第20話 孤児院への訪問と主人公と初会話
ミハエルと護衛騎士の人たちについて行ったら、すぐ近くに孤児院があった。
あれ、孤児院の場所って教会とこんなに近かったのか。
俺が知っている道で来なかったから気づかなかった。
というか、ここってミハエル派閥なの?
まさかミハエル派閥の教会が運営してたとは……もしかして、ときクラでマナリアがしばらくどこにも所属してなかったのってミハエルが気を遣っていたから?
ありえるな、ミハエルは平民にも真摯な対応をするし。
それにしてもなるほど、馬車まで戻らずに歩いて移動していたのはこれが理由か。
孤児院の運営は教会が行っていると聞いたことがあるし……確かに近くにあった方が対応しやすいもんな。
それにこんな狭い路地では馬車も通れないから歩くしかないわけだ。
でも、迷いなく孤児院へ向かったミハエルは、なぜ孤児院の場所を知っているのだろう?
あれか、王族から民へのパフォーマンスとして教会訪問とかあるから、それ関連で覚えたのかな。
もしかしてお忍びで訪れてたとか……?
可能性はあるな。
なんて勝手なことを考えていると、ミハエルが孤児院の前を掃除していたシスターに声をかける。
「こんにちは、シスター・ラミスティ。マザー・コリーヒーゼはいるかな?」
「これはこれは、ミハエル殿下。マザー・コリーヒーゼは部屋で書類整理を行っています……案内いたしましょうか?」
「ああ、お願いするよ」
なんか慣れた感じあるな。
やっぱりお忍びで何度か来ているのか?
気になっている俺に、ミハエルが小声で教えてくれる。
「ここの孤児院の院長とこちらのシスターは、ここに就任する前は僕の派閥の貴族にいて……出家してシスターになったんだ。出家する前にその貴族の家で何度か顔を合わせたことがあるんだよ」
あー……そうか、世の中のシスターは平民だけじゃなく貴族出身の人もそれなりにいるんだった。
たしか、持参金を用意して優先してもらう貴族もいるって聞いたことがある。
それならまあ、納得……かな?
出家したあとの所属先まで確認してるとは、さすがミハエルだ。
孤児院に入っていくシスター・ラミスティとミハエル。
護衛騎士の一人に促されて、俺も孤児院へと踏み入れる。
門に入り通路を進むと、右手には孤児たちが住んでいるであろう建物が見える。
かなり古い建物のようで、色はくすんでいる。
左手に見える孤児院の庭では、孤児たちが遊んでいる。
こちらに気付いて手を止める者もいる。
前に遠くからマナリアを確認したときは気づかなかったが、服はつぎはぎだらけで全体も汚れていた。
ボロボロになるまで使い古した服をさらに限界まで再利用している感じだ。
お金に余裕がないのはときクラでマナリアが独白していたから知っていたが……予想以上に厳しいようだ。
ん? マナリアの姿が見えないな。
別の場所で遊んでるのか?
