第13話 はじまりの洞窟への準備
どうにかお父様へ自分のことを説明し、なんとか納得してもらった……
いや、理解が追いつかないから諦めただけかもしれない。
ともかく俺は異世界の知識を利用することについて、お父様から一任された。
お前が判断した方が正しそうだ……それに社交の誘いがあちこちから来てるので、その対応のために王都から離れられん、という理由だった。
やっぱり理解を諦めたのでは……?
そんなこんなで、俺は週末にダンジョンへ挑むための装備を整えた。
具体的には、杖とマントに短剣だ。
杖は、魔法を使う際に体内の魔力を魔法へ変換する時の魔力量や時間のロスなどを少なくする。
そして杖の効果は属性や使う魔法によって適正があるため、高ランクの冒険者や高位貴族は複数の杖を装備するのが普通だ。
俺みたいな下級貴族は自分の属性に合う杖の中から、一番得意な魔法を高威力で早く放てるものを選ぶか、幅広く魔法を使う際に消費を抑えられるものを選ぶ。
どちらを選ぶかはその人の性格によるな。
マントは耐刃性が比較的高いものを選んだ。
出血はダンジョン探索だけじゃなく日常においても危険な状態だ。回復魔法があるため衛生面の技術の発達が遅れていて、重い症状の病気にかかることもある。
ポーションや回復職がいれば問題ないが回復職は希少なため、必然的にポーション頼りになるのだが……そのポーション代が結構するので下級貴族や冒険者は出血をしないよう立ち回るしかないのだ。
短剣は普通の短剣で、これは戦闘では基本使わない。
素材採取の時に使うのであり、貴族も冒険者もみんなダンジョンに潜る時は携帯している。
ただし、俺が今回買った装備はどれも男爵家で買える程度のランクの低い装備だ。
そうして装備の準備を終えた俺は、空間魔法の訓練を行った。
空間魔法は、固定、変形、移動、削除、切断、変色、圧縮、拡張、転移、接続、分離など意外とできる事は多い。まあ、使うには膨大な保持魔力量と出力量が必要だがな!
まずは身を守る『固定』と攻撃の『削除』を、素早く行うようにするのが目標だ。
この二つに限らず空間魔法は魔力出力量の関係で薄く伸ばして使わなければいけない。薄さが足りないと俺の最大出力を超える事になり、魔法が発動しない。なので注意が必要だ。
切断ではなく削除にした理由は、切断はハサミで切るタイプなのに対し、削除は野球ボール分くらいの大きさを消すことも出来るので、切断より応用が利くと思ったからだ。
週末という短い時間だが、魔装具獲得のために集中して取り組んだ。
そして訓練で減った魔力の回復を待つ時間に、変装して孤児院の近くへ足を運び、主人公ちゃんことマナリアを遠目に確認。
まだ物語が始まっていないからか普通の容姿のままで、明るめな赤髪をボブカットにしており他の子どもたちと楽しそうに遊んでいる。
聖女のギフトを授かると髪色と瞳に変化が出るから、まだ授けの儀を受けていないことがわかる。
とりあえずマナリアが設定どおりに孤児院に居てくれてよかった。
これで翌週のダンジョン探索に憂いはなくなった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして週が明けた。
今、俺たちは王都から出て『はじまりの洞窟』のある場所へ向かっている。
リーサント王国の第三王子ミハエルの用意した馬車でだ。
そんな馬車の中で……俺は対面に座る、そのミハエル本人に尋ねる。
「それにしても良かったのですか? 殿下の護衛が三名だけなんて……しかも、お父様は派閥の対応が必要で同行できませんでしたから、わたくしと殿下だけになってしまいましたし……」
「構わないさ。人数を多くしても目立つし、情報の漏洩を考えたら人数は少ない方がいい。それに護衛の三人は護衛騎士団の精鋭たちだ、僕だけじゃなく君のことも守ることは造作もないさ」
「そういうものでしょうか……」
そう、俺が乗っている馬車にはミハエルと俺しか乗ってない。
出発前に一応今回の隠し魔装具について情報を護衛騎士とミハエルに共有してたのだが、その時から人員は少なかった。護衛騎士と身の回りの世話をしていた侍従が合わせてせいぜい九人くらいだったのだが、出発する時には護衛騎士の三人に馬車の御者一人に俺とミハエルで、六人だけになったのだ。
王族が侍従を連れてこなくてよかったのか?
まあ、すぐに終わるから世話を任せるようなこともないだろうし俺は構わないのだが……
ちなみに余程大きな声を出さない限り、御者に中の話し声は聞こえない。
護衛の騎士三人も馬に跨り周囲を警戒してくれているだけだ。
いいのかな……貴族教育で習ったのは、馬車や個室に貴族の男女が二人きりになるのは恋仲を疑われて噂を流されるので避けるべき……だったんだが。
護衛が少ないのは、王都の近くで治安も良いし他の冒険者や行商人などの通行人も多いから盗賊や魔物の心配はないかもしれないが……王子として多少見栄をはらないと求心力が落ちるのでは……?
俺が不安な顔をしてたからか、ミハエルはイタズラが成功したみたいな顔で説明を始める。
「実は、これはまだ内緒の話なんだけど……僕の派閥はリクドン魔法学園に入学したい下級貴族の子女向けにダンジョン探索の指導を行うつもりなんだ。君はその指導の偉大なる最初の一人、と言うわけだから変な噂が流れたりする事はないよ。ちなみにターゲットは強い魔法を使えずに神の褒美を授かりにくい子でね……派閥関係なく参加してもらう事で、強くなりつつ横の繋がりも作る。そうして僕達の学年全体の実力を底上げするのが目的なんだ」
「まあ、そうだったのですか? でもそれでは第一王子と第二王子の派閥の底上げにもなりますけれど……」
「うん、そうなるけど……構わない。君が授けの儀のパーティーで言っていた事を真剣に考えてね、派閥関係なくなるべく大勢に利益のある政策を行うことで、国全体を富ませる方針にしたんだ。カマロン兄上やトコーツン兄上と違う方法で勝負しないといけないからね。まあ、単純に僕自身が皆で強くなることを望んでるのもあるけれど」
落ちこぼれる人を見たくないから……そんな言葉が聞こえてくるようだった。
ミハエルは十歳という若さだが……どんな人生を送ってきたのだろう。
俺が知ってるのはときクラで描写された、エンターテインメントのために必要なキャラクターの言動だけだ。
ゲームをしていた時はミハエルのヤンデレに対して憤りを感じていたが……実際に話してみて、印象はまるっと変わっていた。
シナリオの改変、本腰を入れて取り組まなきゃいけないな……
その後ダンジョンに到着するまで時間があり……ミハエルの提案で、俺がいた世界から見たこの世界の魔法や神様の知識について議論を交わしたいとお願いされた。
設定資料集を熟読したわけではないが、一応ゲームは全クリしたから多少は話せるだろう。
俺はミハエルのお願いを快諾し、談義が始まった。




