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32.ついでに討伐

「ありがと、お姉さん! ……あ、ついでに今日の依頼も確認していっていい?」

舞香が掲示板を指さす。

せっかくログインできたのだ。

時計を置くだけでなく、今日もだいちゃんたちと一緒に、この世界での「冒険」を楽しんでいきたかった。


舞香はさっそく掲示板へ向かい、

一枚の依頼票をペリッと剥がした。

「これなんかどう?」


【依頼:ミクス平原の『ビッグ・キャタピラー』討伐】

【推奨ランク:Fランク】


『えー、僕もうランクCなんだよー。物足りないなー』

「え、キャタピラー? なに、戦車のキャタピラのこと……?」

と私が首を傾げると、だいちゃんが教えてくれた。

『加奈お姉ちゃん、しらないの?キャタピラーはね、芋虫の事』

「え”っ、私、虫苦手なんだけど」

『おい、お前ら、俺様の杖が選んだんだぞ』


左手のクロさんが、舞香の腕の先で偉そうに吠える。

「ほらほら、だいちゃんも加奈も文句言わない!

 私の記念すべき初討伐なんだから、まずは安全第一でしょ?」

舞香はそう言って、受付のお姉さんに依頼票を提出した。



町の北へ少し歩くと、

視界いっぱいにミクス平原が広がっていた。

そして、その平和な景色の中に、それはいた。


「うわ……本当にビッグだわ……」


「舞香より大きいんじゃない?」


それは、草むらをもぞもぞと這い回る、全長150センチ(舞香145センチ)の大きな芋虫である。


「よーし! クロさん、あの生意気な虫ケラを灰にしちゃって!」


舞香が左手を前に突き出す。

すると、何もはめていない右手の指先から、

黒い煙のようなものが渦を巻き、

やがて炎の玉を形作った。


『ハハハ! 俺様の本気を見せてやる! メラァッ!』


ドォンッ!!


テニスボール大の火の玉が、

ビッグ・キャタピラーの腹へ一直線に飛ぶ。


ドガッ!


命中した瞬間、

巨大な芋虫がびたんびたんとのたうち回った。


『ハハハ! もっとだ! メラメラメラメラ!』


テニスボール大の火の玉が次々と命中し、ビッグ・キャタピラーは激しくのたうち回った。


「きゃーっ! 虫からなんか緑色の体液が出てる!」

私は思わず悲鳴を上げた。


『あーっ! クロちゃんずるい! 美味しいところ持ってくなー! 加奈お姉ちゃん、僕たちも行くよ! 必殺――』

だいちゃんが右腕を引き絞った瞬間、ビッグ・キャタピラーはピタリと動きを止めて横倒しになった。

『ダイレクト……』

「終わってるから」


私の右腕を引き絞ったままフリーズしただいちゃんをよそに、戦闘はあっけなく終了した。


気を取り直して、魔核を取りにいく。

イモムシの死体に近づいたタイミングで、だいちゃんが自らずるりと腕から抜け出し、単身で突っ込んでいった。


『うわぁぁ!? ベタベタするーっ!』


「あ、ちょっと!」という私の制止も間に合わず、だいちゃんは飛び散った緑色の体液をたっぷり浴びて

全身緑色になりながら、ビッグ・キャタピラーの体から執念で魔核を引っこ抜いた。


ドヤ顔で戻ってこようとする相棒に、私は全力で距離を取る。


「ちょ、だいちゃん近寄らないで!?」



その後、なんとか宿屋へ戻った私たちは、ウエストバッグに忍ばせて持ち込んでいた中性洗剤を取り出した。

ぬるま湯を洗面器に張り、ベタベタになって異臭を放つだいちゃんを、みんなで念入りにゴシゴシと洗うことになったのは言うまでもない。


『うぅ、目が、しみるよぉ……』

「自業自得! ほら、綿まで染み込む前に綺麗にするよ!」


――こうして、舞香の記念すべき初討伐は完了した。

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