表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【休載中】(初稿版)本能寺は止めない、だが光秀は死なせない 〜未来を知る将軍・足利義昭、戦国を動かす〜  作者: 細川 雅堂
第七章 無音の包囲網

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/37

第三十一話 見えない壁

安土城の門は、開いていた。

門番は深く頭を下げ、家臣もすれ違うたびに丁寧に礼をする。


だが──誰も、目を合わせない。


光秀の草履が畳を擦る音だけが、廊下に細く、虚しく伸びていく。

すれ違う家臣たちは、まるでもののけのように、呼吸の音すらさせなかった。


光秀の耳の奥で、自分の心臓の音だけが、

ドクン、ドクンと、畳を叩くように低く響いていた。



安土の一室。

秀吉は、一心不乱に算盤を弾いていた。


顔を上げぬまま、光秀へ声をかける。

「おお、光秀様。京は……どうでしたやろな」


何でもない世間話の調子。

だが、その視線は算盤の珠に落ちたまま動かない。


パチリ。


秀吉は、合っているはずの珠を、ひとつだけ弾き直した。

その直後──。


秀吉は壊れた珠を、指先でゆっくりと一周なぞった。


二呼吸。

満足げに小さく頷くと、顔を上げないまま言った。


「……よう動いとりましたわ」


光秀の返事は、秀吉が再び弾いた算盤の音に吸い込まれて消えた。


パチリ。パチリ。



大広間。

信長は、広げられた地図を凝視していた。


光秀が、じりじりと近づく。

信長は、顔を上げない。


「信長様──」


「光秀。京は、もうよい」


その一言だけが、冷たく床に落ちた。

光秀の声は、地図の上を滑って消えた。


信長は、最後まで光秀を一度も見なかった。



光秀が城を出る。


ふと振り返ると、巨大な城門は──

いつの間にか、ぴたりと閉じていた。


音は、なかった。


白く乾いた地面に、光秀の影だけが、

拒絶された者のように長く伸びていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