第24話 孤児院での話し合い
俺は女神像の前で呆けているマナリアに近づき、肩をたたく。
「マナリア、そろそろ意識を戻して」
「はっ! あ、アンナ様……」
「『聖女』のギフトを無事に授かったようで安心したわ、マナリア。身体の方は問題ない?」
「は、はい! 問題ないどころか、今なら色々なことができそうな気がします! これも、アンナ様がお言葉をかけてくださったおかげです! これからも頑張るのでよろしくお願いします!」
「そ、そう? それはなにより。わたくしも今後のあなたの活躍に期待してるわ」
「任せてください! アンナ様のためなら……」
「ちょっといいかな? そろそろ教会から出て孤児院へ向かいたいんだけど……」
ミハエルに止められた。
うぅ……ついマナリアの圧に押されて目的を見失ってしまった。
「そうですね、ミハエル殿下の言う通りです。早く孤児院へ戻りましょう」
「は、はい……すみません、つい……」
「初めて授けの儀で能力が向上したわけだしね。そうなっても仕方ないさ……それじゃあダラソサトフ、また来るよ」
「はい、殿下。皆様に神のご加護があらんことを……」
ダラソサトフさんの祈りを最後に、教会を後にした。
外に出ると、そろそろ王都の住民が外に出てきそうな時間だった。
時計は貴族しか持たない高級魔道具なので、王都の平民は教会の鐘の音で時間を把握している。
一回目の鐘の音が鳴る前に孤児院に戻り、院長のマザー・コリーヒーゼと相談してマナリアの今後を決めないといけない。
急いで孤児院に向かうと、コリーヒーゼさんが孤児院の前で待っていた。
「お待ちしておりました、殿下。さあ、早く院長室に」
俺たちは言われるがままに、孤児院へ入ると院長室に向かった。
ミハエルと俺、そしてマナリアと護衛騎士二人が全員院長室に入る。
皆が入ったあと、コリーヒーゼは扉の鍵を閉めてお茶の用意をする。
「授けの儀で皆様緊張なされたでしょう? 落ち着ける効能の茶葉がありますので、お召し上がりください」
「ありがとう、マザー・コリーヒーゼ。みんなも一度落ち着いてから今後について話そうか」
コリーヒーゼさんが全員にお茶を運んでくれた。
今回は護衛騎士二人の分も運ばれたため、順番に飲んでいる。
これはあれか、飲んでる最中に襲われたらいけないから片方は必ず待機してるって感じか……?
貴族の護衛は大変だな……
俺?
我が男爵家にも護衛はいるが、お忍びで出かける時は一人で出歩いている。
まあ、空間魔法の薄い膜で身体を覆って身を守れるからだけど。
ちなみに何故一人なのかというと、俺の知識を活用しようとする時に普通の護衛がいたら、言動がかなり制限されるから。
ミハエルみたいに信頼できる専任の護衛騎士がいるならいいけど、うちは少ない兵士でやりくりしてるから信頼のおける護衛というのがほぼいないのだ。
一応少しはいるみたいだけど……そういう人はお父様についてるから、どうしようもない。
ともかく、俺はそんな護衛騎士たちを心の中でねぎらいつつミハエルに今後のことを聞いてみた。
「それで、ミハエル殿下。今後のことについて、どうお考えなのですか?」
「ああ、まずは考えなくてはならない事をいくつか先に述べよう……まあ、大半は僕がどうにかしないといけないんだけど……」
やや自嘲気味に笑いながら、ミハエルが人差し指を立てる。
「まず一つ目……マナリアの髪が変化したことで、人目につくことを避けなければいけなくなった。しばらくの間は孤児院にもいられないし街も歩けないだろうね」
「……え? 私、孤児院にいられないんですか……?」
マナリアの声が微かに震えている。
「その髪は目立つから。一応、髪を染めるという手段もあるけど……その輝きは抑えられないだろうから怪しまれるのは間違いない」
「そ、そんな……」
「ミハエル殿下、なんとかしていただけないでしょうか? 孤児院の皆さんはマナリアにとって家族同然……いきなり離れ離れはつらいかと存じます」
「家族…………ね、わかったよ。それじゃあ、魔装具の入手を早めて父上や王妃を治したら、大々的に聖女であることを公表しよう。その後は聖女の奉仕活動として動けるようになるから、定期的に孤児院への援助や育ての親であるマザー・コリーヒーゼに会いに行くという名目で孤児院に行けばいい……頻繁には行けないだろうけどね。あとは、手紙で連絡を取り合うのもいいと思うよ」
「そ、それくらいであれば……はい、大丈夫だと思います」
マナリアはなんとか納得したようだ。
やっぱり家族といきなり離れ離れは辛いよな……なるべく早く国王夫妻を治せるようにしなきゃ。
「次に二つ目……王家管轄の禁止区域に、正式に入る表向きの理由が必要ということ」
「確かに、いきなり禁止区域に行くなんて『何か秘密がありますよ』と言っているようなものですからね……」
「うん、だから代わりの理由として『各地で魔装具の手に入るダンジョンが出現している』という噂を流そうと思っている」
「それはつまり、噂の内容を『宵闇の古代都市』の場所と似た条件にするんですね?」
「ああ、そうしたら僕は『派閥の力を強くしたいが為に、噂を信じてダンジョンを探す』と周囲に伝えて、王都から宵闇の古代都市へ出立する。その時はもちろん君たちにも着いてきてもらうが、理由としては『禁止区域に着いてくる侍従が少ないので、追加で募集したら応募してきた』というものにする。平民のみんなと普段から接してる僕なら、マナリアが孤児院のために給金の高い仕事を選んだということで周囲も納得するだろう。もちろん他に応募者がいたら落とさなきゃいけないから……そこは心苦しいけどね」
「あの……わたくしは……?」
「君は、授けの儀の時の恩返しとして『借りを返すためにミハエルがアンナリーゼ嬢の階位を上げる手伝いをする』という理由で強引に連れていく……ということにしよう」
「一応、はじまりの洞窟で段位は少し上がったのですが……」
「王族が一度受けた恩を、その程度で済ます方が不自然なんだ。王族が借りを返すのだから、相応の階位と段位になるまで付き合ってもらうしかないよ……こればっかりは諦めてもらうしかないね。他に王族の借りに見合うなにかがあるなら、その時は僕に言ってね」
「は、はあ……」
えぇ……あの時の借りってそこまでされなきゃいけないのか……?
別にそこまで求めてないんだけど……
あー……でも、マナリアのレベルアップも考えたら王族のアシストはあった方が良いな。
仕方ない、受け入れるか……
「そして三つ目……同行させる護衛を早急に編成しつつ、それを怪しまれない工作が必要だということ。これは僕の方でどうにかしないといけない事だから、君たちには数日待ってほしい。さすがに今日明日でどうにかできる事じゃないから……待ってる間はアンナリーゼ嬢の泊ってる宿で客人として宿泊してほしい。もちろん髪は帽子で隠してからね。宿泊料は安いし全額僕が負担しても怪しまれない額だから気にしなくていいよ、部屋から出ないでくれたらね」
「あの、ミハエル殿下……それって、軟禁みたいなものなのではないでしょうか?」
「それだけ『聖女』のギフトは扱いに気を使うんだよ。兄上たちに報告が上がればそれどころじゃなくなるから、そこは徹底してほしい……悪いようにはしないから」
「殿下がそうおっしゃるのであれば……わたくしは何も言えませんが……」
「わ、私は大丈夫です! 少しの間我慢するのなんて、孤児院のみんなのためならへっちゃらです!」
「そう? ならよかった。くれぐれも気をつけてね」
「は、はい!」
マナリアがダンジョンに行くまで軟禁生活になってしまった。
すまない、俺がもっと賢くて立場があればよかったのだが……せめて王都に屋敷でもあれば匿えたんだけど、貧乏男爵家には無理だ。
「最後に……聖女として活動する際は、僕の派閥だけじゃなく兄上たちの派閥からも要請があるということだ。聖女のような国にとって重要なギフトは、国への協力義務が課されるんだ……もちろん奴隷のよう扱われ方はしない。でも要請自体は無視できない。これは僕の派閥の力を使っても止めようがない。第二王子のトコーツン兄上なら恐らく戦場に連れていくだろうし、第一王子のカマロン兄上なら魔石の浄化や王国各地に出現したダンジョンを巡回させるだろう」
「そ、それでは孤児院に通うなんてことできなくなりますね……」
「そう……だから僕たちがどれだけ有用かを先に示して、発言権を得てないと未来は無いと言ってもいい」
うーん……こうして聞くと難題な気もするが、前半はミハエルが何とかしてくれそうな気がする。
問題は他の王子たちの要請だな。
これは流石にどうにもできないか……でもこのまま放置したら、マナリアは酷使され続けて誰とも好感度を上げられずに世界滅亡のバッドエンドに向かっちゃうんだよな……俺の知識の有用性を示せればチャンスはあるか……?
ときクラでは、聖女になった後も攻略対象者たちとイベントがあって好感度があがるのだ。
邪教と魔王を何とかするには絶対不可欠なことだし、もっと必死に考えないと……
あとでミハエルと相談しよう。
今は、俺がマナリアの装備を用意することに注力すべきだな。
「では、ミハエル殿下……わたくしは、宵闇の古代都市でマナリアに神の褒美を受けられるように支援や回復に特化した魔装具を用意いたしますね」
「君が……? 確かに隠し魔装具の効果だけじゃなく階位を上げて力を身に着けてもらいたいとは思っているけれど…………いや、確かに僕が用意するわけにはいかないか。城から拝借してもどこかで買うにしても、足がついてしまうからね」
「はい。その点わたくしは、『カマロン第一王子殿下が聖女と接する際に、わたくしが役立つ存在だと思ってもらうために魔装具を集めている』……ということにできます」
「それはいいのだけれど……当てはあるのかい?」
「はい、カジノで勝てばいいだけなので簡単なことです」
「…………カジノ? 君が……?」
「……? そんなに驚かれることでしょうか?」
「いや……でも……まあ、うん……君を信じるよ」
あ、こいつ信じてないな。
流石の俺でもわかる。
見てろよ……絶対にマナリアの装備を集めてみせるから!
原作を完全クリアした実力を見せてやる……!




