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第28話 第二攻略対象者



「お前、『サイン』知ってるだろ」







その言葉に、思わず振り向いて――――


動けなくなった……





ときクラの第二攻略対象者、オリヴァー・リュキール。


バッドエンディングでマナリアと心中する、最悪のルートを辿る男。


なぜ、こんなところに……?

いや、今はこの場をどう乗り切るか考えるべきだ。


この男とはできる限りかかわりを持ちたくない……無知な少女のフリを継続して、他人のままの関係を狙うか……



「ええっと、あなたはどなた?」


「さっき明らかに俺の顔見て反応したのにそりゃないだろ。まあ、一応名乗っておくか……俺の名はオリヴァー・リュキール。これでも侯爵家の嫡男だ」


「ワタシはアンナリーゼ・エイモン。エイモン家の次女なの……それで、これだけ大勢の客がいるのになんでワタシに……?」



「俺みたいに授けの儀が終わって間もないのにカジノへ来る奴はろくな奴じゃないと思ってな、お前がカジノに入ってきた報告を聞いた後に、ずっと観察していた。いつ破産して泣きわめくんだろうってな」



うわっ、嫌な奴だな……


そういえば、ときクラでもこんなだったっけ。

他人の不幸でメシがうまい!ってタイプ。


こんな奴にも地球ではファンがいたってのが驚きだ。

実際に相手させられる側になってみたら、絶対に後悔するだろうよ……



ともかく、好かれないようにやり過ごすことに集中しよう。




「残念だったわね、ワタシが破産しなくて。それじゃもうワタシに興味なんてないんだから、帰ってもいいわよね?」


「なあ、さっきからしてるお前の言動も演技だろ? 今思い出したが、授けの儀の後でパーティーを行った時にトロスベリのガキと言い争ってたよな、その時の口調と全く違うじゃねえか。それに侯爵家の嫡男相手なら、派閥は違えど普通は媚びへつらうだろ。それをしないってことは好かれたくない……関係を持ちたくないとかそのあたりか? ディーラーが『サイン』を出すたび、賭け方が変わっていたことといい……詰めが甘いな、お前」


「あなたみたいな人と関係を持ちたいと思わないだけよ。それに、サインに反応しすぎ? ワタシは勝ちもすれば負けもしてたの。大きな勝ちと言えるのは、バカラをやめる時の1ゲームのみだから……サインなんてものを知っていれば、もっと早くに稼いでカジノを後にしたでしょ」


「わかってないな……その勝ち方、『法則を見つけた貧乏貴族の勝ち方』だって理解してないだろ。お前、大きく勝つのを避けていたな。代わりに小額の勝ちが多く、対して負ける時は最低額で回数も少ない。金のない貧乏貴族が法則を見つけた時にやる賭け方だ」


「っ!」


「それに、お前の今の獲得額は入場時の三倍程度……丁度このカジノで警戒されて稼げなくなる額だ。だから帰ろうとしていた……違うか?」


「…………」




ミハエルといいオリヴァーといい、王族や高位貴族の十歳はどうなってんだ……


お父様の忠告を思い出す。


『お前の想像を超える人物はごまんといる……くれぐれも気をつけなさい』



気をつけてたつもりだった。


最低限の稼ぎでカジノから手を引く……完璧とは言わずとも、見抜かれて指摘されるようなミスはしてないと思っていた。


だが、このオリヴァーには通じなかった。

他の客も気にかけないといけないカジノの職員は誤魔化せても、『俺だけ』を観察し続けたコイツの目はあざむけなかった……悔しいが認めなければならない。

コイツも、お父様の言っていた『想像を超える側』の人間だと。


仕方ない、ひとまず演技は止めよう。



「……オリヴァー侯爵令息様はわたくしに何をお求めなのでしょうか? 」


「ようやく諦めたか。そうだな……お前、第一王子派閥だったよな」


「そうですが……それがなにか?」


「お前、第二王子派閥に来いよ」


「は?」


「腹芸は苦手そうだが……どうやったか知らんがサインの情報を得られた手腕もあることだし、多少は頭も回るようだ。脳筋ばかりの第二王子派閥で文官として働け」


「……はあ…………はあ?」



何言ってんだコイツ。

俺が文官?

