第2話 新しい人生と魔力
ときクラに憤慨し、ふて寝したら異世界転生して赤ちゃんになった四葉達彦。
生まれてからしばらくは、残した家族のこと、遊ぶ約束をしていた友達のこと、納期が迫っていた仕事のことなど、前世のことを気にしていた。
しかし、見知らぬ乳母らしき人に授乳やオシメを替えてもらうという恥ずかしい事が連続したり、性別が男だった前世と違い女になっていた事だったり、満足に会話も動くこともできないという現状では元の世界に戻る手掛かりを探すのは不可能だと結論づけて、乳母に身を委ねながらこの世界でどう過ごすか考えていた。
少しでも早く動けるように身体を意識して動かしていると、身体の中に違和感がある事に気がついた。
それに意識を向けて試しに指を動かすような感覚でこねくり回してみた。するとそれは自分の感覚通りに動くではないか。
達彦は明らかに現代とは違うこの転生先を、地球の過去のどこかの国に転生したのか、ファンタジーな異世界に転生したのか測りかねていたが異世界に転生した可能性を強く感じた。
そしてこの魔力らしき物をこねくり回し右の掌に集中させる。そこでとりあえず魔法名的なものを日本語で発してみた。
「えあーうあっう」
想定したのは風魔法のエアースラッシュ。鏡に映った自分の髪色が緑だったので、もしかしたら風魔法が使えるかもしれないと思ったからだ。
すると手のひらから風が吹いた。
どういう理屈で魔法を放てたのかよくわからないが、想定してた魔法の威力には到底及ばない。
しかし達彦は歓喜した。昔からやっているゲームのような魔法を訓練次第で使えるかもしれないのだ。
その日から達彦は魔力をこねくり回し自在に動かす訓練と、そよ風しか使えないが魔力の消費をする訓練を日課にした。
何度か試してわかったのだが、どうやら体内にある魔力らしき物をこねくり回して身体のどこかに集め、声をトリガーに放出することで脳内のイメージと魔法を行使するという意思を基準に発動するらしい。
もちろんこの訓練は他人どころか家族だと思われる人にも見つからないように気をつけた。
そして訓練と並行して、乳母やメイドらしき人たちの会話も注意して聞いていた。
言葉がわからないが何度か同じフレーズがあるから少しは推測することが可能だからだ。
とりあえずわかったのは、自分の名前がアンナリーゼということ。
家族である両親や兄、姉と思われる人たちは自分のことをアンナと略して呼んでおり、乳母やメイドはアンナリーゼ様と敬称らしき呼び方をしている。
そんな事が数年続き達彦こと俺、アンナリーゼは5歳になった。
この年齢になれば既に日常会話はこなせるようになっており、アンナリーゼは家族や執事、メイドなどから様々な情報を得ていた。
まず、家はリーサント王国のエイモン男爵家。
あまりお金に余裕はないが貴族として最低限の暮らしはできている。
子供は兄と姉が一人ずつと生まれたばかりの弟がいる。
ちなみに十歳になるまでは敷地の外には出られない慣習があるようだ。
魔法がある世界だが文明がまだ未発達で、治安がいいとも言えず、魔力を貯める器が成熟して身体も安定し魔法で身を守れる年齢になるまで待つと言うのが理由らしい。
そしてこの世界には神様が複数実在し、いくつかの宗教もそれぞれの神様を崇拝している。
神様が複数いると言っても地球の時のような別の体系なのではなく、単純に神様は各々属性を担っており光の神「ミスラ」を中心に九柱の神様が世界の法則を管理しながら人類を見守っている。
慣わしとしては、十歳の授けの儀でギフトと呼ばれる特殊技能を授かり自分が持つ属性の神様の宗教に入信することになっている。
なので我が家は皆が緑の髪色であり風属性を持つので、風の神「アイオロス」の宗派に入信することになる。
そしてどうやら貴族は今の年齢、五歳から家庭教師を雇って言語や歴史に算学、貴族の礼儀作法、魔法座学に魔法実技などを少しずつ学んでいくらしい。
算学は問題なかったが、言語学や歴史学や礼儀作法など全く知らないことは覚えるのが大変だった。
家族である兄のボーガスは3歳上で姉のポリーレは1歳年上なので、たまに勉強を見てくれることもある。
そしてこの勉強が早くから行われるのは、王都にある王立リクドン魔法学園に入るためなのだという。
それを聞いて理解した。
この世界はときクラの世界なのだと。
今までは自分の名前がよくある名前だったことと、家名もゲームでは出てこなかったので気づけなかった。しかしリクドン魔法学園と聞いて、ようやく自分が主人公をサポートする親友ポジションの相談役キャラだったのだと思い至った。
しかしこれはマズい。
主人公のマナリアがこのままだとヤンデレ攻略対象者に監禁心中などを行われるバッドエンドに直行してしまう。
俺は考えた。
既に知っている原作知識と、自分の風魔法を使い色んな場所の話し声を風に乗せて集めることで、学園内の貴族関係などの情報で有利に立ちシナリオを改変することが最適解なのではないかと。
戦闘に関しては恐らく息をする生物相手なら、空気を操り口周りの空気を動かなくする……もしくは高濃度酸素を作り出し酸素中毒を狙う。
これで倒しやすい魔物を集中的に倒し、神の褒美という名のレベルアップによる能力強化を目指す。
神の褒美とは、瘴気によって生まれる世界の敵「魔物や魔獣」を倒すことで『褒美に貴方の世界への影響力を強くしてあげますよ』と神が慈悲を与えてくれるシステムのことだ。
レベルアップというシステムにより、少ない魔力で効率的に、より強力な魔法を使えるようになる。
風による斬撃や台風を起こす攻撃は、幼児の頃から訓練してる俺でも才能の差と言うべきか……出力が足りず効果を期待できなかった。
保持できる最大魔素量や、魔素を魔法を使うための魔力として練る速度は幼少期からのある程度の訓練で多少はどうにかできるが、魔力を魔法に変換する際の最大出力規模や魔素の回復速度は完全に才能に依存するらしい。
残念ながらその才能は俺にはなかったので、幼少期の貴重な時間にひたすら保持魔素量と魔力を練る速度と魔法を細かく広く操る技術を磨くことにした。
これでどうにかシナリオを破壊できればいいんだが……




