第29話 報告と相談と
「その話、詳しく教えてくれないかな?」
いつの間にか開いていた扉の前に、見たことがないほど笑顔を浮かべたミハエルが立っていた。
えぇ……いつからいたの?
なんか雰囲気が怖いんだけど……
「ミハエル殿下、わざわざ宿まで来なくともご連絡くださいましたらわたくしから向かいましたのに……今は、マナリアと先日カジノでの出来事について話していただけです」
「ああ、そういえばカジノで稼ぐと言っていたね…………まさか、そこでオリヴァーに出会ったのかい?」
「ご明察の通りです、殿下。カジノの詐欺行為を逆手に取って元手を三倍に増やして帰ろうとしたら、オリヴァー様に絡まれました」
「詐欺行為を逆手にって…………君、あそこのカジノで三倍以上の額を稼いだらブラックリストに載るし、それ以上稼いだら奥に連れて行かれるのも知ってたんじゃないのかい?」
「わたくしの知識では三倍はギリギリセーフだったので一度しか行かないカジノなら大丈夫かな、と……」
「それに絡まれたって……それでなんでオリヴァーの側室になる、なんて話になるのかな?」
「一応長引くと不味いと思い、最低限のゲーム数で稼いで帰ろうとしたらオリヴァー様に見抜かれました。そして、そんな面白い奴なら俺のところに来い……みたいな感じで勧誘されまして」
「ああ……なんだ、それがオリヴァーの側室になるってことなんだね」
「はい。あとは、養女でも構わないとも仰られてました。このままだと執拗に絡んできそうだったので、学園の闘技大会で決着をつけようと提案しまして、それまでは無理な勧誘はしないことを約束してもらいました」
「…………あのさ、確認したいのだけど……君の知識ではオリヴァーはどういう人間だと認識してるのかな?」
「愛した人と心中する可能性のある危険人物です」
「ならその提案はしちゃ駄目なんじゃないか!?」
いや、それはそうなんだけど。
あの場の雰囲気的に簡単に断れるような状況じゃなかったんだよ……
でも、安心してくれミハエル。
別に無計画に承諾したわけじゃないんだよ。
「大丈夫です、殿下。闘技大会までに階位を上げれば普通に勝てる算段があるので」
「そういう問題じゃない! 君はどうして自分を賭けの景品なんかにしたんだ! 負けてしまったらどうするつもりなんだ!?」
「わたくしの『知識』通りなら負けません」
「……だからその知識を信用しすぎてるのが一番心配……………………いや、もう今はいいよ。それで、君の計画ではどのようなことをするんだい? オリヴァーはあれでも人位上級だったはず……学園に入るころにはもっと階位を上げているだろう。普通の手段じゃ彼には勝てないよ」
「それは問題ありません。レベル……階位に応じた最適なダンジョンを隠し魔装具の貢献値上昇効果を最大限利用して、二年間でレベル50……空位下級十段まで階位を上げようかと思っているので」
「二年!? 君は、戦いに身を捧げた人間が二十年かけてようやく空位下級になれるのを知らないのか!?」
いやいや、それは流石に知ってるよ。
お父様が雇った講師も口を酸っぱくして、いかに階位を上げるのが大変か教えてくれたから。
でもゲーム知識を総動員したら可能なんだよね。
……ただ、ゲーム開始時点の学園入学時にレベル50もあるキャラがいると考えたら明らかにゲームバランスおかしいとは思うだろうな。
でも、そんなおかしい事を出来ちゃうのがこの世界なんだよなぁ……原作知識というチートがあるから!!
「普通の貴族や冒険者ならそうでしょう……ですが、わたくしなら可能です」
「…………もしかして、前に言っていた強くなる方法がまだあるのかい? 武人の鍛錬二十年をどうにかする強力なものがあるなんて……とてもじゃないが信じられないよ」
「わたくしなら可能な手段があります。隠し魔装具を装備できる限界まで身につければ普通の人の五倍近い早さで神の褒美を得られるようになりますので」
「神の褒美が……五倍……!?」
「そして階位に応じた最適な狩場や他にも効率を上げる方法を知っているので、ざっと二年あれば空位下級まで到達することは可能かと」
「…………」
ミハエルはあまりのことに呆然としていた。
「は、ははは……君と話してると常識と言うものがあっさりと崩れ去ってしまうよ……」
ミハエルが力無く椅子に座る。
まあ、この世界の常識で考えたらゲーム攻略RTAみたいなことをする人間なんて意味不明だろう。
「それで、学園の闘技大会まで無理な勧誘はしないという約束みたいだけど……それって彼が君に関わること自体を否定するものではないよね。そこはどう対策するんだい?」
「え?」
「もしかして、考えてなかった……?」
「……はい、勧誘できないなら絡んでくることもないだろうと思ってましたから」
「はぁ……仕方ない。念のため僕の方でも動きを調べておくよ。君も情報を集めておいてね」
「はい……善処いたします……」
「………………それにしてもオリヴァー、か。どうしてアンナを狙うのか詳しく調べなきゃいけないな」
「? 何か仰いました?」
「いや、独り言だから気にしないで」
「はあ……」
そんな俺達を黙って見てたマナリアが、おずおずと手を挙げる。
「あの、よくわからないのですが……アンナ様はこれから二年間、ダンジョンに挑み続ける……ということですか?」
「そういうことになるわ。そうだ、お父様にも社交会よりダンジョン攻略を優先すると伝えないと……」
「わ、私もアンナ様と一緒にダンジョンに挑戦したいです!」
「え?」
マナリアが突然ダンジョンに挑戦したいだなんて……なんで?
