第26話 いざカジノへ
「お父様、カジノで一儲けするからお金を貸してください」
「うむ、断る」
即答された。
俺ってそんな信用無いのかなぁ……自信無くすんだけど。
「あの、お父様……どうしてダメなのですか?」
「十歳になったばかりの娘がカジノで勝てると思う方がおかしいのだが? 小金貨一枚でも我が男爵家では無駄にできないのだぞ」
それはそう。
現代に換算すると、小金貨は一万円、大金貨は十万円程度するのだ。
貧乏男爵家では小金貨一枚だって決して軽い出費じゃない。。
そんな状態なのに十歳の子供に小金貨を何枚もポンっと与えるわけにはいかないだろう。
でも、それは普通の子どもの話だ。
「お父様、お忘れですか? わたくしには前世の知識があるということを」
「ああ……そういえば、そうだったな。普段の言動が普通の令嬢と同じだから、つい普通の子ども扱いしてしまうみたいだ」
「いえ……わたくしも貴族の子女として、淑女教育で教えていただいた言動を心がけていますので」
というか、そもそも下町の平民と接することが授けの儀を終えるまでなかったから、『この世界の平民の少年らしい口調』ができないんだよな。
俺からすると男の口調をするなら、お父様かお兄様の真似をするしかないのだ。
弟のレーガスの真似?
五歳児の真似は流石にキツイです…………
「そうか……親としては、普通でいてくれようとしてるのは安心するぞ。だが、授けの儀のパーティーで男爵家の令嬢がやってはいけないことをしたことは肝に銘じておくように」
「それについては……はい、反省しております」
「自覚してくれるだけ上々だ。高位貴族の中にはワガママばかりで淑女として失格の令嬢もいるからな……」
「そんな方がいらっしゃるのですね……安心してくださいお父様、カジノで一儲けすると言っても引き際はわきまえています。これから向かうカジノ『コルアール・オブ・ドリームス』では『とあるサイン』をディーラーがお得意様相手に行うので、どのタイミングなら勝ち目があるか察知できますし……それだけじゃなく、目をつけられたことや、危険視されている度合までわかるのです。必要最低限の額を稼いだら、そのカジノからは身を引きますわ」
「そのサインを知ってるのは、前世の知識……というやつだな。これまでのお前の言ったことは当たっているから信用はしている。だが、お前はこの世界で十年しか生きてない子供であることは変わらない。コルアール・オブ・ドリームスは第二王子派閥が幅を利かせていたはずだ……ミハエル殿下にしてやられたように、お前の想像を超える人物はごまんといる……くれぐれも気をつけなさい」
「はい、ご忠告痛み入ります。それで、カジノで使うための資金なのですが……聖女の平民向けに魔装具を買おうと思うので、少し多めにいただけませんか?」
「ああ、聖女の平民がダンジョンに行くのだったな。確かにそこで実績を作り、今後も聖女に関わることができるなら投資は必要か…………それでいくらだ? 小金貨五枚か? 六枚か?」
「大金貨を十一枚でお願いします」
この日、初めてお父様がずっこける姿を見た。
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なんとか大金貨を十一枚貸してもらった。
お父様の顔が凄い不安な表情をしていたが、どうやって稼ぐか事細かに説明したおかげでなんとか納得してもらえたようだ。
それはともかく軍資金は用意できたので、このまま護衛を連れてカジノへと乗り込む予定だ。
護衛はお父様についていた信頼できる護衛騎士を特別につけてもらった。
クジュエンフと呼ばれるこの人は、ヨキート騎士爵家の次男坊らしい。
騎士爵は普通一代限りであり、子供へ世襲することはできない。
しかし長男が王国の騎士となり家の存続が可能になったため、家のことは長男に任せて我がエイモン男爵家に忠誠を誓い、今後もずっと仕えてくれるのだと言っていた。
そんなお父様の右腕とも呼べる人をつけてくれるのは、お父様の不安が完全に払拭されてないということなのだろう。
うーん、最低限稼ぐとは言ったが……これは魔装具を買っても収支がプラスになる程度にはしっかり稼いで帰らないと、お父様に顔向けできないな。
とりあえず俺は自室に戻り俺が与えられたドレスの中で一番高価なものを着て、貧乏貴族でも借りれる程度の馬車に乗る。
クジュエンフは馬に乗って先導するようだ。
御者に行き先を告げてクジュエンフについて行くように伝えると、すぐに馬車が動き出した。
ときクラでは散々お世話になったカジノに行けるのが、実は少し楽しみだったりする。
十歳になったら入場が許可されるので、マナリアの魔装具のとこを抜きにしても近いうちに行ってみたかったのだ。
ゲームでは荒稼ぎをしても一日で一定以上の額にならなければ、日をまたぐと危険視ランクがリセットされてたのだ。
だから何度も通って稼いでも、出禁になったり怖い人の部屋に招待されたりすることはなかった。
この世界ではそんなことしたら家ごと潰されかねないので、一回こっきりの裏技みたいなものだな。
どこまで稼げるのか……慎重に見極めるつもりだ。
大金を稼げることに、思わずにんまりと笑顔になる。
そんな俺を乗せた馬車は、順調に街中を通り……お目当てのカジノへと到着した。
クジュエンフのエスコートで馬車を降りて、目の前の豪奢な建物を見上げる。
おぉ……現実で見ると圧倒されるな……流石はコルアール・オブ・ドリームス、とんでもない金がかけられただけはある。
前世で小市民だった俺は海外に行ったことがないので、カジノへ入ったことすらなかった。
というかパチンコもやってなかったし、ギャンブルはときクラのゲーム内でしかやってなかった。
スマホのガチャ?
