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17.接続実験

夜の安アパートは静かだった。

私のベッドでは、舞香がすやすや眠っている。

右手にはだいちゃん。

そして左手は――舞香と恋人繋ぎ。

さらに、舞香の左手にはクロさん。

……うん、状況だけ切り取ると意味が分からない。

「緊張して眠れん……」

こんな状態で本当に異世界に行けるのか。

いや、行けたとして、ちゃんと帰ってこられるのか。

考え始めると余計に目が冴えてくる。

「いやいや、頑張って寝ないと……」

私は深呼吸し、無理やり目を閉じた。



次に目を開けた瞬間――。

見慣れたアパートの天井ではなく、森の中の柿の木の下の世界が視界に飛び込んできた。

渋柿を食べた続きの世界に来たようだ。


私は反射的に右手を見る。

だいちゃんは、まだ渋柿ダメージを引きずっていた。

口の中がつらいのか、ボタンの目が今にも泣きそうに見える。

「だ、大丈夫……?」

私は思わず、右手ごとだいちゃんを抱え込む。

「うぅ……まだ渋いぃ……」

勇者とは思えない情けない声だった。

周囲を見回していた私は、そこでようやく気付く。

目の前で、舞香がきょろきょろと辺りを見渡していた。

舞香の左手には、もちろんクロさん。

そして――。


「だ、誰だお前は!?」

クロさんが素っ頓狂な声を上げた。

「俺様をはめているこの不届き者は!」

左手のクロさんが、目を丸くしてパニックを起こしている。

……いや、ボタンだけど。

それもそのはずだ。

いつもなら、私の左腕に直結して動いていたはずのクロさんが、今は見知らぬ小柄な女の子の左手にはめられているのだから。

「わぁ……本当に来ちゃった」

舞香は目を輝かせながら、森の周囲を見回した。

「すごーい! ここが加奈の言ってた異世界!?」

テンションが高い。

初異世界のリアクションとは思えないくらい高い。

その声に、だいちゃんがぴくりと反応した。

「ぐぇ、ごほっ……。そのお姉ちゃん、見たことある……。いつも加奈お姉ちゃんと一緒にいるよね……」

「あはは、だいちゃん大丈夫?」

舞香がしゃがみ込み、だいちゃんの顔を覗き込む。

「勇者なのに渋柿でやられてるの、ちょっと面白いね」

「わ、笑い事じゃないよぉ……」

だいちゃんは半泣きだった。

その様子を見ながら、舞香が突然ぱっと顔を輝かせる。

「あっ、そうだ加奈!」

「な、なに?」


「私のステータスってどうなってるの!?」


やっぱりそこ気になるんだ。

すると、だいちゃんがぐったりしたまま右手を持ち上げた。

「ぼ、ぼくに任せて……。うぅ、まだ渋いけど……お姉ちゃんのお友達のためなら……っ!」

だいちゃんがふらふらと右腕を掲げる。

「ステータス・オープン!!」

ブンッ――。

半透明のウィンドウが、舞香の目の前に展開された。


【名前:舞香】

【称号:魔法使いクロさんの杖・小悪魔】


「……杖?」

舞香が目をぱちくりさせる。

私はその表示を見て、思わず吹き出した。

「ぶふっ……!」

「ちょ、加奈!? なんで笑うの!?」

「だ、だって……私は“足”なのに……舞香、“杖”なんだもん……!」

「えっ、じゃあ私の方がランク上!?」

「そこ喜ぶところなの!?」

すると、左手のクロさんが得意げに鼻を鳴らした。

「当然だ。俺様ほど高貴な魔法使いともなれば、足ではなく杖を従えるに決まっている」

「ふふーん、聞いた? 加奈」

舞香が勝ち誇った顔で胸を張る。

「今日から私は“杖系女子”だから」

「そんなジャンル聞いたことないわよ……!」

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