第16話 はじまりの洞窟〜入口から下層〜
馬車からミハエルのエスコートで降りる。
御者はそのまま馬車を移動させていた。ここは停留所だったらしい。
次の馬車が同じ場所に止まり、中から貴族の子供が親と一緒に降りてくる。
周りを見渡すと俺と同じくらいの子供たちがおり、親や師事を仰いでいる熟練冒険者らしき人と話をしていた。
その子達は革鎧やローブを纏って各々の武器を携えて、これから挑むダンジョンに緊張しているようだった。
ただ、よく見てみると装備の違いと同行者に違いがあることに気づく。
端的に言うと……貴族は高そうな装備を、平民はお下がりらしき使い古された装備を身に着けていた。
そしてそれは同行者も同じで、恐らく高ランクで強そうな冒険者パーティーは貴族の子とダンジョン内での予定のすり合わせを、中級ランクに見える冒険者は平民を何人か連れてダンジョンに入る前の注意事項を伝えていた。
なるほど、貴族の子供は高い金を払って高ランクの冒険者に依頼を出すのが普通なのか。
はじまりの洞窟は初心者用のダンジョンであり、一度最下層のボスを倒せばもう用はないので次のダンジョンへと向かうのが当然の流れになっている。
高額の依頼で高ランク冒険者を雇った貴族は、指定した期間に色々なダンジョンを安全の確保をしながら挑戦して、場数を踏ませつつ神の褒美ももらう算段だろう。
我が男爵家みたいにお金に余裕のない貴族からすると高ランク冒険者を雇えないので、ミハエルの提案は渡りに船と言ったところだ。
平民については、冒険者ギルドが定期的に初心者講習をやっていると耳にしたことがあるから、きっとそれだろう。
それにしても人が多い。
ただ、貴族の子供は少ない……授けの儀からは幾日か経過してるので既にこのダンジョンを攻略してるのだろう、ちらほら見かける程度だ。
それに対して平民の子供は多い。
平民全体では、授けの儀を終えた者はまだ半分もいないはず……しかしここは王都の近くだ。
王都で授けの儀を終えた平民が、ここに集まるのは必然なのだろう。
一応、平民は広場の使いやすい中央を貴族に譲り、自らは端の方で仲間たちと話している。
そしてミハエルを見た中央の貴族たちは驚きながらも高位貴族や王族への敬意を表す姿勢を取り、道を譲る。
「ここだと皆に気を使わせてしまうね……このダンジョンは弱いスライムしか出ないし、中で話そうか。五階層まで行けば人も少なくなるし、そこにしよう」
「承知いたしました」
ミハエルの提案により、ダンジョンの中で詳しく話をすることになった。
はじまりの洞窟は全部で十階層の初心者用ダンジョンだ。
魔物も弱いスライムしか出ない。
だが、この世界では初めてのダンジョンなので少し緊張する。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、ミハエルは俺と護衛騎士を連れて、地下へと続くダンジョンの入口へ入っていく。
入口にはリーサント王国と冒険者ギルドから派遣された兵士と冒険者が共同で監視していたが、ミハエルや俺が出した紋章をあしらったペンダントを見せると普通に通してくれた。
初心者ダンジョンは授けの儀を終えた貴族ならば誰でも入れるのだ。
まあ、貴族の特権と言うやつだな……高貴な身分が保証されてるのはやはり強い。
でも中級ランクのDランクダンジョンからは国に申請が必要だ。
ちなみに平民は授けの儀を終えてギルドで冒険者登録をしないと駄目だけどね。
ダンジョンの中に入ると、どこか空気中の魔素が濃くなったように感じた。
俺は初めて見るダンジョンをキョロキョロと見回した。
ゲームと同じで洞窟型のダンジョンは光苔が壁や天井に張り付いているので、基本的に松明などは必要ない。
高難易度の洞窟型ダンジョンだと違うのだが、今はどうでもいいことだ。
幅十メートルはある通路を、どんどん進んでいく先頭の護衛騎士やミハエルに遅れないよう、早歩きでついて行く。
たまに平民と引率の冒険者を見かけるが、スライム数匹に対して大人数で対応している。