気にはなったが、今はコリーヒーゼさんのところに行かなければ。
俺は廊下を進み、院長やシスターが住んでいる母屋に着いた。
こちらもだいぶ古いな……いたる所に修繕の跡がある。
建物の中も、掃除は行き届いているが綺麗な調度品などはなくカーペットなんかも敷かれていない。
そうして孤児院の現状を確認していると、一番奥の院長の部屋に着いた。
ラミスティさんがノックをする。
「マザー・コリーヒーゼ、ミハエル殿下がお見えになっております」
「まあ、殿下が? ひとまず客室にお通ししてちょうだい」
「すみません、もう連れてきちゃいました」
「もう、あなたという人は……ミハエル殿下、少しだけお待ちになってください」
「ああ、構わないよ」
中からバタバタと音がする。
書類なんかが散らばってたんだろうな。
五分ほどしたらコリーヒーゼさんが出てきた。
「大変お待たせいたしました。皆様、中へどうぞ。ラミスティは仕事に戻って構わないわ」
ラミスティさんは俺たちに会釈をして孤児院の入口に戻っていった。
残った俺たちは院長室に入る。
院長室は質素倹約を体現したような部屋だった。
最低限のものしか置いていない。
古くて変色した棚に、さっき急いで片付けたのだろう乱雑にまとめた書類が大量に見えた。
見なかったふりをして、ミハエルが話を切り出すのを待つ。
「それで、ミハエル殿下のご用件はなんでしょうか?」
「ああ、実は特別な魔装具……古代のアーティファクトを見つけてね。それを使ったら一回だけ予知ができたんだ」
「なんと! 予知の魔装具なんて希少なもの、よく見つけられましたね」
「偶然隠されていたのを見つけたのが、こちらのエイモン男爵家のアンナリーゼ嬢なんだ」
「お初にお目にかかります。わたくし、人位下級・四段、エイモン男爵家次女のアンナリーゼと申します。こちらは、ご挨拶代わりの寄付金となりますので、お納めください」
「これはご丁寧に。私はここの孤児院の院長を務めるコリーヒーゼ・マナリクームです。あなたのように孤児たちのことを支えてくださる方のおかげで、なんとか生活できています……本当に感謝致します」
かなり悲痛な面持ちだ。
孤児院の見た目以上に経営が立ち行かなくなってるのか……?
「それで、アンナリーゼ嬢が見つけたこの魔装具で見た予知というのが、この孤児院にいる少女が『聖女』のギフトを授かるというものなんだ」
「まあ! 聖女だなんて……もう数百年もギフトを授かる人がいなかったのに。喜ばしい気持ちもありますが、なにか危険なことが起きるのではないかと心配になってしまいます……うちの子達はみんな優しい子ですから、争い事は苦手なんです」
「安心してほしい、マザー・コリーヒーゼ。聖女になる子に危険な真似はさせないよ。ただ、僕たちが安全を確保したうえでダンジョンを探索し、神の褒美を授かってもらうことはあるだろうが……」
「聖女のギフトを授かれば、多少はやむを得ないのは覚悟しています……それで、どの子が聖女に?」
「予知によると、マナリアという少女が授かるようで……この孤児院にいるかな?」
「まあ……あの子が……これも神のお導きなのでしょうか。マナリアはもちろんここにいます。みんなを支える優しい女の子ですよ。今もラミスティの掃除を手伝っています」
「シスターの仕事の手伝いまでしてるなんて、真面目な子なんだね。話を戻すけれど……実は兄上たちの派閥に手をつけられる前に、うちの派閥で保護をしたいと思っていて、平民向けの授けの儀より前に……具体的には明日の朝6時に教会を貸し切り、授けの儀を行おうと思っているんだ」
「急な話ではありますが、確かに他の派閥に行けばマナリアに厳しい態度をとって無茶な命令をするかもしれませんね……わかりました、あの子を呼んできます」
「ありがとう、助かるよ」
「ただ……もしあの子がどこの派閥にも属さないと言ったら、その意思を尊重してほしいのです」
「わかった。約束する」
「ありがとう存じます。それでは少しお待ちになってください」
マザー・コリーヒーゼはマナリアを呼びに出ていった。
院長の説得はとりあえず大丈夫だったな。
でも、神のお導きがどうのとか言っていたが……なにか特別な設定ってあったかな?
たしか四年前の孤児院で、早朝に掃除をしようとした院長のところにやって来たと、ときクラ内のマナリアが独白してた気がする。
マナリアは母と二人暮らしだったが、流行り病で母を亡くして行くところがなく孤児院に駄目もとでお願いしに来た……というのがときクラで描写された程度で、俺はそれくらいしか彼女の出生を知らない。
そういや赤色の髪を持つマナリアは火の魔法を扱えるので、料理や身体を温かい布で拭く『清拭』のために火が必要で重宝されてたり、彼女の性格の良さですぐに孤児院に馴染んだと説明があったな。
それ以外に特別な設定か……うーん、わからん。
実は貴族の隠し子とか?