「それは、どうしてかしら?」
「私、アンナ様に助けてもらってばかりだから……恩返しがしたいんです! 聖女の力があれば、もらった魔装具の力も合わさってアンナ様のサポートができると思うんです!」
「ああ……そういうこと……」
『授けの儀』関係で助言したり気に掛けてたから、負い目というか借りがあると感じてるのか。
うーん、気持ちは嬉しいんだが……多分ムリなんだよな。
「マナリア、君は聖女として国と民に奉仕しないといけなくなるから、アンナリーゼ嬢と一緒にダンジョンに挑むのは厳しいね。少しくらいなら可能かもしれないが……」
「そんな……」
ミハエルが将来訪れる聖女の境遇を説明すると、マナリアはひどく落ち込んだ。
ミハエルの言う通り、マナリアは国王夫妻を助けたらその後は聖女として活動することになる。
とてもじゃないが、各地を飛び回る俺に合わせてダンジョンに挑む余裕はないだろう。
でも、将来マナリアには魔王との戦いが待ち受けている。
レベルを上げるのはその点で考えてもやっておいた方が良いのは確かだ。
何かいい方法はないかな……あっ、そういえばアレがあったな。
「学園に入るまでの二年間でも、一緒にダンジョンに挑める機会はもっと作れるかもしれません」
「本当ですか!?」
「ええ、頻度は多くないけれど可能だわ……詳細は決まってから教えるから、しばらく待っててね」
「はい! 私、待ってます!」
これでマナリアは大丈夫だろう。
そういえば、マナリアの発言で思い出したが……ミハエルもレベル上げさせて自信をつけてもらいたいんだよな。
なんか手助けするか。
「そうですわ、殿下もお望みなら一緒にダンジョンに挑戦しませんか? 殿下の身はわたくしの空間魔法でお守りしますので、安全に階位を上げられますよ」
「普通そこは僕が守る側になるんじゃ…………マナリア、僕ってそんなに弱そうに見えるかな……」
「い、いえ……そんなことは、ないと思います。アンナ様が……その、特殊なのかと……!」
「ありがとう、少し救われたよ……」
おぉ?
なんか二人の距離が少し縮まったか……?
その調子で今後も仲良くしてくれよ。
「とりあえず、君と一緒にダンジョンに挑戦できるのは僕としても嬉しいよ……後で詳細を教えてくれないか?」
「はい、承知いたしました」
「それと、君がオリヴァーに負けそうにないのは理解した…………うん、本当にほっとしたよ……」
「殿下も心配性ですね。カジノの件で油断は禁物だと学びましたから、今度は二年間かけて準備します。負けるなんてありえませんわ」
「ああ、そう…………それはともかく、ダンジョン攻略のために各地を回るなら、行き先くらいは僕にも教えてほしい」
「承知いたしました」
「……都合が合えば、僕も一度くらい同行していいかな?」
「もちろんですわ、殿下。では後ほどダンジョン攻略スケジュールを書いたカレンダーをお送りいたします。マナリアにも渡すから準備しておいてね」
「はい! これからアンナ様に会える機会が減ってしまうのは寂しいですけれど……その分会えた時に嬉しくなるってことですからね! 私、頑張ります!!」
「え、ええ……頑張ってねマナリア…………あっ、そうですわ。どうせなら殿下専用のおすすめダンジョン攻略手順書をお作りいたしましょうか? わたくしもそこのダンジョンに通って周回する期間があるので、その時に手取り足取り事細かにお教えいたしますわ」
「あ、うん、お願いするよ………………なんか、思ってた流れと違うんだよなぁ……」
ミハエルが何か小声でつぶやく。
「何か仰いましたか?」
「いや、何でもないよ」
? まあいいか。
早速ダンジョンに向かうためのスケジュールを頭の中で調整してるんだろうか。
ミハエルもやる気だな。
この調子で自信をつけてヤンデレ化を回避してくれると嬉しいんだが……ま、俺の攻略手順書の通りにやれば強くなれるし自信もつくだろ!
問題ないな、ヨシ!
そんじゃ、帰ったらお父様に報告して旅の準備をするか!
オリヴァーには悪いが、二年間みっちり鍛えてフルボッコにしてやんよ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その頃、オリヴァーは王都の邸宅で、執事に命じて魔装具と魔宝石を集めていた。
「若様、いったいどうなされたのですか? 急にダンジョンで階位を上げるなど……若様はすでに人位上級八段。学園への入学を控えた他の貴族と比べても、階位は十分に高いのでは……?」
「……絶対に負けるわけにはいかない勝負がある。二年後だがな」
「二年後……? 学園で何かおありになるのですか?」
「まあ、そんなところだ」
「まさか、第一王子派のどなたかと決闘でも?」
「いや、違……くはないか。アイツは第一王子の派閥だもんな」
「若様がそこまで警戒なさるとは……どのような御仁なのですか?」
「面白い奴だよ。今まであんな奴は見たことがない」
「そのような御仁がいるとは……第一王子派閥はやはり侮れませんな」
「そういう訳じゃないんだが……まあ、いいか」
オリヴァーは楽しげに魔装具を吟味していく。
「アイツのあの顔……俺に勝てると思ってるんだろうな……」
オリヴァーは手にした魔装具を眺め、ニヤリと笑った。
「二年後が楽しみだ」




