15.渋柿
「……で、薬草ってどこに生えてるのよ」
私は森の中を歩きながら、ぐったりした声を漏らした。
右手ではだいちゃんが木の枝をぺしぺし叩き、
左手ではクロさんが偉そうに鼻を鳴らしている。
「ふん。薬草など、そこら辺の草と何が違う」
「えー? クロちゃん分かんないのー?
薬草はね、なんか“薬草っぽいオーラ”が出てるんだよ!」
「クロちゃんじゃねぇ!」
また始まった。
私は深いため息をつく。
「お願いだから静かにして……。
私、薬草取りして、仮眠室で寝て、平和に現実へ帰りたいだけなの……」
その時だった。
「あっ!」
右手のだいちゃんが、ぴょこんと跳ねた。
「見て見て! 柿だ!」
視線を向けると、森の奥に一本だけ大きな木が立っていた。
枝にはオレンジ色の実がたくさんぶら下がっている。
確かに、見た目は完全に柿だ。
そして、その根元には――。
「あっ、あった! これ薬草じゃない!?」
私はしゃがみ込み、緑色の葉を摘み取った。
「やったぁ! これ採って帰れば依頼達成――」
そこまで言った瞬間。
「いただきまーす!」
「えっ」
ガブッ。
だいちゃんが、柿にかじりついた。
私は数秒遅れて、ギルド受付の言葉を思い出した。
――その柿みたいな実、ものすごく渋いから絶対に食べちゃダメ。
「あっ、待っ――」
遅かった。
「……ッッッ!!!!」
だいちゃんの動きが、完全に凍りついた。
ボタンの目が、限界まで見開かれ(たような気がし)、布の体がブルブルと激しく痙攣を始める。
「だ、だいちゃん……?」
恐る恐る声をかけると、次の瞬間、だいちゃんは泡を吹かんばかりに(布だけど)のたうち回り、凄まじい絶叫を上げた。
「ぐ、ぐああああああああああーーーッッ!!!??
し、渋い!! 渋すぎるよお姉ちゃん!! 舌が消える! 僕の綿の身体がバサバサになるぅぅぅーーーッッ!!!」
「ひゃああっ!?」
「おい、布切れ! うるさ――」
左側でクロさんが何か言いかけた気がしたが、それを聞き届ける余裕はなかった。
世界がぐにゃりと歪み、私の意識は強烈な勢いで後ろへと弾き飛ばされた。
◇
「……ぶぁぁぁぁぁぁぁぁーーーいっっっ!!!???」
あまりの衝撃に、私はベッドから跳ね起きるようにして叫んでいた。
口の中に強烈な渋みが残っているような錯覚に襲われ、
思わず自分の舌を押さえる。
「はっ……はぁ、はぁ……っ!」
視界に入ってきたのは、眩しい朝の光と、見慣れた安アパートの天井。
私は自分の両手を見た。右手のだいちゃんも、左手のクロさんも、いつもの大人しい布の塊に戻っている。
「……夢……? ううん、違う、前にもあった、足である事に驚いて
現実に戻った事、多分それと同じ」




