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24.イメージの更新

翌日、現実の世界。私の安アパートの部屋で、私は右手にはめただいちゃんに向かって真剣に語りかけていた。


「いい、だいちゃん。よく見て。これが私の『新しい装備』ね」


私は購入したばかりのナイロン製のウエストバッグを持ち上げ、だいちゃんのボタンの目の前にぐいっと近づける。そしてチャックを開き、中身を一つずつ丁寧に指さした。


「中には、中性洗剤、水のペットボトル、ハンドウォッシュ、裁縫セット。それに消毒薬と救急セット……。いい? よーく見て、頭に叩き込んでね」


実は、これで本日三度目の説明だ。こっちのだいちゃんは当然ただの布の塊だから、うんともすんとも答えてくれない。本当に理解してくれたのか、それともただ呆れられているのか、確認する術はなかった。


私は仕方なく、だいちゃんをはめた右手を自分で動かし、

「うん、わかったよお姉ちゃん! バッチリ覚えた!」

と、一人寂しく自分の声でだいちゃんの真似をして返事をしてみる。


「……何やってるの、加奈」

後ろから冷ややかな声がした。接続実験のために我が家に泊まりにきていた舞香が、パジャマ姿で生温かい視線をこちらに送っている。

「実験の準備よ、準備! だいちゃんの中の『私のイメージ』を更新させてるの!」


もし今夜、あっちの世界に行った時に私の腰にこのウエストバッグが装着されていたら、実験は成功。スマホのような電子機器ではなく、だいちゃんが「加奈の持ち物(装備)」として認識したアナログな道具なら、異世界へ持ち込めるという証明になる。


期待と不安を胸に、私たちはいつものようにしっかりと手を繋ぎ、ゆっくりと眠りについた。



「加奈! 待った?」


次に目を開けた瞬間、そこはすっかり見慣れたミクスの町の広場だった。声のする方を振り向くと、舞香がすぐ隣で手を振っている。


「ううん、私も今来たところ。……っていうか、数秒前まで現実のベッドの隣で寝てたはずなんだけどね」


「あはは、確かに! ……あ、見て加奈! 実験、大成功じゃない!?」


舞香が私の腰を指さしてはしゃぐ。

弾かれるように自分の視線を下ろすと――そこには、見事なまでに現実のあのウエストバッグが、しっかりと私のチュニックの腰帯に固定されていた。


「やった……! 本当に持ち込めた……!」


私は嬉しくなって、その場でバッグのジッパーを開けた。

中性洗剤と水のペットボトルは、泥やオオカミの血で汚れただいちゃんをその場で丸洗いするため。

ハンドウォッシュは、その後に私の生身の手を清潔に保つため。

裁縫セットは、だいちゃんやクロさんの綿が飛び出た時の応急処置用。

そして消毒薬と救急セットは、万が一、私や舞香が怪我をした時のためのものだ。


『わぁ、お姉ちゃん! それ僕のためのお風呂セット?』

右手のだいちゃんがバッグを覗き込んでボタンの目を輝かせる。

『フン、あるじよ。俺様の毛並みを整えるブラシが入っていないのは片落ちだが……まあ、及第点をやろう』

左手のクロさんも、舞香の腕の先で偉そうに鼻を鳴らした。


現代の便利な日用品を詰め込んだ、私の新しい防衛装備。

……うん。戦う武器は相変わらずゼロだけど、だいぶ「冒険者のサポーター」っぽくなってきた気がする。

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