別に頭が良いわけでも何かの才能があるわけでもないんだぞ……ただ前世の知識があるってだけで。

いや、そうか……ミハエルみたいに相手の細かな言動から察してるのではなく、ただ俺がカジノで見せた結果のみで判断すれば……サインを利用できる程度に頭の回る、年齢に対して早熟な子供には一応見えるか。


ここはサインを知った経緯をそれっぽく捏造して、幻滅してもらう流れにした方がいいな。



「オリヴァー侯爵子息様は勘違いされてるようですから申し上げますが、わたくしは文官として雇われるほど政治や経済に明るくありませんし、なにより賢くないのです。今回わたくしがカジノのサインを知ったのは、『日常会話で迂闊にサインのことを話す人』にあたりをつけて風魔法で遠くから声を集めた結果です……範囲を広くし過ぎると雑音が酷く聞き取れないので大変でしたよ」


「ほう? 戦闘では軽視されがちな風魔法でそんなことができるとはな。いいぞ……第二王子派閥には、そういう捻くれた考えをする奴が必要だと思ってたんだ」



げっ、なんか逆に好感度上がってるぞ!?

これくらい誰でも思いつくだろ!?


そんなに人材不足なのか、第二王子派閥は……



「いや、ただの文官じゃなく武官の参謀の方がいいかもしれんな……」



「ちょ、ちょっとお待ち下さい。どちらもわたくしには荷が重すぎますし、なによりエイモン男爵家は第一王子派閥に属しているから援助をしてもらい、なんとか領地を運営できてるような状態なのです。武力が重視される第二王子派閥では援助も望めず、早々に立ち行かなくなります」


「ああ、男爵家ごと来いと言ってるんじゃない。お前だけ来いよ」


「え?」


「学園を卒業して成人したら俺の家に側室として嫁げ。どうしても嫌なら、侯爵家に養女として迎えるから第二王子派として働け」


「………………はあ???」



もう一回言おう。


何言ってんだコイツ……


そんなん断るに決まってんだろうが!!

バッドエンドで心中する相手が俺になるかもしれないのに嫁ぐ選択肢なんかあるわけねえ!



「お断りいたします」


「おいおい……男爵家の次女が俺の側室か侯爵家の養女になれるなんて本来喜ぶことだぞ?」


「わたくしは自分の力量を把握しているつもりです。侯爵の側室? 養子? そんな耐えられない重荷を背負ってこの先の人生を送るなんて、御免こうむります」


「……どうやら普通の令嬢とは価値観が違うようだな。授けの儀が終わって早々にカジノで荒稼ぎしてることといい…………お前、面白い奴だな。ますます気に入った……絶対に逃さねえからな」





………………は?


今の……オリヴァールートに入るイベントのセリフ……だよな?


いやいやいや、そんなまさか……


初対面でいきなりルートに入るわけないだろ、流石に。


きっとコイツがよく使う言葉なのだろう。

護衛騎士より強い平民の兵士がいたら、面白い奴だな……逃さねえぞ、とか言って勧誘したりしてるんだろう。


……たぶん。




ともかく、オリヴァーの勧誘を断り、関係も持たないためにはどうしたらいいか……



あ、そうだ。

丁度いいのがあった。


こういう奴は何かを言ってものらりくらりと屁理屈こねて執拗に要求してくるんだよ……ならばどうしたらいいかって?


実力で黙らせればいいんだよ!(脳筋)



俺の原作知識を総動員して考える。

実力で黙らせるには勝負することになるな……

なら何が良いか……頭脳戦は却下だな……俺、頭良くないし。

そうなると……レベルでごり押しの利く決闘がいいな。


経験値増加の隠し魔装具のシリーズを揃えて、レベルごとの効率の良いダンジョンの周回場所、学園一年目のオリヴァーのスペックを脳内でリストアップする。

それらを考慮してレベル上げを行えば……学園に入って一年目の闘技大会で、余裕でコイツをボコボコにできる!

流石に衆目の中で男爵家の少女にボコられたら諦めてくれるだろう。


だが、学園の闘技大会まで二年以上ある。

なのでオリヴァーが『そこまで待てない』と提案を拒否するかもしれない。

奴を釣り上げるための『エサ』が必要だな……どうせ余裕で勝てるんだし側室をエサにするか。



「オリヴァー様のような高位貴族の方につきまとわれるのは困るのですが……」


「だったら諦めて俺の所に来いよ。悪いようにはしねえから」


「話は平行線ですね……では…………わたくしと学園の闘技大会で戦い、オリヴァー様が勝利なされたら……側室でも養子でもなりましょう。ただし、わたくしが勝ったあかつきには今後わたくしに必要最低限しか関わらないで下さい」


「ハハハッ! お前、俺に勝てると思ってるのか! やはり、お前は面白い……わかった。学園の闘技大会で決着をつけようじゃないか! 側室でも養子でも構わないんだな? その言葉忘れるなよ!」


「もちろんです。ですが大会で決着をつけるまで、わたくしの意思に反して勧誘や婚姻を迫ったりしないと約束してください」


「いいぜ。だが……絶対に逃げるなよ」



そしてオリヴァーはご機嫌な様子でカジノを出ていった。



つ、疲れた……攻略対象者の相手は神経使うぜ…………

……もしかしてアイツ、レベルを上げにダンジョンにこもったりしないよな……?


