第18話 魔装具の鑑定
はじまりの洞窟の最下層に挑み、難なくボスを倒した俺達は最奥の間の先へ進んで目的の魔装具『ビギナーズネックレス』を手に入れた。
そして鑑定のため王都に戻り、丁度お昼だったので王都で話題のレストランで昼食を食べることに。
王族御用達のドレスコードがあるような店ではなく、裕福な商人や高ランクの冒険者が来るようなギリ庶民向けのお店だったのでそこまで緊張せずにすんだ。
ミハエルは料理にも造詣が深いらしく、使われた食材や香辛料について色々教えてもらった。
前世でも今世でも、高級料理を食べる機会なんてそうそうなかったので大変参考になった。
男爵家で再現できそうなものは覚えておこう。
そして昼食を終えたら、そのままミハエル派閥の鑑定師がいる商店に足を運んだ。
着いたのは、店構えが貴族向けの落ち着いて小綺麗な魔装具店だった。
三十年ほど前に店主がギフトで鑑定師を授かったらしく、ミハエルの派閥の重鎮たちは昔から懇意にしてるらしい。
確かに、魔装具がダンジョンから新たに発見された時や、魔装具師を新しく開発した時に魔装具のランクや値段をつけなきゃいけないし、信頼できる鑑定師が派閥に一人はいてほしいのもわかる。
俺は持っていたビギナーズネックレスをミハエルに渡して、あとは任せることにした。
古いけど綺麗に磨かれた扉を開き、中に入る。
店内はコンビニくらいの広さで、棚には魔装具が並べられていた。
中に入った時のベルで来客がわかったのか、奥から四十代の男性が出てくる。
「おや、ミハエル坊っちゃんではないですか。今日は何用でいらしたのですか?」
「デモナン、公式の場ではないが、坊っちゃんはいい加減やめてくれ……」
「そう言われましても、坊っちゃんは坊っちゃんですから」
ミハエルが苦手そうにしてるの、初めて見たな。
それだけ心を許してるのかも?
ときクラでは魔装具を手に入れた場合、学園の鑑定制度を利用していたので描かれなかった関係性だ。
鑑定制度は、学生の中にいる『鑑定師』のギフト持ちが持ち込まれた魔装具を鑑定することで、その学生のギフト熟練度を上げるのが目的だ。
そして、学生に鑑定してもらった後はプロの鑑定師に再鑑定してもらえるので安心なのである。
ちなみに、ときクラのゲーム内では仲間に鑑定師がいるとアイテム全般の鑑定をしてくれるので結構重要な役割だったりする。
鑑定された魔装具は学園で管理してるリストに登録されて成績に影響するので、手に入れた魔装具を秘匿したいのか成績を良くしたいのかで持ち込み先が分かれる。
今は学生じゃないので特に気にしなくてもいいか。
「それで、本日の用件をお伺いしても?」
「ああ、実はダンジョンで魔装具を発見したからデモナンに鑑定してほしいんだ」
「ほう、ダンジョン産の魔装具ですか……それは是非とも拝見したいですな」
にこやかに対応する鑑定師のデモナンさん。
この人は魔装具が大好きで、それを仕事にしてる感じだな。
授かるギフトは本人の趣味趣向も関係してるのか……?
うーん、わからんな。
そんなことを考えてる間に話は進む。
「これが見つけた魔装具だ」
ミハエルがカウンターにビギナーズネックレスを静かに置く。
「殿下、触ってしまっても?」
「ああ、問題ない」
デモナンさんは睨むように魔装具を眺め、絹の手袋をはずして直に手を触れる。
鑑定などの感知系ギフトは、五感で対象の情報を得て、ギフトがそこから更に深い情報を探り当てるような使い方らしい。
「確かにこの魔装具は見た目こそ新しいですが、術式と素材は古代に存在した技術が使用されていますな」
「効果はわかるか?」
「そうですな……魔装具にほどこされた情報によると、神の褒美を少し授かりやすくする……と私のギフトは示しています。神の御業と呼ばれる褒美に関する魔装具なんて、現代の魔法学では逆立ちしても作れませんよ……こんな物、どこで手に入れたのです? それに情報には効果しか書いておらず、制作者の署名や生産国、使用素材などの情報もありません……これは古代のアーティファクトの特徴なのですが、いかがですかな?」
「すまないが、まだそれは教えられないんだ」
「それは残念」
残念と言いながら、最初からわかっていたような態度だ。
基本的に現代魔装具には情報が付与されている。
内容は、誰が制作して、どこ産の素材を使い、どこの国で作られたのか、効果はなんなのか、などが記載されている。
しかし古代の魔装具は、神々が創ったものや古代人が作ったものもあり……それらは効果内容だけ情報を付与して、それ以外の情報は欠落……と言うよりわざと残さなかったと考えられている。
その理由は明確になっておらず、どの神がどんな魔装具を創ったか調べ上げた人間が勝手にランク付けしたりするのを神が嫌がったからだ、というのが有力な説として広まっている。
ときクラでもこの辺は触れられてなかった。
設定資料集には書いてあったのかもしれないが……
ともかく、長年魔装具を見てきたこの人から見ても、ビギナーズネックレスは希少だとわかるほどとんでもない効果なのだろう。
……そういやシリーズ装備だから他にも似たようなのがあるって伝えた方がいいかな。
今はいいか、後にしよう。
「デモナン、鑑定してくれてありがとう。その時が来たら詳細を教えてあげるよ」
「遠くない未来であることを願ってますよ」
「ああ、確かに遠くない未来ではあるな」
「? それはどういう……」
「これ以上は話せない。邪魔したなデモナン、また来るよ」
そう言ってミハエルは店を出た。
慌てて俺や護衛騎士もついて行く。
店を出て人のいない路地裏を少し歩く。
我慢できず俺はミハエルに質問した。
「その、ミハエル殿下……殿下の判断としては、いかがでしょうか?」
「それについては、もう確定してる。君の知識は本物だ。全部信じるよ」
「!! では、この後は……」
「ああ、明日は君が言っていた『聖女になる平民』に授けの儀を受けてもらおう。そのために僕の派閥の教会で明日の午前中……一時間ほど貸し切らせてもらえるか、これから頼みに行くよ」
よかった……これで主人公ちゃんことマナリアが聖女のギフトを授かって、ミハエルと俺が協力して能力アップの魔装具を取りに行き、そして国王と王妃の解呪をできれば、ミハエルの手柄として所属はミハエル派閥になる可能性が高くなる。
そして、平民に厳しい第一王子や武力一辺倒な第二王子に奪われる可能性は低くなるだろう。
あの二人の派閥に行かれるとマジで詰むからな……
ゲームの時と同じように、攻略対象者が決まるまでどこにも属さずにいてくれるのが一番楽ではあったのだが……シナリオ改変を始めた時点で諦めるべき要素ではあった。
ともかく、問題はマナリアが聖女のギフトを授かって国王と王妃を治したことが広まったときに、どこからその知識を得たのか絶対に調べられること。
恐らく、俺の前世の知識を国王並びに王子たち全員、宰相や他の臣下にも話さなければいけなくなるだろう。
考えてたら胃が痛くなってきた……
まあ、まだ先のことだし悩むのはやめよう。
今はミハエルの言う教会が借りられるのかどうかを心配するんだ。
流石に大丈夫だとは思うけどね。




