第19話 神父への依頼と孤児院について
鑑定師に頼み、ビギナーズネックレスの鑑定を行った結果、ミハエルは俺の知識が本物だと認めてくれた。
なので、この後は俺が提案していた『聖女のギフトを授かる平民』であるマナリアの授けの儀のために、教会を一時間ほど貸し切れないか頼みに行くことになった。
教会までの距離は近いらしいが馬車に乗って移動する。
馬車の中で、王都の教会について少し教わった。
王都は東京ドーム何十個分かわからないほど広いため、各区域にいくつか教会があり、それぞれ王子たちの派閥に属している。
そして今、その中でミハエルの派閥に属している教会へ足を運んでいる最中なんだと。
王都の平民は教会がどこの派閥に属してるかなど気にしないで暮らしているようなので、第一王子派閥の俺がミハエルの派閥の教会に行っても特に問題ないらしい。
教会を取り仕切る神父はあまりいい顔をしないのではないかとも思ったが、寄付をしたらこころよく受け入れてくれるそうだ。
現金だなぁ……
十分後、教会へ到着した。
教会の名は「ハースエウ」で、まつられているのは光の神ミスラだった。
授けの儀のときの教会より小さいが、近くの住民が緊急時に避難できるようそこそこ大きく作られていた。
中に入ると神父が聖書の朗読を行なっており、近所の住民らしき大勢の人々が神に祈っていた。
邪魔しちゃ悪いので静かにはしっこに移動し待っていると、朗読のあとに説教が始まった。
説教といっても日本での「誰かを叱る」ようなものではなく、聖書を引用して「日常の中でも信仰は必要であり、そこには神の愛やメッセージがある」のだと伝えるのがメインらしい。
前世の多くの日本人と違って、神が顕現することもあるこの世界では、神への祈りは欠かせない日常の一つなのだ。
ミサが終わって人々が教会を出ていく。
はしっこにいる俺らには気づかず、シスターの誘導でよどみなく人の流れに続いて退出していくのは、慣れというか敬虔な信徒だからこそできる事だなと感心した。
何人かは神父へ相談があるようで、並んでいたので、それが終わるのも待つ。
俺は馴染みがないけど、住民の悩みに親身になって対応するのも教会の仕事なんだな……
神父と並んでいた住民の相談が終わるころには、すでに三時を回っていた。
俺たちが教会に着いたのが一時十五分くらいだから、最低でも一時間半はやっていたことになる……のか?
今日は平日だから休息日より短かったのかもしれないが、俺は領地の小さい教会で行われた行事しか知らないのでよくわからない。
あとでミハエルに聞いてみよう。
恐らく気づいていたのだろう、対応を終えた神父がミハエルのところへ早足で向かってきた。
「ミハエル殿下、お待たせしてしまい誠に申し訳ございません」
「いいさ、敬虔なる信徒を導くのが神父の仕事だからね。そうだろう、ダラソサトフ?」
「そう仰っていただけると助かります」
ダラソサトフと呼ばれた神父は、安堵したように一息ついていた。
ずっとしゃべり続けてたうえに、王子まで待たせてたのだから相当疲れてそうだな……この後のことを考えると申し訳ない、さらに気苦労をかけてしまうから……
「それで、ご用件はどういったものでしょうか?」
「ああ、すまないが……まだおおやけに話せない内容なんだ。司祭館で話させてもらってもいいか?」
「それは構いませんが……聞くのが少し怖くなってしまいましたな」
ダラソサトフさん、その予感……当たってます。
そんなわけで場所を移し、ダラソサトフさんが住んでいる建物「司祭館」の客間で話をすることにした。
「ミハエル殿下、お嬢様、こちらをどうぞ」
ダラソサトフさんが、ミハエルと俺にお茶を持ってきてくれた。
もちろんお茶請けも一緒だ。
甘いものが好きなので、こうした配慮は大変好感を覚える。
ダラソサトフさんはきっといい人に違いない。
護衛騎士の三人は警護中なので、残念だがお茶もお菓子も食べれない。
……あとでお礼に菓子折りでも持っていくか。
お茶を一口飲んで、まずは軽く俺の紹介をしてもらった。
「ダラソサトフ、こちらはアンナリーゼ・エイモン男爵令嬢だ。今回の話は彼女が発端でね、たぶん今後も関わると思うからよろしく頼むよ」
「エイモン男爵家次女、人位下級・四段のアンナリーゼ・エイモンにございます。神父様には本日お願いがありまして……ミハエル殿下にはその協力をしていただきました」
「これはご丁寧に……私はダラソサトフ・ベイセン。しがない神父として、ここ『ハースエウ教会』に勤め、信徒の皆さんを導いております」
