第二十六話 信長の反応
京の噂は、安土へ届いた。
将軍暗殺未遂。
黒幕不明。
織田への疑い。
安土城の空気がざわつく。
家臣たちは落ち着かず、廊下を行き交う足音が絶えなかった。
柴田勝家が声を荒げた。
「将軍め……! 織田を疑うとは!」
丹羽長秀は慎重だった。
「しかし、朝廷も沈黙しております」
「下手に動けば、疑いを認める形になります」
家臣たちは判断に迷っていた。
怒るべきか。
動くべきか。
沈黙すべきか。
誰も答えを持っていなかった。
その中で、秀吉だけが笑っていた。
だが、目は笑っていない。
「将軍様は、犯人を探しておりませぬ」
家臣たちが振り返る。
秀吉は続けた。
「疑いを……流しておられる」
空気が揺れた。
「な、何を言う……!」
「将軍がそんなことを……!」
秀吉は静かに言った。
「将軍様は、武ではなく“噂”で戦っておられます」
家臣たちは息を呑んだ。
その時、廊下の奥から足音がした。
信長だった。
家臣たちは道を開ける。
信長は周囲を一度見渡した。
ざわついていた城内の空気を、
一瞬で理解したようだった。
信長はしばらく黙っていた。
京の噂。
朝廷の沈黙。
織田への疑い。
それらを頭の中で並べ替えているようだった。
やがて、静かに言った。
「将軍は」
「噂で戦っておる」
家臣たちは驚いた。
信長は小さく笑った。
「将軍は」
「国を動かす」
「ならば」
「遊ぶか」
秀吉は息を呑んだ。
信長の“遊ぶ”は、
敵意でも味方でもない。
ただ、盤面を楽しむ者の言葉だった。
信長は秀吉を見る。
「猿」
秀吉は膝をついた。
「はっ」
「将軍を見ておけ」
秀吉は深く頭を下げた。
「承知」
秀吉の内心に、震えが走った。
(将軍様……)
(信長様と同じだ)
(未来を見る人間だ)
信長は京の方角を見る。
「将軍」
「天下を動かす気か」
信長は言った。
「ならば」
「天下で遊ぶとしよう」




