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30.時間

「さてと。タカタカには、あとで私から言っとくよ。

 あんまり加奈をからかうなって」


私は小さく首を振った。

「ううん……別に、何かされたわけじゃないし、ちょっと言われて感情的になっただけ」


「だよね、普通はそうなんだよ。私は言葉で何言われても傷つかないタイプだから、軽く流しちゃうけど」


「それはそれで問題な気がする……」


「そうなのよ。子供のころによく言われるでしょ?

『自分が言われて傷つくことは、人に言ってはいけません』って」


舞香は肩をすくめる。

「私、あれ全然わかんなくてさ。

“自分が言われても平気なこと”しか言ってないのに、『舞香ちゃん口悪い』って何回も怒られて。

直すの大変だったんだから」


舞香は気にした様子もなく、机に身を乗り出した。

「まぁまぁ。それより、今度の実験なんだけど」


鞄をごそごそ漁って、

舞香は小さなデジタル時計を取り出した。


100均で売ってそうな、

カレンダー付きの安っぽいやつだ。


「これをギルドに置いてくるの。

 で、次にログインした時、時間がどうなってるか確認する」


「時間……?」


「もし向こうでも時間が進んでるなら、

 この世界と完全に切り離されてるわけじゃないかもしれない。

 逆に止まってたら――」


舞香の目が、完全に“実験モード”の光を帯びる。


「めちゃくちゃ面白い」



その夜、私は祈るような気持ちでベッドに入った。

右手にはだいちゃん、左手は舞香とがっちり恋人繋ぎをして、その手のひらの間には、例の百均のデジタル時計をしっかりと挟み込んでいる。

一度は入れなくなってしまった、だいちゃんの世界。

本当にまた繋がれるのか、扉の前に立っているのに鍵穴が見えないみたいな感覚に、不安で仕方なかった。

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