第23話 マナリアの授けの儀
教会は孤児院の近くなので、誰かに見つかることもなく無事についた。
時間を確認する。
少し時間が早い……どうしたもんかと思ったら、ミハエルがノックもせずに扉を開けていた。
「ダラソサトフには鍵を開けておくように言っておいたんだ。みんな、早く中に入って」
そうだったのか、心配する必要なかったな。
そうだよ、ミハエルはこういう準備や気配りを怠らないやつなんだよ。
ときクラでもマナリアを外に出さないために外堀から埋めていって……
……今は好感度が初期値みたいなもんだから、まだ心配しなくていい。
気にしなくていいはずなのに、なぜか嫌な予感がする。
いや、気のせい……気のせいだ。
今はマナリアの授けの儀が無事に終わることを祈ってなきゃいけない場面。
神様、原作通りに『聖女』のギフトを授けてくれよ……!
中に入ると、ダラソサトフさんが準備万端といった感じで待っていた。
冒険者の格好の護衛騎士が扉を閉めて鍵をかける。
ふぅ……これで一応は安心だな。
しゃべり方も戻していいだろう……帰るときは気をつけないとだが。
「おはようございます、ミハエル殿下、それに皆さんも。授けの儀の準備はできています……そちらの少女が『聖女』となる孤児院の子ですね?」
「ああ、そのはずだ。マナリア、教会について早々に悪いが……女神像の前でひざまずいて神に祈るんだ」
「は、はい!」
ギクシャクとした動きで前に出る。
マナリア、緊張しているな……教会に来るまでの道でも動きが硬かったし、大丈夫か?
ちょっと声をかけておくか。
「マナリア!」
「え、アンナ様?」
「孤児院の子たちや、街の人たち……皆さんのことを思い出しなさい」
「みんなのことを……?」
「神様はあなたの行いを見ています。自分のことが信じられないのなら、あなたを慕う皆さんのことを信じて神に祈るのです」
「孤児院のみんな、街の人たちを……信じる……」
そう、マナリアは自分のために動く人間じゃない。
誰かのためにこそ動ける、本当に優しい少女なのだ。
だからきっと神様もマナリアを選んだのだろうし、俺も全クリしてでも幸せなルートを見たいと思ったんだ。
だから――
「みんなを守るための力、あなたが望む……みんなが幸せになる未来をつかむためのギフトを望むのです!」
「……はい! 私、精一杯祈ります……みんなのために!」
マナリアがひざまずき、手を組んで祈り始めた。
それだけ。
たったそれだけで、聖堂全体を照らすような眩い光が女神像の水晶から放たれた。
思わず目をふさいでしまう。
とてもじゃないが目を開けてられない。
時間で言うと十秒くらいは光ってたと思う。
徐々に光が収まってようやく目を開けると……女神像の前のマナリアに変化があった。
今までは完全に赤色の髪だったのに、今は金色が混ざっている。
この髪色こそ、俺が見慣れたときクラで活躍するマナリアの姿だ。
『聖女』という特別なギフトを授かって、火属性と光属性の二つを扱えるようになったのだ。
ダラソサトフが高らかに宣言する。
「マナリア・シャインバースが授かったギフトは『聖女』である!」
うおおおおおおぉぉぉぉ!!!!
よかったあああぁぁぁぁぁ…………聖女のギフトもらえなかったらガチで詰んでたから、本当に……本当に安心した。
マナリアは、授かったギフトの凄さを身にしみて感じてるのか、ひざまずいたまま女神像を見て固まっている。
ギフトをもらった時に身体が書き換えられるような感覚と不思議な力が湧いてくる感覚は、もらったギフトの凄さによって変わると言われているから……きっと少し理解するのに時間がかかるだろうな。
「おお、本当に『聖女』のギフトを授かったぞ……」
「鑑定の時に信じはしていたが……改めて殿下の考えが正しかったと証明されたな」
冒険者に扮した護衛騎士の二人が感嘆している。
ミハエルもマナリアの変化に注目している。
「これが、聖女……あんなに女神像の水晶が光るなんて、今まで一度も見たことがない……やはり『聖女』のギフトは特別なんだ……」
ミハエルも聖女のギフトの凄さを実感しているみたいだ。
「それにしても……あれが『聖女』のギフトを授かった姿か……髪の色が変わったのは、属性が増えたという証左なのかな……火の属性と光の属性、両方を扱えるのはギフトによる恩恵でしか再現できない事象だね」
そういえば聖女になったマナリアの姿や属性については聞いてこなかったんだよな、ミハエル。
俺にとっては当たり前すぎて言うのを忘れてたから、俺も悪いけど……ミハエルのマナリアへの興味の無さがかなり心配になってきたぞ。
肯定しつつちょっと補足してマナリアの印象を良くしておこう。
「殿下の言う通り、ギフトを授かったマナリアは二つの属性を扱えるようになりました。実はマナリアは火属性の魔法を誰に教わるでもなく数年前から孤児院で扱っていましたし、もともと才能があったんでしょうね……そこに『聖女』のギフトによって様々な能力が上昇した結果、攻撃から回復に支援まで……なんでも行える万能な魔法使いになります。魔装具で国王と王妃の呪いも直ぐに浄化できるようになりますし、殿下の派閥もかなりの影響力を持つことができるかと……」
「そうか……ギフトの力は、やはり侮れないね。それで、宵闇の古代都市だったと思うんだけど……父上と王妃を治せるようになる魔装具はどうやって手に入るんだい?」
「え? ええ……手に入れるには、聖女のギフトを持つマナリアが最奥の間に行かないと隠し扉が現れないので、Cランクダンジョンでマナリアを守りつつ攻略できるパーティを組む必要がありますね」
「そうか、それじゃあ一度孤児院に戻ってマザー・コリーヒーゼにマナリアを連れていくことを了承してもらわないといけないね……そしてゴーレムが主体のCランクダンジョンを攻略できる者を護衛騎士団と魔法師団から怪しまれないように連れて行かないといけないか……アンナリーゼ嬢、できれば院長室に着いたらダンジョンの詳しい敵の情報とギミックを教えてほしい」
「は、はい……では、呆けているマナリアを連れて孤児院に戻りましょうか」
うーん……なんかどうにも違和感が……
ミハエル、マナリアが聖女になったこと、もう気にしてない……?
なんで?
数百年ぶりの聖女だぞ……?
もっと食いついてもよさそうなのに……
あ、そうか。
聖女のギフトそのものより、俺が教えた情報の方が気になってるんだ……だからマナリアへの興味が薄くなってるんだ。
え……これ、不味くない?
ときクラは好感度低いと簡単にバッドエンドになるゲームだぞ……このまま俺がミハエルに情報を与えるだけだと、必然的にマナリアの活躍の機会が減るし、ミハエルの派閥にいるから他の攻略対象者とも好感度を貯めにくいかもしれない。
ヤバい……これはヤバいぞ……!
こうなったら、宵闇の古代都市でマナリアに活躍してもらって好感度を上げるしかない!
そうなると……マナリアの能力を少しでも上げる装備を用意して、使える魔法についても助言して回復と支援をうまく使えるようになってもらい、護衛騎士と魔法師団の人たちを圧倒的な聖女パワーによるサポートで無双させて有用性を示す……名付けて『マナリア好感度爆上げ大作戦!』。
よし!
孤児院で話し終わったら早速装備を買いに行くぞ……!
あっ……そうだ、金がないんだった。
でも、ミハエルに頼むと国のお金に手を付けることになって、財政管理してる第一王子の派閥に気付かれるかもしれないんだよな……
そうなると、お父様に頼むか……?
いや、俺の装備を買っちゃったし、性能のいい装備を買うお金はない。
仕方がない……やるか!
原作知識無双……ときクラのミニゲーム『カジノ』攻略を!
ときクラを完全クリアした俺ならばいける……そう、このミニゲームには必勝法があるのだ!
いける……いけるぞ、この作戦……!
あ、まずはマナリアの意識を元に戻さないと。




