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40.主役オーディション

それから数日後。

舞香は演劇サークルのシナリオ担当の先輩たちに捕まり、毎日のようにダメ出しとアドバイスを受けていた。

「ここ、説明台詞になってる」

「場面転換が多すぎるかな」

「このシーン、観客置いていかれない?」

「でも、この発想は面白い」

そんなやり取りを繰り返しながら、少しずつ脚本は形になっていった。

そして――。

ついに完成した。



部室。

読み合わせ用に印刷された台本を前に、監督が腕を組んでいる。

部屋の中は妙に静かだった。

私は少し緊張しながら様子を見守る。

やがて監督が最後のページを閉じた。

「面白いな」

舞香の顔がぱっと明るくなる。

「本当ですか!?」

「ああ」

監督は頷いた。

「異世界ものなのに、演劇サークルの話にもなってる」

「やった!」

「構成も悪くない」

舞香は小さくガッツポーズをした。

数日間の苦労が報われた瞬間だった。

しかし。

監督はそこで一枚目のページを開く。

「ただ」

嫌な予感がした。

「主役は誰がやるんだ?」

「あ」

舞香が固まる。

監督は台本を指差した。

「主人公は加奈だよな?」

「うん」

「じゃあ加奈役は?」

舞香は当然のように答えた。

「加奈」

部室が静まり返った。

「えっ」

思わず変な声が出た。

監督も少し困った顔になる。

「加奈、まだ入ったばかりだろ?」

「そうですね」

「主役経験は?」

「ありません」

「演劇経験は?」

「高校の文化祭で一回だけです」

監督は頭を掻いた。

周囲の部員たちも微妙な表情をしている。

それはそうだ。

新人をいきなり主役にするのは勇気がいる。

すると沢木が口を開いた。

「じゃあオーディションにします?」

「だな」

監督も頷く。

私は内心ほっとした。

そうそう。

それがいい。

経験者がやればいい。

私は裏方で十分だ。

ところが。

舞香がにやりと笑った。

嫌な予感しかしない。



数十分後。

部室の中央。

私はなぜか立たされていた。

「ではオーディション課題です」

舞香が進行役を始める。

「課題シーンは、加奈とパペットたちの日常会話」

「え?」

「はいスタート」

待って。

心の準備が。

全然。

ない。

「加奈!」

突然、舞香がクロさん役になる。

「なんだ?」

反射的に返事をしてしまった。

「なんだとは何だ!」

「いや、クロさんが呼んだからでしょ!」

「愚か者め!」

「理不尽!」

部室から笑いが漏れる。

しまった。

完全にいつもの流れだ。

そこへ舞香が今度は声色を変える。

「勇者だいちゃん!」

「はいはい」

また反射で返してしまった。

「はいはいじゃない!」

「だって絶対ろくでもない話でしょ!」

さらに笑い声が大きくなる。

私は途中で気付いた。

あれ?

なんでみんな笑ってるの?

舞香は満面の笑みだった。

そして監督を見る。

監督は腕を組んだまま頷いていた。


「なるほど」

「でしょ?」

「これは加奈じゃないと無理だな」

「ですよね」

私は嫌な予感しかしなかった。



オーディション終了後。

監督はあっさり言った。

「主役は加奈」

決定だった。

「えぇぇぇ……」

私は机に突っ伏した。

沢木が苦笑する。

「おめでとう」

「全然めでたくないです……」

すると舞香が肩を叩く。

「よかったじゃん」

「よくないよ」

私は顔を上げた。

「私、本当は裏方がよかったんだけど」

「なんで?」

「だって私、だいちゃんの声とクロさんの声やる予定だったし」

舞香はきょとんとした。

そして当然のように言った。

「それも加奈だよ?」

「え?」

「だいちゃんの声も」

「うん」

「クロさんの声も?」

「うん」

「私が?」

「当然」

私は固まった。

舞香は満面の笑みを浮かべる。

「だって普段からやってるじゃん」

部室中が笑いに包まれた。

私だけが笑えなかった。

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