30.時間
「さてと。タカタカには、あとで私から言っとくよ。
あんまり加奈をからかうなって」
私は小さく首を振った。
「ううん……別に、何かされたわけじゃないし、ちょっと言われて感情的になっただけ」
「だよね、普通はそうなんだよ。私は言葉で何言われても傷つかないタイプだから、軽く流しちゃうけど」
「それはそれで問題な気がする……」
「そうなのよ。子供のころによく言われるでしょ?
『自分が言われて傷つくことは、人に言ってはいけません』って」
舞香は肩をすくめる。
「私、あれ全然わかんなくてさ。
“自分が言われても平気なこと”しか言ってないのに、『舞香ちゃん口悪い』って何回も怒られて。
直すの大変だったんだから」
舞香は気にした様子もなく、机に身を乗り出した。
「まぁまぁ。それより、今度の実験なんだけど」
鞄をごそごそ漁って、
舞香は小さなデジタル時計を取り出した。
100均で売ってそうな、
カレンダー付きの安っぽいやつだ。
「これをギルドに置いてくるの。
で、次にログインした時、時間がどうなってるか確認する」
「時間……?」
「もし向こうでも時間が進んでるなら、
この世界と完全に切り離されてるわけじゃないかもしれない。
逆に止まってたら――」
舞香の目が、完全に“実験モード”の光を帯びる。
「めちゃくちゃ面白い」
◇
その夜、私は祈るような気持ちでベッドに入った。
右手にはだいちゃん、左手は舞香とがっちり恋人繋ぎをして、その手のひらの間には、例の百均のデジタル時計をしっかりと挟み込んでいる。
一度は入れなくなってしまった、だいちゃんの世界。
本当にまた繋がれるのか、扉の前に立っているのに鍵穴が見えないみたいな感覚に、不安で仕方なかった。




