36.アクセサリー
「じゃあ、いったん家帰ってから、加奈のアパート寄るね」
そう言って、舞香は駅の方へ軽く手を振りながら帰っていった。
私はその背中を見送りながら、小さく首を傾げる。
「……家?」
◇
それから一時間ほど後。
インターホンが鳴き、私が玄関を開けると、
舞香はどこか満足そうな顔で立っていた。
「ごめんごめん。アクセサリー取りに帰ってたの」
「アクセサリー?」
私は思わず聞き返す。
舞香は小さなポーチを掲げながら、当然のように言った。
「Aランク冒険者に取材するとなると、
依頼料とか必要になりそうじゃん?」
「……え?」
一瞬、言っている意味が分からなかった。
しかし舞香はそのまま続ける。
「向こう、お金ないし。
だったら換金できそうな物持ってった方が早いかなって」
「えっ、でも勿体なくない?」
私が思わず言うと、
舞香は呆れたように肩をすくめた。
「なに言ってんのよ」
そして、人差し指で私を指す。
「あなたの召喚って、
現実世界の物は“戻ってくる”の、
もう実験済みでしょ?」
「あー……」
私は間の抜けた声を漏らした。
百均のデジタル時計。
ミクスの町へ持ち込んだはずなのに、
翌朝にはこちらの世界へ戻ってきていた。
つまり――
「理論上、アクセサリー渡しても、
こっちには残る……?」
「そういうこと」
舞香はニヤリと笑う。
「実質ノーリスク取材費」
「いやその発想どうなの……」
「だってさ」
舞香は楽しそうにポーチを揺らした。
「異世界側で価値がある物を、
こっちが失わずに持ち込めるって、
かなりズルい仕様じゃない?」
……言われてみれば、確かにそうだった。
でもその仕様を、
“Aランク冒険者への取材交渉”
に使おうとする大学生は、
たぶん世界中探しても舞香くらいだと思う。




