表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/41

26.ベテランの仕業

「ねぇ、本当に誰もいないよね……?」


私は何度も後ろを振り返りながら、早足でミクスの町へと戻ってきた。

結局、あの森の出口で感じた刺さるような視線の正体は分からずじまい。

私のウエストバッグの救急セットが出動することもなかった。


「もう、加奈ってば心配性だなぁ。ほら、ギルドに着いたよ」


舞香に背中を押されるようにして、私たちは冒険者ギルドの扉をくぐった。

夕方のギルド内は、一日の依頼を終えた冒険者たちでいつも以上に賑わっている。

私たちは受付カウンターへと向かい、あの緑色の依頼票をお姉さんへ差し出した。


「すみません、指定された場所に行ってみたんですけど、オオカミの姿がどこにもなくて……。

今回は空振りということで、キャンセル手続きをお願いします」


私ががっくりと肩を落として言うと、受付のお姉さんは「あ!」と何かに気付いたように声を上げた。


「ごめんなさい、加奈さん! 実はその依頼、ついさっき別の冒険者から完了報告が入ったところで、

まだ掲示板の更新が間に合っていなかったんです!」


「えっ? 完了報告?」


私が目を丸くしていると、カウンターの奥から「ガハハ!」と豪快な笑い声が響いてきた。

振り返ると、そこには全身に傷跡のある頑丈な鎧をまとい、背中にギガント級の大剣を背負った、見るからに強そうな大男が立っていた。


「いやー、すまねえお嬢ちゃんたち! 俺がさっき、森の奥で別の魔物を追ってたんだがよ。

途中で、やたらとデカくて凶暴なオオカミが二匹、俺に牙を剥いてきやがってな! 危ねえからその場で一刀両断にしちまったんだわ!」


男はすまねえすまねえと頭を掻いている。

その胸元でギラリと光っているのは、最高位に近い【Aランク】のギルドプレートだった。


「……あ」


私の頭の中で、すべての点と線が繋がった。

森の中に残されていた、あの巨大な足跡、生々しい爪痕、そして食い荒らされた鹿の死体。

あれはオオカミたちが私たちを待ち伏せていたわけではなく、ただ単に、

このベテランAランク冒険者に遭遇して絶望的な戦いを繰り広げた(そして一瞬で片付けられた)直後の名残だったのだ。


「なんだぁ、もう倒されてたのかー!」

舞香がガクッと肩の力を抜く。


『チェッ、僕の出番はなし?』

『フン、命拾いしたな、オオカミめ』


だいちゃんとクロさんも、呆れたようにブツブツと文句を言い始めた。


「じゃ、じゃあ……私が森の出口で感じた、あの恐ろしい視線は……?」

私が恐る恐る尋ねると、Aランクの男はポンと手を叩いた。


「あ、それ俺だわ! 森を出る時、なんか右手にタヌキ、左手にオオカミのぬいぐるみをはめて、

腰に謎のバッグ巻いたお嬢ちゃんたちが、ブツブツ言いながら歩いてるのが見えてよ……。

いや、新手の召喚術師かと思って、物珍しくてじっと見ちまったんだ。驚かせて悪かったな!」


「…………」


恐怖の正体は、ただの「ベテランからの生温かい目線」だった。

恥ずかしさのあまり、今すぐウエストバッグに顔を突っ込んで消えてしまいたくなる。


「ま、用心深いのは悪いことじゃねえよ」


赤面する私を見て、Aランクの男は笑いながら、背中の大剣を軽く叩いた。


「冒険者ってのはな。“大丈夫だろ”って思った時が、一番死ぬんだ」


その言葉だけは、さっきまでの豪快な調子とは違って、砂鉄を飲んだように妙に重かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