20.ミクスの町
「えー、ここが『ミクスの町』!?
すごーい、おしゃれ!
スマホ持ってこれたら絶対映えるじゃん!
加奈、スマホ召喚して」
「知らないわよ、スマホ召喚なんて!」
「じゃあ次回の実験でスマホ持ってこよ。ポケットに入れとけばいける気もするし」
「どうだろう?
前にパジャマで寝たのに、こっちじゃいつものTシャツとジーンズだったし」
「じゃあさ、恋人繋ぎの中にスマホを挟んで入ってみる?」
「そうだね、実験しても良さそうね。あっ、ギルド見えてきたよ」
私たちはギルドに入り、依頼の薬草、および倒したトカゲの魔核を提示した。
受付のお姉さんは、泥と血にまみれた私の姿に一瞬引いていたけれど、手続きはスムーズに進んだ。
「達成のお金も貰ったし。加奈が前に言ってたリンゴ食べてみたい。おいしいんでしょ」
「うん、日本のリンゴよりずっと甘くて瑞々しいよ。じゃあ、露店街に行ってみよっか」
ギルドを出てすぐの広場には、果物や串焼きの香ばしい匂いが漂う露店が並んでいた。
お目当てのリンゴを2つ買い、それぞれ半分にカットしてもらった。
舞香とクロさんの分を手渡すと、舞香は待ってましたとばかりにガブッとかじりつく。
「んん――っ!? ナニこれ、めちゃくちゃ美味しい! シャリシャリだし、果汁がほぼジュースじゃん!」
「でしょ? はい、だいちゃんもどうぞ」
私の右手に半分に切ったリンゴを渡すと、ぱくっと吸い込まれるように消えた。ボタンの目が嬉しそうに細くなる。
「おいしーい! 加奈お姉ちゃん、もう半分!」
「これは、私の分、贅沢言わないの?」
「ふん、悪くない味だ」
クロさんも、舞香から貰った半分のリンゴを美味しそうに食べている。
その流れで、そのまま、私たちは露店街をぶらぶら見て回った。
異世界の市場は見るものすべてが新鮮だ。
可愛い刺繍のついたお財布や、怪しい魔石のアクセサリー、不思議な香りのする香水瓶。
舞香は「これ可愛くない!?」「見てこれ、何に使うの!?」と大はしゃぎで、完全に、ただの女の子の買い物モードになっている。
私はというと、さっき泥だらけになった服の替えとして、シンプルなチュニックと旅人向けの丈夫なズボンを購入した。
気づけば、夕暮れの赤い光が石畳の街路を染めている。
「あー、楽しかった! 歩き回ったら急に眠気が……」
「だね。今日は色々あったし、ギルドの仮眠室を借りて休みましょ」
ギルドに戻り、格安の仮眠室へ入る。
部屋にはシンプルなベッドが2つ。
私たちは泥を落とすと、それぞれのベッドへ倒れ込んだ。
「ねえ、加奈……今日、本当に楽しかったな……」
舞香の寝息がすぐに小さく聞こえ始める。
私は自分の右手をそっと見つめた。だいちゃんも、私の胸元で丸くなる
(明日目が覚めたら、また現実の世界に戻るのかな……)
心地よい疲労感に包まれながら、私はゆっくりと目を閉じた。




