25.不穏
私たちは、久しぶりに冒険者ギルドで『討伐依頼』を受けることにした。
依頼票によると、ターゲットは以前戦ったオオカミの生き残り。
あの日、だいちゃんがリーダー格を仕留めた時に逃げ出した残りの二匹が、最近になって急成長し、森の近くで暴れ回るようになったのだという。
私たちはその依頼票を手に、すべての始まりである東の森へと向かった。
初めてこの森へ向かった時は、だいちゃんと二人だけ(実質、歩いていたのは私一人だけれど)だった。
だいちゃんが本当に強いのかも分からず、ただ恐怖に怯えながら歩いていた記憶が蘇る。
けれど、今回はあの時とは違う。魔法使いのクロさんもいるし、何より私の腰には、万が一の怪我にも対応できる救急セットが入ったウエストバッグがある。
大丈夫。そう自分に言い聞かせるけれど、周囲の空気はあまりにも軽かった。
「大丈夫だよ加奈お姉ちゃん、僕に任せて!」
右手のだいちゃんが、いつも通りの無邪気な声で胸を張る。
「フン、俺様の本気を見せてやる良い機会だ。灰にしてくれるわ」
左手のクロさんも、舞香の腕の先でギラリとボタンの目を輝かせた。
「あはは、大丈夫だよ加奈。ちょっと気にしすぎだってば」
私以外の“三人”は、どの大物冒険者よりも余裕の表情を浮かべている。
……けれど、周囲がそうやって楽観視すればするほど、私の胸の奥のモヤモヤは逆に膨れ上がっていくのだった。
森へと続く未舗装の小道を歩きながら、私は何度も、無意識にウエストバッグの感触を確かめていた。
救急セットよし。
消毒薬よし。
裁縫セットも入ってる。
準備はちゃんとしてきた。
前より、ずっと安全なはずだ。
……なのに。
「加奈ー? さっきからバッグ触りすぎだってば。お守りじゃないんだから」
隣を歩く舞香が、おかしそうにケラケラと笑う。
「だって……」私は言いかけて、そっと口を閉じた。
理由は分からないが、ただ、森の奥がやけに静かな気がした。
◇
結局、その日。
私たちはオオカミと一度も遭遇しなかった。
足跡はあった。
木の幹には鋭い爪痕も残っていた。
途中、食い荒らされた鹿の死体まで見つけた。
なのに。
肝心の“二匹”だけが、どこにもいなかった。
「依頼、空振りだったねー」
舞香が気楽に笑う。
『つまらん』
『焼きそば食べたい』
だいちゃんとクロさんも、すっかり気が抜けている。
……でも。
私は森を出る直前、
背後から視線を感じて振り返った。
けれど、そこには誰もいなかった。