「迷える王国民の手助けをする……とても素晴らしいと思います。そんな活動でお忙しいなか申し訳ないのですが、明日の午前……一時間ほど教会の聖堂を貸し切らせていただけないでしょうか?」
「聖堂を……? いったい何をなさるおつもりでしょうか? 内容によってはお断りさせていただくかもしれません、他の信徒の皆さんもいらっしゃいますから」
「ここからは僕が説明しよう」
ミハエルと説明役をバトンタッチする。
元々決めていた流れだ。
ダラソサトフさんをよく知っていて、立場も強いミハエルの方が納得してもらいやすいだろう……と言うのが理由である。
そりゃそうだ。初対面の相手に対して無理難題をいきなり受け入れさせるのなんて、バリバリ営業職やってたやつですら数をこなして何とかするレベルの難行だ。
俺がやるよりミハエルがやった方がいいに決まってる。
「実は、こちらのアンナリーゼ嬢が発見した魔装具で、一度だけ予知ができたんだ」
そう言ってビギナーズネックレスを見せる。
鑑定士でもない限り、魔装具を見ただけで効果を知ることはできない。
それを利用した作戦だ。
俺が御告げを受けたとか、前世の知識だとかよりは信ぴょう性がある……そう判断した。
後に世間へ公表する際の実績づくりとして、まずはダラソサトフさんには犠牲になってもらおう。
「ほう、予知の魔装具ですか。古代のアーティファクトなんてよく見つかりましたね」
「ダンジョンに隠されててね、偶然見つかったんだと。それで、予知の内容が『とある平民が聖女のギフトを授かる』というものだったんだ」
「なんと! 聖女のギフトを授かるものが現れるなど、数百年以来ですぞ!」
「そう、だから僕たちの派閥で事前に保護しておきたいんだ。兄上たちに先を越されたら……恐らくその平民の待遇は、良いとは言えないだろうからね」
「それは……確かに、そうですな」
何か思い当たる節でもあるのか、苦い顔をするダラソサトフさん。
教会の神父さんまでその認識なんだ……
「それで、明日の午前中に聖堂を貸し切ることは可能かい?」
「……教会を信徒に開放する前の時間に来てくだされば、対応は可能かと。いつも朝七時には開放していますので、朝六時と早くなってしまいますが……」
「まあ、そうするしかないよね。いきなり貸し切りにしたら、信徒のみなさんに何かあったと教えてるようなものだから」
「……おっしゃる通りかと」
「では、明日の朝六時に『聖女のギフトを授かる平民』を連れてくるから準備をお願いするよ」
「はっ、お任せください」
「それでは僕たちは、その平民と孤児院に話をつけてくるよ」
「はい、神のご加護があらんことを」
正直、予知の魔装具にもっと疑念を抱かれると思ったが……ミハエルへの信頼があったからか、信じてくれたようだ。
よし! これで明日、マナリアの授けの儀を行うことができる。
孤児院への説明は、ダラソサトフさんに説明したものと同じ説明をすることになった。
まあ、しょうがない。第二の犠牲になってもらおう。
正直、一回きりの予知ができる魔装具というのは少し無理矢理な感じがあると思うんだが……周りの反応を見るに許容範囲内なのだろう。
古代のアーティファクトと呼ばれる昔の魔装具に謎の信頼があるのは、俺もときクラでお世話になった隠し魔装具のようなものが過去に見つかっていたのかもしれない。
孤児院からマナリアを朝六時に連れてくることに関しては、王族の命令だと言えば逆らえないが……マナリアからの心象が悪くなりそうだとみんな予想した。
なので、特別なギフトで国に貢献できたら孤児院への寄付を増やすという約束もしたら、疑問は持ちつつも言うことを聞いてくれるだろう……ということで、前金を用意して孤児院へ向かうことになった。
マナリアがいる孤児院は、かなりお金に余裕がないので……賄賂みたいで気が引けるが、お金の力に頼ることにしたのだ。
俺としてはマナリアに嫌われたくないから、もっと俺の前世知識とか詳細を説明して納得してから来てもらいたいのだが……まず理解してもらえない可能性が高いのと、俺の正体を伝えるとどこで誰かに聞かれて話がこじれるかわからないから、結局は予知の魔装具によるものという最低限の偽情報で連れてくることになった。
すまない、マナリア……きっと疑心暗鬼になるだろうな。
俺たちのこと、嫌いにならないでくれるといいんだが……
そう願いながら、俺が伝えてあった孤児院へ向かうミハエルと護衛の人たちについていくのであった。




