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10.演劇サークル

配信を辞めてから三週間。


夜のアパートは、前より静かになった。

けれど私は、不思議と寂しくはなかった。


演劇サークルは忙しい。

台本読み、発声練習、小道具制作。


そして今、私は――。



「よーし、これでよし……! できたぁっ!」


安アパートの床で、私は完成したばかりのパペットを高く掲げた 。

黒いフェルトの毛並みに、ちょっとだけ強気な釣り目のボタンの目。


演劇サークルにだいちゃんを持っていったら、

監督がやたら気に入ってしまった。


「もう一匹ほしいな。ライバル役で」


そんな軽いノリで頼まれた結果、

私は徹夜で新しいパペットを縫う羽目になった。


そこで私は、久しぶりに裁縫道具を引っ張り出してパペット作成に励んでいた。

だいちゃんが元々「狸」をモチーフにして作られているため、サークルのシナリオライターとも相談し、もう一匹はライバル役としてオオカミモチーフの『クロさん』にすることが決まった。


今度のサークルの劇は、みんなの演技に混じって、だいちゃんとクロさんという二匹のパペットキャラクターが登場するお話になるらしい。


不器用な私が、夜通し必死に針を動かして仕上げた自信作だ 。


「ふふ、我ながら可愛くできたじゃん。……よし、ちょっとだけテストね」


私は右手にいつものだいちゃん、そして左手に出来立てホヤホヤのクロさんを装着した 。


「やぁ、クロちゃん! 僕と一緒に演劇サークルで大活躍しようよ!」 「クロちゃんじゃねぇ、クロさんと呼べ」


両手を交互に動かしながら、一人二役でセリフを掛け合わせる 。

我ながら寂しい一人遊びだけど、声優の卵としては良い掛け合いの練習になるのだ 。


「あはは、楽しい……。でも、さすがに徹夜で縫い物は疲れたなぁ……」


激しい睡魔が容赦なく襲ってくる 。

私は両手にパペットをはめたまま、抗えずに畳の上へと沈み込んでいった―― 。



「……痛っ!? ちょっと、誰よ私の左手踏んでるの!」


自分の声に驚いて、ハッと目が覚めた 。

視界に飛び込んできたのは、見慣れたアパートの天井ではない 。

どこか懐かしいドット絵の世界を無理やり高精細な3Dに描き直したような、あの『ミクスの町』の広場だった 。


「しまった、気付いたら寝ちゃったんだ、二人をはめて……」


ガバッと起き上がると、右腕にはもちろん、Cランク勇者のだいちゃん 。

そして、左腕には―― 。


「おい! そこのお前、さっきから俺様の邪魔をするな!」


低い、けれどどこか少年っぽさの残るハスキーな声 。

私の左手に収まったクロさんが、だいちゃんから離れて勝手に進もうとしているが

私の両手の長さは決まっているので、これ以上は進めなくなってしまうのだった。

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