父親が誰か描写されてなかったから、もしかしたら設定資料集で補足されてたのかもしれない。
まあ、そのうち知ることになるだろう。
今は連れてこられたマナリアに好印象を持ってもらうことに集中しないと。
五分ほど待っていると、扉がノックされた。
「皆様、マナリアを連れてまいりました。入室しても構いませんか?」
「ああ、入ってきてくれ」
ミハエルが返事をすると扉が開かれて、マザー・コリーヒーゼがマナリアと共に部屋に入ってきた。
うぉ……やっぱり近くで見ると可愛いな、マジで。
ゲームの時より幼くて、不安そうにしてるから印象が違うけど……仲良くなったら普通に接してくれるはずだ……多分。
「マナリア、ご挨拶なさい」
「は、はい! パース孤児院に来て四年目になるマナリア・シャインバースです! お、お貴族様がお呼びと聞き、まいりました!」
めっちゃ緊張してる。
そりゃそうだよな、王子がいるもんな。
一応俺も男爵家の一員だが娘なので爵位は継げないし、どこかの貴族に嫁がないと貴族ではなくなるのだが……平民からしたら貴族のお嬢様であることには違いないから、俺も緊張の対象か。
なるべく早くタメ口で話せるようにして、名前で呼び合いたいな。
ときクラはフルボイスだったがキャラの名前変更システムなんかなかったので、もちろん自分の名前を呼んでもらえるシーンなんか無い。
なので推しに自分の名前を呼んでもらえると思うと本当に嬉しい。
そんな舞い上がっている俺をよそに、ミハエルがマナリアに自己紹介をする。
「はじめまして、マナリア。僕はリーサント王国第三王子、ミハエル・フォウ・チャコウ。今日は君に頼みがあってやって来たんだ。隣にいるのはエイモン男爵家のアンナリーゼ嬢だよ」
ハッ! 危ない危ない。ハイになってまともに自己紹介もできない女だと思われるところだった。
「はじめまして、マナリア。わたくしはエイモン男爵家次女、アンナリーゼ・エイモンです。今後あなたとは色々と関わると思うからよろしくね」
「お、王子様と男爵家の御令嬢様……! そ、そんな方々が私になにかご用で……?」
「単刀直入に言うと、予知の魔装具で君が聖女になることがわかった。だから他の派閥で酷い目に合う前に保護しに来たんだ」
「えっ……? せ、聖女……ですか? 私が……?」
「うん、そうだよ。この予知は絶対で覆しようがないんだ。平民向けの授けの儀を待つと他の派閥から介入されるから、できるだけ早く……本当は今日にでも授けの儀を受けてもらいたいんだが……さすがに大勢の信徒たちがいる中でやるわけにはいかないから、明日の朝六時に貸切にしてもらった教会で授けの儀を行ってほしい」
「え、えっと……そ、そんな予知が確定してるんですか? 何かの間違い……とかでもないんですよね……わ、私が聖女? 明日の朝に授けの儀を……?」
「急なお願いで理解が追いつかないのも無理はない。後でマザー・コリーヒーゼと相談するといい。ちなみに言っておくと、うちの派閥に属したら聖女を育てた功績で孤児院への寄付金がでるし、さらに君の活躍によっては追加で大勢の貴族が寄付をしてくれるだろう。他の派閥はそこまでしてくれないから気をつけてね。それじゃ、明日の朝に迎えに来るから……よく考えておいてくれたまえ。マザー・コリーヒーゼも、また明日」
ミハエルが席を立ち、退出する。
俺や護衛騎士も、別れの挨拶をして退出する。
マナリアはずっとキャパシティオーバーで目がグルグル状態だった。
なんか、最後の方はお願いじゃなくて……賄賂とか脅迫みたいになってなかった?
そんなミハエルの強引な一面に、ときクラでの危うさを少し思い出してしまった。
ま、まだ大丈夫だ。病んでる感じではない……はず。
色々気になりつつも、マナリアとあまり喋れなかったのが一番心残りな俺は、ミハエルの後に続いて孤児院から出たのだった。




