第三章22.帽子とカメラと
だいちゃんとクロさんに、完成したばかりの魔法使いの帽子を被せる。
黒いフェルトの三角帽子。先端には、私と舞香で徹夜して縫い付けた小さな星飾り。
「わぁ……かわいい……!」
舞香がクロさんを持ち上げながら笑った。私は右手にはめた、だいちゃんを見る。
「……なんか、ほんとに魔法使いっぽい」
もちろん、返事なんてない。だいちゃんもクロさんも、現実ではただのパペットだ。
……なのに、少しだけ嬉しそうに見えてしまうのは、きっと気のせいなんだと思う。
今日は“実験”の日だった。舞香と恋人繋ぎをして、その手のひらの間にスマホを挟む。スマホも異世界へ持ち込めるのか試すためだ。
「よーし! 今日は異世界映え写真撮りまくるぞー!」
「成功したら大発見だよね」
舞香が楽しそうに笑う。私はベッドへ潜り込みながら、右手のだいちゃんを見た。
「……じゃ、おやすみ」
そのまま、私たちは眠りについた。
◇
次に目を開けた時、そこはいつものミクスの町の広場だった。
石畳、噴水、行き交う冒険者たち。
「来たぁー!」
舞香が勢いよく立ち上がる。右手のだいちゃんも、左手のクロさんも、ちゃんと魔法使いの帽子を被っていた。
『わーい! ほんとに魔法使いみたい!』
『ふっ、当然だな』
二匹が得意げに胸を張る。……やっぱり、こっちでは普通に喋る。
私はそこで、ふと違和感に気付いた。
「あれ? なんか、町の雰囲気違わない?」
前回来た時より露店の位置が少し変わっている。噴水横にいた果物屋もいない。
「そういえば前にもあったよね」
舞香が思い出したように言った。
「加奈、だいちゃんのランクC昇格祝勝会、参加してないって言ってた」
「あ……」
そうだ。あの時も、ギルドの仮眠室で寝てから現実へ戻った。そして次に来た時には、数日後みたいな空気になっていた。
私は腕を組みながら考える。
「多分だけど、宿屋とかギルドの仮眠室で寝ると“正式ログアウト”なんだと思う」
「正式ログアウト」
舞香が面白そうに繰り返した。
「で、だいちゃんが驚いたりしてリンクが切れた時は“強制切断”だから、続きから始まる……とか?」
『ゲームっぽい!』
『なるほどな』
……いや、実際かなりゲームっぽい。
「Baseの考察はここまで、今は実験!」
私はポケットからスマホを取り出した。当然、圏外。けれど、ちゃんと持ち込めている。
「きゃーっ!だいちゃん、その帽子かわいい!」
『えへへ!』
「クロさん、もうちょっと右!」
『俺様を撮るなら格好良く撮れ』
「はいはい、並んで並んでー!」
パシャリ。
スマホの画面には、ミクスの町の石畳。その真ん中で、魔法使いの帽子を被った、だいちゃんとクロさん。
どう見ても、完璧な“映え写真”だった。




