34.演劇になる異世界
「もう、なんであんなこと言ったのよ」
部室を出た途端、私は舞香の背中を軽く叩いた。
舞香は悪びれた様子もなく笑う。
「ははは。でも確信持てたでしょ?
だいちゃんの話、ちゃんと演劇になるって」
「もう……」
私は呆れながらため息をつく。
夕暮れの廊下を、私たちは並んで歩いていた。
窓の外はオレンジ色に染まり、校庭からは運動部の掛け声が聞こえてくる。
「タカタカ、途中から普通に聞き入ってたし」
「まあ、あいつ元々そういう設定考えるの好きだもんね」
「でも、“強制切断”の説明とか絶対いらなかった!」
「あそこ一番食いついてたじゃん」
舞香はケラケラ笑う。
私は思わず顔を覆った。
……確かに、タカタカは途中から完全に“創作設定を考察する人”の顔になっていた。
『ログインと強制切断で感覚違うの面白いな』
『スマホ持ち込めないのも制約としてリアル』
『その時計実験、舞台映えしそう』
――などなど。
本当の体験談なのに、
全部“よく出来た設定”として処理されていた。
「なんか変な気分……」
「でも逆に安全じゃない?」
舞香は廊下の窓にもたれながら言う。
「本当のこと話しても、“創作”だと思われるんだから」
「それは……そうだけど」
「むしろ加奈、向いてるかもよ?
異世界原作者」
「なにそれ……」
私は苦笑する。
その時だった。
ぐぅぅぅ……
「…………」
「…………」
私のお腹が、妙に大きな音を立てた。
舞香が吹き出す。
「異世界原作者、お腹空いてますねぇ」
「うるさいっ!」
「よし、今日はファミレス寄って帰ろ。
今後の“脚本会議”もしなきゃだし」
「まだ続ける気!?」
「当然」
舞香はニヤリと笑う。
「だってさ――」
その目が、子供みたいに輝いた。
「現実に存在する異世界なんて、最高に面白いじゃん」




