39.シナリオメイキング
異世界から戻ってきた私たちは、深夜料金のファミレスに移動していた。
ちなみに、舞香がAランク冒険者に渡したアクセサリーは、こちらの世界のポーチにしっかり残って戻ってきていた。
本当にノーリスク決済が成功してしまったことに戦慄しつつも、私たちの話題は次のステップへと移る。
「多分だけど――」
ファミレスのドリンクバーから戻ってきた舞香が、ノートを開きながら言った。
「出だしは沢木」
「沢木?」
私は思わず聞き返した。
「うん。Aランク冒険者役」
舞香はさらさらとノートに線を引く。
「ドラゴン討伐に向けて旅立つシーンから始めるの」
「ああ、確かにカッコよさそう」
今日聞いた冒険譚を思い出す。
ドラゴン。
巨大な翼。
炎のブレス。
そして、それに立ち向かうAランク冒険者たち。
舞台映えは間違いない。
「でしょ?」
舞香は嬉しそうに頷いた。
「沢木が仲間たちを率いて登場」
「うん」
「ドラゴン討伐の依頼を受ける」
「うん」
「旅立つ」
「うん」
「観客は『おお、王道ファンタジーだ』って思う」
「まあ思うね」
ここまでは普通だ。
普通に異世界ファンタジーの始まりだ。
しかし、舞香はそこで意味深に笑った。
「あとは暗転」
「うん」
「で、次のシーン」
嫌な予感がした。
「急に現代」
「は?」
「大学生の加奈」
「は?」
「ライブ配信終盤」
「は?」
私は思わず三連続で聞き返してしまった。
舞香は構わず続ける。
「観客は絶対きょとんとする」
「すると思う」
「さっきまでドラゴンいたのに、急に女子大生が配信してるんだよ?」
「そりゃ混乱するよ!」
舞香は満足そうに頷いた。
「その混乱が大事なの」
私は頭を抱えた。
「大丈夫かなぁ……」
「大丈夫大丈夫」
舞香は自信満々だった。
「で、ライブ配信終了」
「うん」
「加奈が疲れて倒れ込む」
「うん」
「だいちゃんを付けたまま」
「うん」
「暗転」
「うん」
「異世界の広場」
私は少し考える。
なるほど。
最初にドラゴン討伐のシーンを見せているから、観客は異世界の存在を知っている。
その後で現代パートを見せる。
そして異世界へ。
「……ああ」
私は思わず声を漏らした。
「観客は、加奈が異世界に転移したって思うんだ」
「そう!」
舞香が勢いよくテーブルを指差した。
「それそれ!」
得意げな顔。
どうやら狙い通りらしい。
「それにさ」
舞香はさらに続ける。
「沢木問題も解決」
「沢木問題って何」
「演劇サークルの顔を何の役にするか問題」
「ああ……」
そういえばそんなことを言っていた。
「沢木は最初に出てくる」
「うん」
「カッコいい」
「うん」
「ドラゴン討伐する」
「うん」
「絶対目立つ」
「それは目立つね」
舞香は満足そうに腕を組んだ。
「完璧」
私は苦笑する。
異世界の謎を調べるはずだったのに。
気付けば本当に脚本作りになっている。
でも、今日の冒険譚を聞いていて思った。
ドラゴン。
勇者。
復活の呪い。
Aランク冒険者。
どれも確かに面白かった。
それを舞香がどう舞台にするのか。
少しだけ興味が湧いてしまう。
「続きは?」
私がそう尋ねると、
舞香は待ってましたとばかりにページをめくった。
「ここからが本番です」
その目は、完全に脚本家の目になっていた。




