早だとしか思えなくなったぞ」


「そ、それは! その、今後は気をつけますので……どうにか許していただけないでしょうか……」


「はぁ…………お前の『二年間の計画』について、挑むダンジョンと主な魔物、攻略方法、魔力消費の見込み、それに撤退の基準まで書いておきなさい。安全に実行できる計画だと判断できれば認めよう」


「は、はい! 帰ったらすぐに取り掛かります!」


「それはそれとして、お前は自分の知識を活用する時に想定が甘くなる癖があるようだな。思えば、その傾向は普段の生活にもあったと今なら理解できる。そもそもお前は……」



お父様の説教は王都に着くまでの一時間、途切れることなく続いた。





とほほ……思い付きで欲を出すにしても、余力は残しておけってことだな……





◆◆◆◆◆◆◆◆◆






王都にやっと着いた……


げっそりとした俺は、気を取り直して宿の自室で着替えた後、マナリアの部屋へ向かう。


もちろん、先ほど手に入れた『夕焼けのオパール』を忘れていない。


俺は決めていた通り、三回、五回、三回と扉をノックする。



「マナリア、いる?」


「あ、アンナ様!? しょ、少々お待ちください!」



室内で慌ただしい物音がした。

そのまま三分ほど待つと、ようやく扉が開いた。



「お、お待たせしました……すみません、部屋が散らかっていたもので……」


「それくらい構わないのに」


「いえ! アンナ様を散らかった部屋に通す訳にはいきません! できればもっときれいに整えて、紅茶やお菓子も用意してもてなさないといけないくらいです!」


「そ、そう? ともかく失礼するわ」



うーん、まだ俺と話す時は緊張してるようだな……


もう少し踏み込んで仲良くなるべきか?

後で二人きりで『宵闇の古代都市』の攻略情報を共有してみよう。

ともかく、今は渡すもん渡すか。



「今日、ダンジョンの攻略をしてきたのだけれど、そこで獲得した魔装具をマナリアにプレゼントしようと思って……」


「わ、私に! プレゼントですか!?」


「え、ええ……」


「嬉しいです! あぁ、これも魔法の勉強を頑張ったご褒美でしょうか……」


「そういえば、魔法の指南書を渡していましたね。どこまで覚えられた?」


「全部覚えました!」


「え?」



いやいや、そんな馬鹿な……

学園で学ぶような、難しい中級者向けの魔法も載っていたはずだぞ?



「……内容を覚えた、ということ?」


「いえ、載っていた魔法は全部覚えました。まだ発動にちょっと時間がかかるのもありますけど……どうにかアンナ様が帰ってくるまでに習得できました!」


「そ、そう……それは、よく頑張ったわね」


「はい!!」



まさか、俺が戻ってくるまでに覚えないといけないと勘違いしてたのか……

元から要領のいい子だとは思っていたけど、普通は一個覚えるだけでも何か月もかかる魔法をこんなに速く覚えるなんて……これもギフトの影響なのだろうか?



「それで、アンナ様。プレゼントってどんな魔装具ですか?」


「『夕焼けのオパール』という魔装具で、火属性補助魔法の消費魔力を10%軽減する物よ。以前あげたものは光属性だけだったでしょう? これがあればマナリアがもっと活躍できると思ってダンジョンで入手してきたのよ」


俺は『夕焼けのオパール』を差し出した。

マナリアは両手で受け取り、しばらく黙って見つめていた。


「わぁ! きれいな魔宝石……こ、これを私のために……! 大切に使います!」


「そこまで喜んでもらえたのなら嬉しいわ」


「あの、それで……禁止区域のダンジョンに行くまで、次は何をしたらいいんでしょうか?」



えっ……どうしよう。

普通なら全部習得するのは学園に入る頃になると思っていたので、何も考えてなかったんだが……まさかもう次の課題が必要になるとは。



「……そうね。それじゃあ、明日は禁止区域のダンジョンについて共有しておこうかしら。階層の数や出現する魔物、パーティでの戦い方、最下層ボスの倒し方……伝えられることは他にもあるから、聞きたいことは何でも聞いてちょうだい」


「な、何でも……ですか! 私のためにそこまで……ありがとうございます!!」



う、うん?

そんなにダンジョンのことが知りたいのか……?

