37.時計とアクセ
私と舞香は恋人つなぎをしたまま、その手の中にアクセサリーポーチを忍ばせて異世界へ渡った。
気が付くと、見慣れたミクスの町の広場。
石畳の地面。
行き交う人々。
噴水の水音。
私は周囲を見回した。
「加奈」 振り向くと、
舞香とクロさんが立っていた。
舞香はにやりと笑い、手にしたアクセサリーポーチを軽く振る。
「無事持ってこれたよ」
「中身確認した?」
「うん、大丈夫」
舞香はポーチを開けて見せる。
中にはネックレスやイヤリングがちゃんと入っていた。
私はほっと胸を撫で下ろした。
「じゃぁ行こうか」
私たちはそのままギルドへ向かった。
◇
昼のギルドは今日も賑わっていた。
受付には依頼を受ける冒険者たちが並び、酒場スペースからは笑い声が聞こえてくる。
その時だった。
私は近づいて、受付に置かれた時計の液晶を確認する。
現実世界にも今頃存在しているはずの、百均の時計。
そこには、前回こちらを離れた時の日付と時刻が表示されていた。
「えっ」
思わず声が漏れる。
しかし次の瞬間――
液晶表示が一瞬だけ切り替わった。
日付は今日。
時刻も現在の時間。
まるで今この瞬間に合わせるように更新された。
「えっ? ……どういうこと?」
私は時計を見つめたまま固まる。
「なに?」
舞香が覗き込んできた。
私は慌てて説明する。
「さっきまで前回来た時の日時だったの。 でも急に今の時間になった」
「ふーん……」 舞香は時計を受け取る。
「電池が外れてたとか?」
そう言いながら裏蓋を開けた。
中には単三電池が一本。
電池ケースにしっかり固定されている。
舞香は何度か指で触ってみたが、 特に異常は見当たらない。
「別に外れてないね」
「じゃあ何だったんだろう……」
私は首を傾げた。
時計は今も普通に動いている。
さっきの表示が幻だったとも思えない。
けれど理由はまったく分からなかった。
「まぁ、いいじゃない」
舞香は時計を返しながら言った。
「それより取材よ、取材」
さっきまでの不思議そうな顔はどこへやら、 目が完全に獲物を見つけた時のそれになっている。
「Aランク冒険者は――」
舞香がギルドの奥を見回す。
そして勢いよく指を差した。
「いた!」
そこには以前見かけたAランク冒険者たちがいた。
舞香は迷うことなく一直線に近づいていく。
「ちょ、ちょっと待って!」
私は慌てて後を追う。
すると、こちらに気付いた一人が苦笑した。
「あぁ、あの生意気な人形の一行か」
「誰が生意気だ!」
クロさんが即座に反応する。
いや、クロさん十分生意気です。
私は心の中だけでツッコんだ。
冒険者たちは苦笑しながら肩をすくめる。
「相変わらず元気そうだな」
「当然だ」
クロさんは胸を張った。
「私は偉大なる大魔法使いだからな!」
「はいはい」
完全に子供をあしらうような返事だった。
クロさんは不満そうだったが、冒険者たちはどこか楽しそうに笑っている。
どうやら前回のやり取りで、すっかり覚えられてしまったらしい。
その様子を見ながら、舞香が一歩前へ出た。
「あの、色々お話聞いてもいいですか?」
「ん?」
冒険者の一人が首を傾げる。
「何かあったのか?」
「いえ、その……」
舞香は少しだけ言葉を選び、
「冒険譚とか聞きたくて」
と言った。
数秒の沈黙。
やがて冒険者たちは顔を見合わせる。
「冒険譚?」
「急だな」
「いや、でもそういうの嫌いじゃねぇぞ」
一人が豪快に笑った。
「なんだ嬢ちゃん、吟遊詩人でも目指してんのか?」
「似たようなものです!」
舞香は即答した。




