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37.時計とアクセ

私と舞香は恋人つなぎをしたまま、その手の中にアクセサリーポーチを忍ばせて異世界へ渡った。

気が付くと、見慣れたミクスの町の広場。

石畳の地面。

行き交う人々。

噴水の水音。

私は周囲を見回した。

「加奈」 振り向くと、

舞香とクロさんが立っていた。

舞香はにやりと笑い、手にしたアクセサリーポーチを軽く振る。

「無事持ってこれたよ」

「中身確認した?」

「うん、大丈夫」

舞香はポーチを開けて見せる。

中にはネックレスやイヤリングがちゃんと入っていた。

私はほっと胸を撫で下ろした。

「じゃぁ行こうか」

私たちはそのままギルドへ向かった。



昼のギルドは今日も賑わっていた。

受付には依頼を受ける冒険者たちが並び、酒場スペースからは笑い声が聞こえてくる。

その時だった。

私は近づいて、受付に置かれた時計の液晶を確認する。

現実世界あっちにも今頃存在しているはずの、百均の時計。

そこには、前回こちらを離れた時の日付と時刻が表示されていた。


「えっ」


思わず声が漏れる。


しかし次の瞬間――


液晶表示が一瞬だけ切り替わった。

日付は今日。

時刻も現在の時間。

まるで今この瞬間に合わせるように更新された。


「えっ? ……どういうこと?」


私は時計を見つめたまま固まる。

「なに?」

舞香が覗き込んできた。

私は慌てて説明する。


「さっきまで前回来た時の日時だったの。 でも急に今の時間になった」

「ふーん……」 舞香は時計を受け取る。

「電池が外れてたとか?」

そう言いながら裏蓋を開けた。

中には単三電池が一本。

電池ケースにしっかり固定されている。

舞香は何度か指で触ってみたが、 特に異常は見当たらない。

「別に外れてないね」

「じゃあ何だったんだろう……」

私は首を傾げた。

時計は今も普通に動いている。

さっきの表示が幻だったとも思えない。

けれど理由はまったく分からなかった。


「まぁ、いいじゃない」


舞香は時計を返しながら言った。

「それより取材よ、取材」


さっきまでの不思議そうな顔はどこへやら、 目が完全に獲物を見つけた時のそれになっている。


「Aランク冒険者は――」

舞香がギルドの奥を見回す。

そして勢いよく指を差した。

「いた!」

そこには以前見かけたAランク冒険者たちがいた。

舞香は迷うことなく一直線に近づいていく。

「ちょ、ちょっと待って!」

私は慌てて後を追う。

すると、こちらに気付いた一人が苦笑した。


「あぁ、あの生意気な人形の一行か」


「誰が生意気だ!」

クロさんが即座に反応する。


いや、クロさん十分生意気です。

私は心の中だけでツッコんだ。


冒険者たちは苦笑しながら肩をすくめる。

「相変わらず元気そうだな」

「当然だ」

クロさんは胸を張った。

「私は偉大なる大魔法使いだからな!」

「はいはい」

完全に子供をあしらうような返事だった。

クロさんは不満そうだったが、冒険者たちはどこか楽しそうに笑っている。

どうやら前回のやり取りで、すっかり覚えられてしまったらしい。

その様子を見ながら、舞香が一歩前へ出た。

「あの、色々お話聞いてもいいですか?」

「ん?」

冒険者の一人が首を傾げる。

「何かあったのか?」

「いえ、その……」

舞香は少しだけ言葉を選び、

「冒険譚とか聞きたくて」

と言った。


数秒の沈黙。

やがて冒険者たちは顔を見合わせる。

「冒険譚?」

「急だな」

「いや、でもそういうの嫌いじゃねぇぞ」

一人が豪快に笑った。

「なんだ嬢ちゃん、吟遊詩人でも目指してんのか?」

「似たようなものです!」

舞香は即答した。

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