いや、確かにマナリアにとっては初めてのダンジョンだ。

しかも今のマナリアのレベルでは難易度の高いダンジョンでもある。

不安になって聞きたいことが沢山あるのだろう。


ここはマナリアのために、明日は満足するまで話をしてあげようじゃないか。



「では、今日は一度部屋に戻るわ。『二年間の計画』をお父様やミハエルに伝えるために冊子にまとめないといけないから……夕御飯は持ってきてあげるけど、それ以外は手が離せなくなるの……ごめんなさいね」


「い、いえ! 明日、アンナ様と沢山お話しできますし、全然問題ないです!」


「それならよかった。ああ、明日は覚えた魔法をどんな場面で使うと効果的かについても、一緒に確認しましょう。じゃあ、また後でね」



そう言って俺は自室に戻り、急いで『二年間の計画』を書き始めた。








どれくらい時間がたっただろう。

書くことに熱中して、すっかり時間を忘れていた。

時計を見ると、もう夕御飯の時間だった。


俺は一階でマナリアの分の食事を取ってこようと椅子から立ち上がる。



その時、部屋にノックの音が響く。


うん?

誰だろう……お父様が『二年間の計画』を確認しに来たのかな?



「アンナリーゼ・エイモン男爵令嬢、『殿下』より封書を預かっている。部屋には一人か?」



この声、確かミハエルの護衛の人だったはず。

何か進展があったのかな。



「はい、部屋には一人です。いま鍵を開けますので、少々お待ちください」



俺が急いで鍵を開けると、見覚えのある護衛が入ってきた。

目立たない冒険者のような服装をしているので、最初は違う人かと思ってしまったが……以前、城で案内された時に見た人だ。



「アンナリーゼ嬢、こちらが『殿下』の封書だ。確認して問題なければ、当日までに準備を完璧にしておくように」


「承知いたしました。確認いたします」




うーん?

先ほどから『殿下』ばかりでミハエルの名前が出てこないな……


もしかして、盗聴を警戒してる?

『殿下』をミハエルではなく、俺が所属する派閥の第一王子であるカマロンとして発言しろってことか?


違うかもしれないが、一応合わせておくか。



まず、手紙の内容は……?


おっ!

準備が思ったより早く終わったから、明後日には出立できるのか!

人員も確保して、道中やダンジョン内で必要になる物資も手配済み……とな?


流石ミハエル、仕事が早いぜ。


それじゃあ、護衛の人にはミハエルへ了解した旨を伝えてもらって……明日はマナリアとダンジョンの情報共有が終わったら、髪をしっかり隠して一緒に買い出しに行くか。

外出をさせても問題ないか、先にミハエルへ確認しておこう。


ダンジョンに必要な物資を実際に見ながら買っていくのも経験になるしな。

というわけで、俺は『殿下』への返答を伝えることにした。



「封書の内容について確認いたしました。内容に問題はありませんでしたので、その通りに進めていただくようお伝えください。それと、明日わたくしは荷物持ちの少女と共に準備を行い、『派閥のために尽力する』と併せてお伝えください」


「心得た。では、失礼する」



護衛の人はすぐさま帰っていった。

ミハエルの護衛の人も忙しいんだろうな、裏工作やらなんやらで。




それと、既にミハエルには『宵闇の古代都市』の情報は軽く伝えているが……万全を期すために追加資料を用意しておくか。



ミハエルの用意したパーティだから戦力も問題ないだろうし、マナリアも魔法を習得した。

ついでに『鼓舞の腕輪』や『夕焼けのオパール』も手に入ったし、これなら魔装具の回収はかなり現実的になったぞ。


……いや、油断するのは駄目だ。

今日、お父様に言われたばかりだからな……



ともかく、俺も今日中に『二年間の計画』と『宵闇の古代都市の情報』を書き終えてしまおう!


よし! 気合入れるぞ!!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆




夜も深まり、ほとんどの人が寝静まった時刻……ミハエルは自室で物思いにふけっていた。


考えていたのは、『影』から集めた情報についてだった。


先んじて偵察に向かわせた影がもたらした『宵闇の古代都市』の情報。

かつて存在したと伝わる『聖女専用の特別な魔装具』の情報。

アンナリーゼの動向を調べている『オリヴァー』の情報。


そして、『アンナリーゼ』の情報。




「まさか、『暁の平原』を護衛の手を借りずに攻略するとはね……」



自分の方が階位は上だ。

それに魔物に強い光属性を扱える点でも優位であると言えよう。


しかし、あのEランクダンジョンを一人で攻略するのは骨が折れるだろう。

それをアンナリーゼは、わずかな時間で攻略してみせた。


ミハエルは……一人の男として、負けた気がしていた。



「僕も強くならないと……」



強くなる……?

ミハエルは疑問に思う。


王になるため。

民を守るため。

答えなら、いくらでも挙げられる。

しかし、今彼女に負けたくないと思ったのは、それだけだろうか……?



「僕は強くなって……どうしたいんだろう……?」






答えは出ず、月だけがミハエルを見ていた。








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