第四章最終話:異世界は舞台になる
その日の夜。
アパートへ帰った私は、ベッドの上に倒れ込んだ。
「疲れた……」
主役決定。
しかも、だいちゃん役とクロさん役まで兼任。
思い出しただけで胃が痛い。
私は枕に顔を埋めた。
数秒後。
スマホの通知音が鳴る。
見ると舞香からだった。
『完成版できた』
添付されたPDF。
タイトルは――
『異世界接続者(仮)』
だった。
私は少しだけ迷ったあと、ファイルを開く。
◇
一ページ目。
ドラゴン討伐へ旅立つAランク冒険者。
沢木が演じることを前提に書かれたその場面は、やたらと格好良かった。
思わず苦笑する。
「沢木、絶対喜ぶなぁ……」
ページをめくる。
暗転。
現代。
ライブ配信。
だいちゃん。
そして――
私。
異世界。
クロさん。
ギルド。
時計。
アクセサリー。
Aランク冒険者への取材。
勇者の称号。
復活の呪い。
ここ数週間で経験した出来事が、次々と物語になっていた。
不思議な気分だった。
全部、本当にあったことだ。
それなのに。
台本として読むと、まるで最初から誰かが作った物語みたいに見える。
私は最後のページを開く。
そこには舞香らしい締めの一文が書かれていた。
『現実に存在する異世界なんて、最高に面白いじゃん』
思わず笑ってしまう。
本当に、あいつらしい。
スマホが震えた。
今度はメッセージだった。
『どう?』
私は少し考えてから返す。
『悔しいけど面白い』
すぐに既読が付いた。
『でしょ』
それだけだった。
◇
私はスマホを置く。
そして机の上へ視線を向けた。
そこには、あの百均のデジタル時計。
異世界へ持ち込んだはずなのに。
現実にも存在している時計。
異世界にも存在している時計。
私はぼんやりと液晶を見る。
時刻は静かに進んでいた。
勇者の復活。
リンク切断。
アクセサリー。
そして、この時計。
脚本は完成した。
でも――
異世界の謎は、何ひとつ解けていない。
その時。
スマホが再び震えた。
舞香からだった。
『そういえば』
嫌な予感がした。
『時計の件』
やっぱりだ。
『勇者の件』
やっぱりだ。
『アクセサリーの件』
やっぱりだ。
『まだ全然終わってないからね』
私は天井を見上げた。
数秒考える。
そして、小さく呟いた。
「終わったと思ったのになぁ……」
すぐに返事が来る。
『新章、取材開始!』
私は枕を抱えて転がった。
異世界は舞台になった。
けれど。
私たちの異世界調査は、まだ終わりそうになかった。
第四章 完




