11.クロさん登場
「やあ、僕だいちゃん。よろしくね!」
右手のだいちゃんが、いつも通りの無邪気な声で挨拶する。対して、左手のクロさんは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「ふん。俺様はオオカミのクロさんだ。ついさっき目覚めたばかりの新参者だが……、おい、そこのお前、ちゃんと俺の思うとおりに歩け」
左のクロさんがグイッと腕を引っ張るので、私がそっちへ足を進めると、今度は右のだいちゃんがその場に立ち止まる。私の両腕はこれ以上広がらない。右と左に同時に引っ張り合われ、私はその場で完全に動きを封じられてしまった。
そんな私の苦労はそっちのけで、だいちゃんはクロさんを見つめ、無邪気に首を傾げた。
「そっか、クロちゃんよろしくね! ねぇねぇ、クロちゃんのステータスはどうなってるの?」
「クロちゃんじゃねぇ、クロさんだ! ……おい、新入りの俺様を舐めるなよ。ステータス・オープン!」
クロさんが吠えると、私の左目側に新たな半透明のウィンドウが展開された。
【名前:クロさん】
【称号:魔法使い】
【レベル:1】
「えっ、クロさん魔法使いなのー!? いいなぁ、かっこいい! ……あっ、そうだ! 加奈お姉ちゃん、前に約束してた僕の『魔法使いの帽子』は!?」
ボタンの目をキラキラさせて振り返るだいちゃん。
――ギクッ、とした。
しまった……! 演劇サークルのことで頭がいっぱいで、完全に忘れてた。
「あ、えっと……ごめん! まだ魔法使いの帽子、作れてないの。現実に戻ったら大急ぎで縫うから、次にここで目が覚めた時には絶対に持ってきてあげる。うん、約束!」
私が冷や汗を流しながら言い訳をすると、すかさず左手から鋭いツッコミが飛んできた。
「おい、ちょっと待て。俺様が『魔法使い』なんだから、その魔法使いの帽子とやらは、当然この俺様のものになるんじゃないのか?」
「えーっ! ずるいよ、僕が最初に頼んだんだもん!」
「職業適性を考えろ、この布切れめ! 勇者のくせに魔法使いの帽子を被るなんて、おこがましいわ!」
「なんだとー!」
私の両手が、私の顔の前で激しい掴み合い(?)を始めようとする。左右に強引に引っ張られて、私の両肩がめちゃくちゃ痛い。
「わー! 待って待って、喧嘩しないで! ――わかったわよ、二つお揃いのやつを作ればいいんでしょ! 二つ!」
私の絶叫に、右手と左手はピタリと動きを止めた。
……ハァ、ハァ、朝からなんてエネルギーを使わせるのよ、この布の塊たちは。
ていうか、怖くて確認する勇気はないけれど、もし今私の目の前にステータスウィンドウを開いたら……。
【称号:勇者と魔法使いの両方の足】
きっと、そんなことになっているに違いない。




