23.カメラの結果と別々の実験
「すご……ほんとに撮れてる……」
舞香が感動したように呟く。
「これ持ち帰れたら、世紀の大発見じゃない?」
私は興奮しながら、次々にシャッターを切った。噴水の前、ギルドの前、焼きそば屋の屋台の前。途中からは実験であることを完全に忘れ、ただの楽しい観光になっていた。
◇
「……これ、実験成功だよね?」
ギルドの仮眠室。ベッドへ倒れ込みながら、舞香が言った。
「うん……多分」
私はスマホの写真フォルダを確認する。そこには、今日撮った写真がちゃんと並んでいた。帽子姿のだいちゃん。ドヤ顔のクロさん。焼きそばを頬張る舞香。全部、ちゃんと残っている。
「よしっ!」
私は小さくガッツポーズした。「じゃ、おやすみー」
『ふぁぁ……眠い……』
そんなやり取りを最後に、私たちは眠りについた。
◇
翌朝。待っていたのは、あまりにも普通の現実だった。眩しい朝日と、見慣れたアパートの天井。
「……っ!」
私は飛び起きるようにスマホを掴み、写真フォルダを開く。昨日撮ったはずの写真は――。
「……ない」
一枚も、何も残っていなかった。舞香も自分のスマホを確認して固まる。
「ほんとに……何もない……」
ミクスの町も、帽子姿の二匹も、全部綺麗さっぱり消えていた。私は黙ったまま、右手のだいちゃんを見る。そこにいるのは動かないパペット。でも、昨夜は確かに、誇らしげに笑っていた気がするのだ。
◇
「じゃ、クロさん借りるねー」
翌日、今度は別の実験をすることになった。舞香はそう言ってクロさんを抱きしめる。今日は“舞香+クロさん”だけで眠る実験。つまり、私(加奈)抜きでもミクスの町へ行けるのかという検証だ。
その夜、私は右手にだいちゃんだけをはめて眠りについた。
◇
目を開けると、そこはミクスの町の広場だった。どうやら私は普通に来られたらしい。
「舞香!」
周囲を見回すけれど、どこにもいない。噴水の前にも、ギルドの前にも、二人の姿はなかった。
「……遅いなぁ」
『加奈お姉ちゃん、まだ待つの?』
右手のだいちゃんが、焼きそばのパックを揺らしながら聞いてくる。
「待つ」
『もう三時間くらい待ってるよ?』
「……待つの」
石畳の広場を行き交う人々の中に、舞香はいない。まるで最初からログインできなかったみたいに。
『僕、飽きちゃった』
「そう言わないの。ほら、焼きそば買ったげる」
『えー……五食目だよぉ……』
勇者なのに、焼きそばで限界を迎えていた。
◇
「……で、ダメだった」
翌日の昼休み、舞香は学食のジュースを飲みながら肩を落とした。「普通に寝て、普通に朝だった」
「やっぱり、私が必要なんだ……」
その夜、さらにパーティ分けを入れ替えて実験してみた。
【加奈+クロさん】組と、【舞香+だいちゃん】組。しかし結果は、両方ともミクスの町には行けなかった。
私はノートに、今までの実験結果を書き並べた。
・加奈+だいちゃん → 行ける
・舞香+クロさん → 行けない
・加奈+クロさん → 行けない
・舞香+だいちゃん → 行けない
つまり、この世界は“だいちゃんの世界”なのではないか。
そして私は“だいちゃんの足”として認識されているから、あの世界へ行ける。服装がいつも普段着なのも、だいちゃんから見た「私のイメージ」だから――。
もし、そうなら――。




