10.演劇サークル
配信を辞めてから三週間。
夜のアパートは、前より静かになった。
けれど私は、不思議と寂しくはなかった。
演劇サークルは忙しい。
台本読み、発声練習、小道具制作。
そして今、私は――。
◇
「よーし、これでよし……! できたぁっ!」
安アパートの床で、私は完成したばかりのパペットを高く掲げた 。
黒いフェルトの毛並みに、ちょっとだけ強気な釣り目のボタンの目。
演劇サークルにだいちゃんを持っていったら、
監督がやたら気に入ってしまった。
「もう一匹ほしいな。ライバル役で」
そんな軽いノリで頼まれた結果、
私は徹夜で新しいパペットを縫う羽目になった。
そこで私は、久しぶりに裁縫道具を引っ張り出してパペット作成に励んでいた。
だいちゃんが元々「狸」をモチーフにして作られているため、サークルのシナリオライターとも相談し、もう一匹はライバル役としてオオカミモチーフの『クロさん』にすることが決まった。
今度のサークルの劇は、みんなの演技に混じって、だいちゃんとクロさんという二匹のパペットキャラクターが登場するお話になるらしい。
不器用な私が、夜通し必死に針を動かして仕上げた自信作だ 。
「ふふ、我ながら可愛くできたじゃん。……よし、ちょっとだけテストね」
私は右手にいつものだいちゃん、そして左手に出来立てホヤホヤのクロさんを装着した 。
「やぁ、クロちゃん! 僕と一緒に演劇サークルで大活躍しようよ!」 「クロちゃんじゃねぇ、クロさんと呼べ」
両手を交互に動かしながら、一人二役でセリフを掛け合わせる 。
我ながら寂しい一人遊びだけど、声優の卵としては良い掛け合いの練習になるのだ 。
「あはは、楽しい……。でも、さすがに徹夜で縫い物は疲れたなぁ……」
激しい睡魔が容赦なく襲ってくる 。
私は両手にパペットをはめたまま、抗えずに畳の上へと沈み込んでいった―― 。
◇
「……痛っ!? ちょっと、誰よ私の左手踏んでるの!」
自分の声に驚いて、ハッと目が覚めた 。
視界に飛び込んできたのは、見慣れたアパートの天井ではない 。
どこか懐かしいドット絵の世界を無理やり高精細な3Dに描き直したような、あの『ミクスの町』の広場だった 。
「しまった、気付いたら寝ちゃったんだ、二人をはめて……」
ガバッと起き上がると、右腕にはもちろん、Cランク勇者のだいちゃん 。
そして、左腕には―― 。
「おい! そこのお前、さっきから俺様の邪魔をするな!」
低い、けれどどこか少年っぽさの残るハスキーな声 。
私の左手に収まったクロさんが、だいちゃんから離れて勝手に進もうとしているが
私の両手の長さは決まっているので、これ以上は進めなくなってしまうのだった。




