5.勇者の装備とオオカミ退治
「これは『鋼鉄のレギンス』だ。防御力は高いが、重いのが難点だな。
こっちは『疾風のサンダル』。移動速度が上がるが、耐久性は紙だ。
スピード重視にするか、防御力重視にするか、それともバランス型か……」
店主が深刻な顔で悩み始めたが、私の忍耐は限界だった。
私は強引にだいちゃんを引っ張って、防具屋の外へ飛び出した。
呆れ果ててしまったのだ。
ツッコむのも疲れるし、正直、もうどうでもいい。
「もういいわよ。スニーカーで十分。
私は人間なんだから、履き慣れた靴が一番なの!」
「えーっ、加奈お姉ちゃん、どうしたの?
僕まだ、僕の帽子を買ってないよ」
右腕でだいちゃんが不満げにバタバタと暴れる。
「あんたの帽子はどうでもいい!
そんなに帽子が欲しかったらね、夢から覚めたらいくらでも作ってあげるわよ。
フェルトでも何でも使って、最高級のやつをね!」
「……本当? 約束だよ!」
急にだいちゃんがおとなしくなり、ボタンの目をキラキラ(させたような気が)させた。
「だったら僕、魔法使いの帽子がいいなぁ。
黒くて、こう、三角形のやつ。……ね、約束だよ、お姉ちゃん」
思わぬ無邪気なおねだりに、毒気を抜かれてしまう。
あんた【称号:勇者】でしょ。なんで魔法使いの帽子なのよ……。
と、職業設定の矛盾に心の中でツッコミつつ、私はため息をついた。
「……わかったわよ。約束。現実に戻ったら、最高にカッコいいやつを縫ってあげるわ」
◇
「よーし! オオカミ退治に出発だー!」
だいちゃんの元気な掛け声と共に、私の足は動き出した。
目的地は東の森。
さっきまで夢か現実か判別がつかなかった世界だが、
もうそんなことはどうでもよくなっていた。
とりあえず、だいちゃんに続く。
すべては明日のライブ配信のネタのため。
「ねぇ、だいちゃん……その森って遠いの?」
「んー? すぐそこだよ! ほら、もう道の脇から草が生え始めてるでしょ?」
確かに、通り過ぎていく景色は徐々に人家が減り、
石畳の道路も粗末なものへと変わっていく。
そしてついに、完全な悪路に差し掛かった。
「ちょっと待って……待ってってば!」
舗装も何もされていない、ただ土が踏み固められているだけの小道。
その地面は時にぬかるみ、時に尖った石ころが顔を出す。
スニーカー越しにも衝撃がダイレクトに伝わってくる。
「痛っ!……うわっ、すべった!」
「ほらほら加奈お姉ちゃん! 遅れてるよー。足を上げて!」
右腕のだいちゃんがぐいぐいと引っ張る方向へ、無理やり足を運ばされる。
「ねぇ! ちょっと休もう、久しぶりに結構歩いて疲れたよ……
あぁぁ、限定モデルのニューバランスなのに……泥だらけになったじゃない!」
「ねぇ、お水持ってない?」
だいちゃんは首を横に振る。
「ぼく、そんなに喉乾くことないから持ってない」
ああ、そうだった。こいつは綿と布の塊。
生理現象を共有できない相棒ほど、厄介なものはない。
私はカサカサになった喉で、絶望的に噛み合わない空を仰いだ。




