13.新たなクエスト
ギルドの掲示板には、今日も大量の依頼票が貼り出されていた。
モンスター討伐、護衛依頼、迷子のペット探し。
その中から私は、一枚の緑色の依頼票をぺりっと剥がす。
……いや、実際には剥がしたのはクロさんだけど。
「うん、これなんか良さそうね」
私が選んだのは、町の近くで薬草を採取するだけの地味な依頼だった。
すると、右手のだいちゃんが露骨に不満そうな声を上げる。
「えーっ? なんで今さら薬草取りなのー?
モンスター倒そうよ!」
「ダメよ。クロさん、まだレベル1なんだからね?」
私は左手をちらりと見る。
「せっかく作ったばっかりなのに、もし傷ついたらどうするのよ」
すると、左手のクロさんが鼻を鳴らした。
「ふん。俺様ほど高貴なオオカミが、低級モンスターごときに後れを取るわけがなかろう」
ボタンの目が、やたら偉そうに細められる。
「そもそも、俺様は強い」
「だよねー! せっかくなら戦おうよー!」
だいちゃんまで便乗して騒ぎ始めた。
「ダメ、絶対!!」
私がぴしゃりと言い切ると、二匹は同時に「えぇー……」と不満げな声を漏らす。
すると、だいちゃんが呆れたように言った。
「でもさぁ、薬草取りなんて、お姉ちゃんが地味にしゃがんで草むしりするだけじゃん」
右手がぷらぷら揺れる。
「僕たち、ただの泥よけ手袋になっちゃうよ?」
「……いいの」
私はわざとローテンションで答えた。
本当の目的は別にある。
適度に歩いて、適度に疲れて、それからギルドの仮眠室で眠ること。
――そうしないと、現実へ帰れない気がするのだ。
以前、自分の称号が『足』だと知って、ショックで飛び起きたことがあった。
でも、それ以外に“帰る条件”らしきものは、未だによく分かっていない。
ここが夢なのか、異世界なのか、それすら曖昧なままだ。
だったら、無理に危険を冒す必要なんてない。
「やっぱり、薬草採取で適度な運動ね!」
私はぶつぶつ文句を言う二匹を無視して、受付へ依頼票を差し出した。




