表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/41

第二章最終話.約束の帽子

「……ん、んぅ……」


窓から差し込む朝日の眩しさに、私はゆっくりと目を覚ました。


視界に映るのは、見慣れた安アパートの天井。


「……戻って、きた」


ぼんやりした頭のまま右手を見る。

だいちゃんは、いつものように、ただのパペットとして私の手にはまっていた。


そして――繋いでいたはずの舞香の手は、もう離れていた。


「……っ!」


手は離れている。


……あっちの世界の舞香は、本当に存在していたのか。

それとも、私の夢の中に舞香がいただけだったのか。


私が小さく息を呑んだ、その瞬間。


隣のベッドで、舞香がガバッと跳ね起きた。


「リンゴ!! めちゃくちゃ甘かった!!」


「ぶふっ……!」


あまりにも舞香らしい第一声に、私は思わず吹き出してしまう。


「あははっ! 舞香、やっぱり覚えてるんだ!」


「覚えてるも何も! 本当にあっちに行けるなんて凄すぎるよ! っていうか私、“杖”だったんだけど!? クロさんめっちゃ可愛かったし!」


興奮したまま、舞香は自分の左手にはまったクロさんをぎゅっと抱きしめる。


もちろん現実のクロさんは喋らないし、動きもしない。

ただの、ちょっと生意気そうなオオカミのパペットだ。


――でも。


昨夜まで一緒に騒いでいた記憶が、まだ体温みたいに残っている。


異世界での出来事が夢じゃなかったのだと実感して、胸の奥がじんわりと温かくなった。



その日の夜。


私の部屋には、裁縫道具と色とりどりのフェルトが広がっていた。


「ねえ加奈、ここどうやって縫うの? クロさんの耳、尖ってるから難しくて」


「そこはね、一回裏返してから、針の先で角を少し押し出すと綺麗に形が出るよ」


私は舞香にコツを教えながら、自分も黒いフェルトを三角形に切っていく。


異世界で二匹に約束した、お揃いの“魔法使いの帽子”。


だいちゃんに、

『現実に戻ったら、最高にカッコいい帽子を作ってあげる』

と約束してから、ずいぶん待たせてしまった。


「できた! 見て加奈!」


舞香が、小さな黒いとんがり帽子をクロさんの頭にちょこんと乗せる。


ちょっと偉そうなオオカミのパペットが、帽子ひとつで急に“見習い魔法使い”っぽく見えて、私は思わず笑ってしまった。


「可愛いじゃん。……よし、だいちゃんのも完成!」


今度は、丸い頭に合わせて作った帽子を、そっとだいちゃんに被せる。


机の上に並んだ、お揃いの帽子姿のだいちゃんとクロさん。


現実の二匹は動かないし、喋らない。


でも、今の私には分かる。


この子たちは、ちゃんと“向こう”で生きている。


月明かりに照らされたボタンの目が、どこか誇らしげに見えた。


「ふふっ。これ被せて、あっちに行くの楽しみだね」


「うん! 次はスマホ持ち込めるか実験しなきゃだし!」


舞香はニヤニヤしながら、もう次の“冒険”の計画を立てている。


一人だったら、きっと途中で怖くなって引き返していた。


泥だらけになって、振り回されて、叫んでばかりの異世界。


でも――。


隣に頼もしい“杖”がいて。


賑やかな“勇者”と“魔法使い”がいて。


そう思うと、次に目を閉じるのが少しだけ楽しみになる。


「よし、じゃあ……今夜も接続実験、始めよっか」


私たちはパペットをはめた手をしっかりと繋ぎ、

ワクワクする未来へ向かって、ゆっくり目を閉じた。


(第二章 おわり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