あれはお布施だから……(震え声)
まあそれはそれとして、そんな俺でも本当に稼げるのかって?
大丈夫、大船に乗ったつもりで任せてくれ。
最低でも三倍は稼いでみせるから!
なんなら聖女用の魔装具の値段考えたら五倍くらいでもいいんじゃない?
なんて考えながら、カジノの扉をドアパーソンに開いてもらう。
心なしかクジュエンフが厳しい目で俺を見ているような……まさか、顔に出てた?
いやいや、そんなまさかね……
俺は気のせいだと考えて、夢と希望の溢れるカジノへ乗り込んだ。
受付で身分証明としてエイモン男爵家の徽章を見せると、一瞬だが渋い顔をされた。
まあね、そりゃあ他派閥の貧乏貴族がやって来たんじゃ渋い顔にもなるだろう。
俺は笑顔のまま、クジュエンフに入場料の大金貨一枚とチップ購入用の大金貨十枚をテーブルに置いてもらう。
すると受付嬢は張り付けたような笑顔で大金貨十枚分のチップを交換してくれた。
カジノの規模からするとはした金ではあるが、一応客として認められた……ということなのだろう。
ふふふ……帰るときに俺が稼いだ額を見て驚くがいい。
まあ、稼ぎ過ぎないように気をつけると約束した手前、そんな高額にできないのだが。
ともかく、ようやくカジノに来れたんだ……カモフラージュも兼ねて、少し楽しむくらいはいいだろう。
……と言っても、これから行うのは『釣られた感』を出すために必要なことでもあるんだが。
実は、この世界にもスロットマシンがある。
あまり稼げないが、裕福ではない貴族向けのゲームとしてそれなりに人気があると、ときクラでは説明されていた。
地球のテレビで見かけたのと似たような様式だが、デザインはこの世界特有の仕上がりになっている。
俺は大金貨二枚分のチップをスロット用のコインに替えてもらい、テキトーに選んだスロットマシンで遊ぶことにした。
最初は小額から始めてみるが、しばらくハズレが続く。
コインが四割減ったあたりで、少し当たりを引いた。
でも、それ以外は当たりが出ることもなく……コインがなくなってしまった。
俺は、幼い少女がかんしゃくを起こしたようにクジュエンフに八つ当たりをする……フリをする。
「クジュエンフ~! 全然勝てないんだけどぉ~! このマシン絶対おかしいわ!!」
「お嬢様、落ち着いてください……」
「きっと操作してるんだわ! もうこんなカジノ帰りましょうっ!」
「そ、そんなことを言ってはいけません。カジノへの悪評になるような真似はおやめくださ……」
「おやおや、お客様……このカジノは初めてですかな? そんなマシンの操作など、絶対にありえませんよ。別のゲームを試してみてはいかがですかな?」
このカジノの中でも、ひときわ身なりが良い壮年の男性が話しかけてきた。
……ようやく『釣れた』ぞ。
ときクラのカジノで一定額負けると『獲物を見つけた』と言わんばかりに現れる重要人物。
このカジノを実質的に回している影の支配人が……!
さて、ここからが本当の勝負だ!




