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【休載中】(初稿版)本能寺は止めない、だが光秀は死なせない 〜未来を知る将軍・足利義昭、戦国を動かす〜  作者: 細川 雅堂
第五章 京の陰謀

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第二十五話 朝廷の沈黙

将軍暗殺未遂の噂は、ついに御所へ届いた。

京の空気は重い。


公家たちは顔を寄せ合い、声を潜めて話していた。


「将軍が襲われた」

「京の治安が揺れている」

「犯人は誰だ」


そして──

誰かが言った。


「……織田ではないか」


空気が止まった。

誰も肯定しない。

誰も否定しない。


ただ、恐れだけが広がっていく。



御所の一室。

公家たちが集まり、議論が続いていた。


「将軍を守るべきでは」

「いや、織田を責めるべきか」

「しかし……信長を敵に回すのは……」


信長は今や天下最大の武力。

誰も正面から敵に回したくない。

議論は堂々巡りだった。

結論は出ない。



やがて、朝廷は結論を出した。

それは──


「何もしない」


という結論。

つまり、沈黙。


公家たちは安堵し、同時に怯えた。

沈黙は、責任を負わない。

沈黙は、誰も守らない。

沈黙は、京の空気をさらに重くした。



光秀は義昭のもとへ急いだ。


「将軍様……朝廷は……何も言いません」


光秀の声には困惑があった。


「将軍が襲われたのに……

何も動かないのです」


義昭は驚かなかった。

むしろ、静かに言った。


「それでよい」


光秀は息を呑んだ。



義昭は庭を見たまま言った。


「朝廷は動いた」


光秀は理解できなかった。


「……動いた、のですか」


義昭は頷いた。

光秀は言葉を失った。


光秀はようやく理解した。

朝廷は迷っていない。

ただ、戦わないだけだ。


そして──

その沈黙が、京の争いをすべて武家へ押し返したのだ。



義昭は静かに言った。


「沈黙は政治だ」



「言葉より重い」


光秀は息を呑む。

義昭は続けた。


「朝廷は今」

「織田を守らず」

「将軍も守らない」

「つまり」

「京の争いを」

「武家に押し返した」


光秀は震えた。


(……これが政治)

(沈黙が……動かしている)



義昭は静かに言った。


「朝廷は血を流さぬ」



「だが」

「国は動かす」


光秀の背筋が震えた。



義昭は光秀に問う。


「光秀」

「信長はどうする」


光秀は答えられなかった。


信長は疑われている。

朝廷は沈黙した。

誰も守らない。


義昭は静かに言った。


「疑われ」

「朝廷に守られず」

「沈黙される」



「信長は必ず動く」


その時──

廊下から足音が響いた。


「将軍様!」


伝令が駆け込む。

「安土から使者が!」


義昭は目を細めた。


(動いたか)


光秀は気づいた。

将軍は驚いていない。

最初から

信長が動くことを読んでいたのだ。

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