低ランクダンジョンのスライムは粘液を飛ばしてくるが、移動速度は遅いし粘液も触れた箇所が痺れるくらいで、しかも時間が経てば自然に治る。
流石に目に入れば放置は危険なので、すぐに水で洗い流す必要があるが……
そんなスライムだが、中心にある核を破壊したら壊れた核が魔石へと変化し、スライムの身体を構成していた瘴気がその魔石へと収束する。
こうして瘴気で濁った魔石がドロップするわけだ。
しかし、その核を破壊するには周りの粘液をどうにかしないといけない。
高レベルの魔法職は魔法で、近接職は身体強化して武器に魔力をまとわせて斬れば、粘液などものともせずに核ごと一発で両断できるのだが……ギフトも弱く、低レベルだとそうはいかない。
複数人で弱い魔法や未熟な魔力強化の攻撃で少しずつ粘液を減らしていき、核を直接攻撃できるようになってようやく倒すことができる。
彼らは神の褒美を早く貰うよりも、安全を重視して戦っているようだ。
そんな平民を尻目に、俺達は先を急ぐ。
ダンジョンにアクシデントはつきもの、慎重に進みたいところだ。
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まあ、特に何事もなく目的の五階層に着いたんだが……そこまでは人が多いので魔物であるスライムもほとんど倒されており、たまに出現したスライムも護衛騎士が一瞬で倒したので、俺は何もすることがなかった。
うん、確かに今回は魔装具の回収が目的で、条件達成のために俺は道中で戦ってはいけないのだが……初めてのダンジョンなのにまともに魔物と戦えず、少し悲しい。
最下層ボスを倒すために空間魔法を週末に練習したので、全く戦えないわけじゃないんだ……本当に。
そして五階層の端の方に位置する、魔物がほとんど湧いてこないと言われる休憩できる場所で、俺が伝えていた『隠された魔装具』の詳細について最終確認することになった。
「それでは改めて確認をいたします。今回わたくし達が入手する予定の魔装具は、古代のアーティファクト『ビギナーズネックレス』と言います。効果は『魔物を倒して得られる貢献値が二割ほど増える』というものです、ここまでは問題ありまそんね?」
「貢献値をどうやって測定したのか気にはなっているが……問題ない」
「では続きを……このビギナーズネックレスは、はじまりの洞窟の最下層ボス『ビッグスライム』を階位が『人位下級・一段』のまま『一人で倒す』ことが条件です。無事に倒せたら、最奥の間の更に奥に部屋が出現し、その部屋の台座に安置されています……以上が今回の魔装具回収の流れですが、何か質問のある方はいらっしゃいますか?」
護衛騎士の一人が手を上げる。
「その部屋は魔装具を取った後も残りますか?」
「いいえ。魔装具を取り、人が部屋からいなくなった時点で消滅します」
「なるほど、では他の人が部屋に気づく可能性はないのですね」
「最下層ボスを倒すのに手こずれば、後から来た挑戦者の方々に見られる可能性がありますが……」
「では、私が監視として最下層ボスの部屋で待機いたします」
「そうしてくださると助かります、ミハエル殿下もそれで構いませんか?」
「もちろん、それで構わないよ。じゃあ最下層ボスを倒したらすぐに部屋へ向かい、魔装具を回収してさっさと撤収しよう。細かい確認は王都に戻ってからだ」
「はい、ではそのように」
これで後は俺が最下層ボスを倒すだけだな。
普通なら十階層にたどり着くあいだに複数人でスライム数十匹と戦い、レベルが3〜5くらいまでは上がる。
しかし俺はビギナーズネックレスを手に入れる条件を満たすために、ずっと戦闘に加わらず何もせずにいたのだ。
まあ、ビッグスライムも普通のスライムと同じで中心の核を壊せばいいだけなので、空間魔法を使える今の俺なら苦戦しないだろう。
風魔法だけだったら無理だったな……
……ちょっと空間魔法の練習しとこ。
その後も、強さの変わらないスライムが出てくるだけで護衛騎士が対応し、無事に最下層まで来ることができた。




