17.接続実験
夜の安アパートは静かだった。
私のベッドでは、舞香がすやすや眠っている。
右手にはだいちゃん。
そして左手は――舞香と恋人繋ぎ。
さらに、舞香の左手にはクロさん。
……うん、状況だけ切り取ると意味が分からない。
「緊張して眠れん……」
こんな状態で本当に異世界に行けるのか。
いや、行けたとして、ちゃんと帰ってこられるのか。
考え始めると余計に目が冴えてくる。
「いやいや、頑張って寝ないと……」
私は深呼吸し、無理やり目を閉じた。
◇
次に目を開けた瞬間――。
見慣れたアパートの天井ではなく、森の中の柿の木の下の世界が視界に飛び込んできた。
渋柿を食べた続きの世界に来たようだ。
私は反射的に右手を見る。
だいちゃんは、まだ渋柿ダメージを引きずっていた。
口の中がつらいのか、ボタンの目が今にも泣きそうに見える。
「だ、大丈夫……?」
私は思わず、右手ごとだいちゃんを抱え込む。
「うぅ……まだ渋いぃ……」
勇者とは思えない情けない声だった。
周囲を見回していた私は、そこでようやく気付く。
目の前で、舞香がきょろきょろと辺りを見渡していた。
舞香の左手には、もちろんクロさん。
そして――。
「だ、誰だお前は!?」
クロさんが素っ頓狂な声を上げた。
「俺様をはめているこの不届き者は!」
左手のクロさんが、目を丸くしてパニックを起こしている。
……いや、ボタンだけど。
それもそのはずだ。
いつもなら、私の左腕に直結して動いていたはずのクロさんが、今は見知らぬ小柄な女の子の左手にはめられているのだから。
「わぁ……本当に来ちゃった」
舞香は目を輝かせながら、森の周囲を見回した。
「すごーい! ここが加奈の言ってた異世界!?」
テンションが高い。
初異世界のリアクションとは思えないくらい高い。
その声に、だいちゃんがぴくりと反応した。
「ぐぇ、ごほっ……。そのお姉ちゃん、見たことある……。いつも加奈お姉ちゃんと一緒にいるよね……」
「あはは、だいちゃん大丈夫?」
舞香がしゃがみ込み、だいちゃんの顔を覗き込む。
「勇者なのに渋柿でやられてるの、ちょっと面白いね」
「わ、笑い事じゃないよぉ……」
だいちゃんは半泣きだった。
その様子を見ながら、舞香が突然ぱっと顔を輝かせる。
「あっ、そうだ加奈!」
「な、なに?」
「私のステータスってどうなってるの!?」
やっぱりそこ気になるんだ。
すると、だいちゃんがぐったりしたまま右手を持ち上げた。
「ぼ、ぼくに任せて……。うぅ、まだ渋いけど……お姉ちゃんのお友達のためなら……っ!」
だいちゃんがふらふらと右腕を掲げる。
「ステータス・オープン!!」
ブンッ――。
半透明のウィンドウが、舞香の目の前に展開された。
【名前:舞香】
【称号:魔法使いクロさんの杖・小悪魔】
「……杖?」
舞香が目をぱちくりさせる。
私はその表示を見て、思わず吹き出した。
「ぶふっ……!」
「ちょ、加奈!? なんで笑うの!?」
「だ、だって……私は“足”なのに……舞香、“杖”なんだもん……!」
「えっ、じゃあ私の方がランク上!?」
「そこ喜ぶところなの!?」
すると、左手のクロさんが得意げに鼻を鳴らした。
「当然だ。俺様ほど高貴な魔法使いともなれば、足ではなく杖を従えるに決まっている」
「ふふーん、聞いた? 加奈」
舞香が勝ち誇った顔で胸を張る。
「今日から私は“杖系女子”だから」
「そんなジャンル聞いたことないわよ……!」




