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36.アクセサリー

「じゃあ、いったん家帰ってから、加奈のアパート寄るね」


そう言って、舞香は駅の方へ軽く手を振りながら帰っていった。


私はその背中を見送りながら、小さく首を傾げる。


「……家?」



それから一時間ほど後。


インターホンが鳴き、私が玄関を開けると、

舞香はどこか満足そうな顔で立っていた。


「ごめんごめん。アクセサリー取りに帰ってたの」


「アクセサリー?」


私は思わず聞き返す。


舞香は小さなポーチを掲げながら、当然のように言った。


「Aランク冒険者に取材するとなると、

依頼料とか必要になりそうじゃん?」


「……え?」


一瞬、言っている意味が分からなかった。


しかし舞香はそのまま続ける。


「向こう、お金ないし。

だったら換金できそうな物持ってった方が早いかなって」


「えっ、でも勿体なくない?」


私が思わず言うと、

舞香は呆れたように肩をすくめた。


「なに言ってんのよ」


そして、人差し指で私を指す。


「あなたの召喚って、

現実世界の物は“戻ってくる”の、

もう実験済みでしょ?」


「あー……」


私は間の抜けた声を漏らした。


百均のデジタル時計。


ミクスの町へ持ち込んだはずなのに、

翌朝にはこちらの世界へ戻ってきていた。


つまり――


「理論上、アクセサリー渡しても、

こっちには残る……?」


「そういうこと」


舞香はニヤリと笑う。


「実質ノーリスク取材費」


「いやその発想どうなの……」


「だってさ」


舞香は楽しそうにポーチを揺らした。


「異世界側で価値がある物を、

こっちが失わずに持ち込めるって、

かなりズルい仕様じゃない?」


……言われてみれば、確かにそうだった。


でもその仕様を、

“Aランク冒険者への取材交渉”

に使おうとする大学生は、

たぶん世界中探しても舞香くらいだと思う。

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