12.ステータス
「うう……もう、二人ともいい加減にしなさいってば!」
左右に引き裂かれそうな両肩の痛みに耐えかねて、私はついに一喝した。
すると、だいちゃんとクロさんはようやく掴み合いを止める。 けれど、お互いにそっぽを向いたまま、空気は険悪そのものだった。
そんな重苦しい空気を察したのか、右手のだいちゃんがボタンの目をパチパチさせながら、わざとらしく話題を変えた。
「あれ? そういえば加奈お姉ちゃん、自分のも見てみなよ。クロさんが増えたんだから、ステータス変わってるかもよ? ――ステータス・オープン!」
「ダメぇぇ!!」
私は反射的に叫び、両目をぎゅっと閉じた。
見たくない。絶対に見たくない。
どうせまた、ろくでもない称号に決まっている。 【勇者だいちゃんと魔法使いクロさんの足】とか、そんな感じだ。
二人の布切れに都合よく使われる移動手段――それが私なのだ。 これ以上、人間としての尊厳を削られるウィンドウなんて見たくなかった。
「おい、何を怯えている。見苦しいぞ、足の分際で」
「そうだよ、お姉ちゃん。現実を見よう?」
左右の騒音源が好き勝手に急かしてくる。
……けれど、そこまで言われると、逆に気になってしまうのが人間というものだ。
「……ほんの、ちょっとだけよ」
私は恐る恐る片目を開き、目の前に浮かぶ半透明のウィンドウを覗き込んだ。
【名前:加奈】 【称号:勇者だいちゃんの足・召喚術師】
「…………えっ?」
私は瞬きを忘れた。
足。 そこまでは、いつも通り。
けれど、その後ろに続く四文字が、私の理解を完全に追い越していた。
「……召喚術師?」
私は思わず両目を見開いた。 そこにあったのは、いつもの理不尽な称号ではなく、やけにファンタジーで、やけに主人公っぽい響きを持つ言葉だった。
「しょ、召喚術師……!? なにこれ、私がクロさんを呼び出したってこと!?」
私の驚きを肯定するように、左手のクロさんがこれみよがしに腕――正確には私の左腕――を組み、フンと鼻を鳴らした。
「ふん、ようやく合点がいった。道理で俺様ほど高貴なオオカミが、こんな見知らぬ土地に突如として現れたわけだ」
クロさんは芝居がかった口調で続ける。
「お前が夜通し呪文――裁縫を唱え、魔力――睡眠を使い果たして、この俺様をこの世界へ顕現させたのだな」
「えっ、クロさんって召喚されて来たの!?」
……言われてみれば、確かにそうだ。
だいちゃんは“夢の続き”みたいな存在だった。 でもクロさんは違う。
私はちゃんと起きた状態で、「新しい相棒を作ろう」と思って、針と糸でこの子を生み出した。
この世界では、それを『召喚』と呼ぶらしい。
「すごーい! 加奈お姉ちゃん、足のくせに召喚術師だったんだね!」
だいちゃんが純粋に感動したように、パチパチと拍手――私の右手を動かしながらはしゃぐ。
「……嬉しいけど、前半の『足のくせに』が余計よ」
けれど、胸の奥には不思議な高揚感があった。
【勇者だいちゃんの足・召喚術師】。
……うん。 前半は圧倒的にダサい。 でも、後ろ半分は確実にランクアップしている。
「よし! 俺様を召喚した主よ!」
クロさんが得意げに胸を張る。
「召喚されたからには、この世界で大暴れしてやろう。まずは小手調べに、さっきから生意気な布切れを灰にしてやる。俺様をあいつの前まで移動させろ!」
「させるかー! 僕の聖剣で、お前の鼻を削いでやるー!」
「ひぃぃ! だから喧嘩すんなっての!」
私の左右の腕が、再びバチバチと火花を散らし始める。
召喚術師なのに、やっていることは犬の散歩係である。
「ほら! ギルド行くわよ、ギルド!」
結局、召喚術師(兼・移動担当)になった私は、左右でキャンキャン吠え合う勇者と魔法使いを無理やり引き連れ、再び町へ向かって歩き出すのだった。




