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33.演劇サークル

その後、ギルドの仮眠室で眠った翌朝。


目を覚ました私は、布団の上に転がっている百均のデジタル時計を見つけた。


昨夜、ミクスの町へ持ち込んだはずの時計だ。


私はそれを拾い上げ、小さくため息をつく。


「……戻ってきちゃったか」


隣で起き上がった舞香も、時計を見て肩をすくめた。


「残念だったね」


「いや、まだ分からないよ」


私は時計を握りしめる。


「こっちに戻ってきただけで、ミクスの町にも同じものが残ってる可能性だってあるし」


「まあね。全部は今夜わかるか」


舞香はそう言って軽く伸びをした。



私たちはそろって、いつもの大学へ向かった。


放課後。


演劇サークルの部室へ入ると、

そこには台本を読んでいるタカタカの姿があった。


私は、この間のことを思い出して少しだけ迷ってから、小さく頭を下げる。


「この前はごめん。ちょっと強く言い過ぎた。

……タカタカ、別に悪気あったわけじゃないよね」


タカタカはきょとんとしたあと、困ったように笑った。


「いや、加奈が謝る必要ないって。こっちこそごめん」


それから少し視線を逸らし、照れくさそうに頭をかく。


「俺、そういう異世界ネタとか結構好きだからさ。

ついテンション上がったっていうか」


「はいはい、そこまで。ラブコメ空間終了ー」


舞香がわざとらしく二人の間に割って入り、

パン、と手を叩いた。


「でさ、タカタカ。別にこれ“信じろ”って話じゃないんだけど」


舞香はニヤリと笑う。


「半分ネタとして聞いてよ。

実は加奈って、本当に異世界行けるんだよね。しかも私まで連れてけるの」


「ちょ、舞香!?」


突然話を振られて、私は思わず変な声を出した。


しかし舞香はお構いなしだった。


「まず、向こうには“だいちゃん”っていう勇者の人形がいてー」


「設定じゃなくて本人なの!」


「あと、私の相棒のクロさんね。超偉そうな魔法使い」


「フハハ! 当然だ!」


舞香はクロさんのモノマネまで始める。


「で、加奈には【足】問題っていう重大イベントがあってぇ」


「やめてぇぇぇ!!」


私は机に突っ伏した。


しかし舞香の語りは止まらない。


・異世界への接続実験

・スマホ持ち込み失敗事件

・ログインと強制切断の違い

・ギルドでの検証

・百均の時計実験


……などなど。


私が思い出したくない話まで含めて、

舞香はめちゃくちゃ楽しそうに語り続けた。


「待って、そこ説明しなくていいから!」


「えー、でも重要設定じゃん」


「設定じゃなくて実体験なのぉ!」


タカタカは最初こそ苦笑していたが、

途中から普通に聞き入っていた。


「いやでも、その“強制切断”って何が違うんだ?」


「普通のログアウトは眠くなる感じ。

でも強制切断は、急に画面消される感じなんだよね」


「へぇ……妙にリアルだな……」


舞香は、私の青ざめた顔とタカタカの反応を見比べながら、

満足そうに口角を上げた。


そして最後に、わざとらしく咳払いをする。


「――っていう、オリジナル舞台のシナリオを今考えてるんだよね」


数秒の沈黙。


やがてタカタカが、ぽつりと呟いた。


「……いや、設定作り込みすぎだろ」


「でしょー?」


舞香は得意げに胸を張る。


私は机に突っ伏したまま、小さく呻いた。


……嘘は言っていない。


でも、本当のことを全部“創作設定”として処理されるのは、

それはそれで妙に複雑な気分だった。

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