そうなると計画を練り直す必要があるんだが……

定期的に情報くらいは集めた方がいいかもしれない。。




もうカジノで稼ぐような状態ではなかったため、チップを換金して帰ることにした。


受付でチップを全て差し出す。

すると受付嬢が人を呼びに行き、連れてきたのはデーブランだった。


まあね、カジノの裏ルールや詐欺を知ったうえで逆に利用してたのを小声でとはいえバラされたんだもんね……当然この人にも伝わってるよね。






俺は個室に連れてこられて、デーブランとガードマン二人の対面に座らされた。

クジュエンフがいるから暴力沙汰になっても大丈夫だが……そういった雰囲気ではなさそうだ。



「アンナリーゼ嬢、なかなか上手に立ち回っていましたね。私も怪しいとは思いましたが、まさか『サイン』をあそこまで知られていたとは思っていませんでしたよ」


「そうでしょうね。わたくしも念入りに準備した上でこのカジノに来ましたから……あんな形でバレるとは思いませんでしたけれど」


「でしょうな……それで、アンナリーゼ嬢にはこのカジノの行為を他言無用でいてもらいたいのですよ」


「それは……まあ、当然ですわね。それで、代わりにわたくしは何を得られるのでしょう? それとも脅迫されるのかしら?」


「そんなことはしませんよ。このカジノの裏を知っているのがアンナリーゼ嬢だけとは思っていませんから。当主のダンガス男爵も知っているのでしょう?」


「それはもちろん」



嘘だけど。



「それも踏まえて、今回のアンナリーゼ嬢が稼いだ金額はそのまま換金させていただきます。その代わり、あなた自身がこのカジノの『裏』を他言無用し、そして今後、当カジノを利用しないこと。それで手打ちにいたしましょう」


「当主ではなくわたくしでいいのですか?」


「構いません。ご息女が誓約した内容を繰り返す愚行は起こさないでしょう? すでに換金用の大金貨三十三枚は用意してありますので、宣誓を」


「わかりました。それでは……わたくしは今後コルアール・オブ・ドリームスの裏の行為について他言無用し、コルアール・オブ・ドリームスを利用しないことを誓いましょう」



俺の発言に反応し、魔法誓約書が紫色の炎で燃え出した。

紙はあっという間に燃え尽き、跡形もなく消えた。


そして、テーブルには大金貨三十三枚が置かれる。




ふう……これでマナリアの魔装具が買えるようになったし、お父様にお金を返せる。




「アンナリーゼ嬢、最後に一つだけ。勝っている時ほど周囲をみることです。カジノでは、勝者の方が目立ちますから」


「……肝に銘じます」






こうして、俺の初めてのカジノは終了した。



はあ……必要だったし最初は楽しんでたとはいえ、もうカジノはこりごりだよ……負けてる人からはめっちゃ睨まれるし、カジノの職員が誰かしら監視してくるようになるし……デーブランの言う通りカジノはやめよう。


真面目に働いて稼ぐのが一番安定してて、小市民の俺には合ってるんだな、うん。


俺はそのまま魔装具店に行き、マナリア用の魔装具を買って帰った。



帰った後、お父様はクジュエンフからの俺の行動報告を聞いて顔が青くなったり紫になったり大変そうだったが、最後に俺が借りていた大金貨十一枚を返すとへなへなと座り込んだ。


「アンナよ……今後は! 事前に! 詳細に! 必ず! 私に何をするか伝えること! これは絶対だ!!」





お父様、ごめんて。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「はあ……」


「どうしたんですか? アンナさん」



マナリアに買ってきた魔装具を渡しにマナリアの部屋に来た俺は、思わずため息をついてしまった。



あー……どうしようかな。


念のため俺が言い寄られてることを伝えて、オリヴァーを恋愛対象に入れないようマナリアに意識させるか。



「実はオリヴァー侯爵子息様に側室にならないかと言われて……」


「ええっ!? こ、侯爵様から、きゅ、求婚ですか!?」


「そんな良いものじゃないわ……ただ玩具を見つけた子供が、どうやって自分のものにして遊びつくそうか計画してるようなものだから……正直に言うとたちが悪いし悩んでいるの」


「そ、そんな危ない方なんですね……でも、断ったんですよね?」


「ええ。代わりに学園の闘技大会で勝負することになったけど」


「ええ!? しょ、勝負に負けたらどうなるんですか!?」


「勝たないとオリヴァー様の側室になるわ」






「その話、詳しく教えてくれないかな?」







いつの間にか開いていた扉の前に、見たことないほど笑顔のミハエルが立っていた。







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