33.演劇サークル
その後、ギルドの仮眠室で眠った翌朝。
目を覚ました私は、布団の上に転がっている百均のデジタル時計を見つけた。
昨夜、ミクスの町へ持ち込んだはずの時計だ。
私はそれを拾い上げ、小さくため息をつく。
「……戻ってきちゃったか」
隣で起き上がった舞香も、時計を見て肩をすくめた。
「残念だったね」
「いや、まだ分からないよ」
私は時計を握りしめる。
「こっちに戻ってきただけで、ミクスの町にも同じものが残ってる可能性だってあるし」
「まあね。全部は今夜わかるか」
舞香はそう言って軽く伸びをした。
◇
私たちはそろって、いつもの大学へ向かった。
放課後。
演劇サークルの部室へ入ると、
そこには台本を読んでいるタカタカの姿があった。
私は、この間のことを思い出して少しだけ迷ってから、小さく頭を下げる。
「この前はごめん。ちょっと強く言い過ぎた。
……タカタカ、別に悪気あったわけじゃないよね」
タカタカはきょとんとしたあと、困ったように笑った。
「いや、加奈が謝る必要ないって。こっちこそごめん」
それから少し視線を逸らし、照れくさそうに頭をかく。
「俺、そういう異世界ネタとか結構好きだからさ。
ついテンション上がったっていうか」
「はいはい、そこまで。ラブコメ空間終了ー」
舞香がわざとらしく二人の間に割って入り、
パン、と手を叩いた。
「でさ、タカタカ。別にこれ“信じろ”って話じゃないんだけど」
舞香はニヤリと笑う。
「半分ネタとして聞いてよ。
実は加奈って、本当に異世界行けるんだよね。しかも私まで連れてけるの」
「ちょ、舞香!?」
突然話を振られて、私は思わず変な声を出した。
しかし舞香はお構いなしだった。
「まず、向こうには“だいちゃん”っていう勇者の人形がいてー」
「設定じゃなくて本人なの!」
「あと、私の相棒のクロさんね。超偉そうな魔法使い」
「フハハ! 当然だ!」
舞香はクロさんのモノマネまで始める。
「で、加奈には【足】問題っていう重大イベントがあってぇ」
「やめてぇぇぇ!!」
私は机に突っ伏した。
しかし舞香の語りは止まらない。
・異世界への接続実験
・スマホ持ち込み失敗事件
・ログインと強制切断の違い
・ギルドでの検証
・百均の時計実験
……などなど。
私が思い出したくない話まで含めて、
舞香はめちゃくちゃ楽しそうに語り続けた。
「待って、そこ説明しなくていいから!」
「えー、でも重要設定じゃん」
「設定じゃなくて実体験なのぉ!」
タカタカは最初こそ苦笑していたが、
途中から普通に聞き入っていた。
「いやでも、その“強制切断”って何が違うんだ?」
「普通のログアウトは眠くなる感じ。
でも強制切断は、急に画面消される感じなんだよね」
「へぇ……妙にリアルだな……」
舞香は、私の青ざめた顔とタカタカの反応を見比べながら、
満足そうに口角を上げた。
そして最後に、わざとらしく咳払いをする。
「――っていう、オリジナル舞台のシナリオを今考えてるんだよね」
数秒の沈黙。
やがてタカタカが、ぽつりと呟いた。
「……いや、設定作り込みすぎだろ」
「でしょー?」
舞香は得意げに胸を張る。
私は机に突っ伏したまま、小さく呻いた。
……嘘は言っていない。
でも、本当のことを全部“創作設定”として処理されるのは、
それはそれで妙に複雑な気分だった。




